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魂の継承者〜導く力は百万の前世〜  作者: 末野ユウ
第六章 滅亡の因縁
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『出動』

 永きに渡り北部の国境を守り続け、モンスター・テイマーによる魔物の襲撃にも耐えた北の砦。

 統治するブルボノも誇る堅牢不倒の象徴は、瓦礫の山と化していた。


「ぐ、くっ」

「うぅ……」


 兵士たちの苦しむ声だけが、北の大地に流れている。

 精霊王たちの咄嗟の防御で、本来ならば跡形もなく消し飛ぶほどの威力が半減された。しかしそれでも被害は甚大で、頼みの四大精霊王も力なく倒れている。

 風も吹かず、鳥や虫の泣き声すら聞こえない。血と土の匂いが鼻につく、さながら地獄のようだった。


 グオオオオ。


 元のサイズに戻った魔喰は、再び進みだした。

 しかし、進行を止める砦はもうない。辛うじて意識のある者も、戦意など残ってはいなかった。

 ただ、一人を除いて。


 コツン。


 小石が魔喰の頭に当たる。

 だが、矢のような効果はなく、魔喰は気にも留めない。


「どこ、行く気だ、てめぇ」


 血だらけのシュウが立ち上がり、魔喰を睨みつける。

 激しい打撲で骨は折れ、流れる血は止まる気配がない。だが、息子から託されたミスリルの魔剣だけは、しっかりと握られていた。


「そっちには、俺の家が、あるんだよ。ナミラが、帰る、場所がある……ファラが、いるんだよ!」


 右足を引きずり、正面に立ち塞がった。

 

「絶対に、行かせねぇ! てめぇに、喰わせる、焼き菓子なんて、ねぇんだ!!」

 

 血を吐きながら剣を向け、命がけの咆哮を発した。

 しかし、魔喰は止まらない。

 死にかけの人間など、僅かな食べ残しに等しい。ゆっくりとした歩みに、少しの乱れも生じさせることはない。


「いやあああああああああああああ!」


 そのとき、守るべき故郷がある背後から、悲痛な叫びが聞こえた。


「なんで俺がこんな目に! 俺は新しい馬車がほしいって言ったんだ。なんでゴムダム印の戦車チャリオットなんだよ!」


 シュウや砦の兵士には聞き覚えのある男の声。

 行商人、ゲルトの悲鳴だった。


「まぁまぁ。こっちのほうが、私はカッコいいと思うけど」

「ね、ねぇ。砦ないんだけど! どうするの?」

「このまま突っ込む! お前ら、気合い入れろよ!」


 ゲルトの愛馬ジョンとニュートンが引く車内に、戦意を抱く者たちがいた。


「あああああああ! もうどうにでもなれええええええ!」

「いっけえええええええ!」


 瓦礫の山とシュウを飛び越え、黒光りする重厚な戦車が現れた。

 同時に、地獄と化した北の大地に。

 勇気と希望に満ちた声が響き渡る。


「「「出動! テーベ村騎士団!」」」


 中から飛び出し、華麗に着地した少年少女たち。

 ダン、デル、アニ。

 世界の危機に、テーベ村騎士団が参上した。


「あれが敵だな」


 ダンが鼻息荒く呟いた。


「う、うわぁ……思ってた以上のピンチ」


 デルは周囲を見回し、苦笑いを浮かべた。


「ひどい怪我……シュウさん、大丈夫ですか?」


 アニがシュウに駆け寄る。


「お前ら、なんで来た!」


 心配するアニを止め、傷だらけのシュウが怒鳴る。

 生まれたときから成長を見守ってきた子どもたち。息子の親友をこんな相手と戦わせるなど、到底見過ごせることではない。


「だってよ、このままあれ放置したら村だって危ねぇだろ? だったら、俺様たちの出番だろ」

「馬鹿! 盗賊団とは次元が違うんだ! 見ろ、ガルフ様や精霊王だって」

「大丈夫」


 自信をもって言い切るアニの目は、真っすぐに澄んでいた。


「魔喰でしょ、あれ。だったら、この前の日曜勉強会でナミラが話してました。そのあとで、私だけ詳しく聞いたんですよ。以前は精霊族だったから試せなかったけど、物理攻撃や闘技なら、もっと戦えたはずだって言ってたんです。なら、私たちだって」


 アニは双剣を抜き放ち、笑った。


「だ、だが」

「そりゃあ、怖いですよ? でも、この場の誰よりも今の僕たちのほうが戦えそうじゃないですか?」


 デルも仮面を付けてナイフを構え、ケラケラと笑った。


「勝てるかは分かんねぇけどよ。でも、ナミラが来るまでの時間稼ぎはしてやるぜ……悔しいけどよ」

「そういう意味だと、ガルフ様は責められるべきだね」

「だな」


 ダンがのっそりと斧を担ぎ、デルと笑い合った。


「本当だよ。私だって、モモちゃんと仲良くなりたかったんだから!」

「まだ言ってんのかそれ」

「だってー!」


 戦場とは思えない、キラキラと輝く光景。

 いつの間にか、恐怖で震え動けなかった者たちに笑みが浮かんでいた。


「儂は、本当に余計なことをしたのじゃな」


 意識を取り戻したガルフが、瓦礫の上で己の愚かさを嘆いた。


「んじゃ、やるぜ」


 先程まで馬防柵が立てられていた位置に、魔喰が足を踏み入れた。

 三人が呼吸を整え、敵意を向ける。


「作戦通りだ! お前ら、死ぬんじゃねぇぞ!」

「「応!」」


 ダンは唸りながら、全力で闘気を練り始めた。

 同時に、アニとデルが走り出す。


鳥爛舞闘ちょうらんぶとう

「道化殺法」

「「共演きょうえん」」


 二人の声が重なり、一足先にアニが飛び出す。

 距離が迫り、デルが空高く跳んだ。


「「鳥蟲戯呀ちょうちゅうぎが!」」


 降り注ぐデルのナイフ。

 闘気が込められた刃の雨をすべて受けた魔喰は、動きが止まった。


「はあっ!」


 その隙を縫って、アニが斬りかかる。

 触れれば死の危険がある相手にも、臆することなく立ち向かった。

 斬りつけるアニとタイミングをズラし、その背後や別方向からデルがナイフを投げつける。二人の攻撃は絶え間なく、その動きは踊りを思わせるほど美しく、見守る者たちの目を釘付けにした。


「これは……」


 十万年を生きるガルダすら目を丸くした。

 微かな風に乗って聞こえる戦闘音が、まるで音楽のようだった。


 グオオオッ!


 突然、終始棒立ちだった魔喰が吠える。

 右手の本体でアニに斬りかかった。


「おっと」


 完全に虚を突かれたアニ。

 しかし、全体を見ていたデルがこれに反応した。巻きつけた糸でアニを引っ張り、攻撃を躱しながら距離を取らせた。


「ありがとう、デル!」

「ホッホホウ! おまけで……喝っ!」


 技巧手袋トリック・グローブで決められた印を結ぶと、魔喰に刺さったナイフの闘気が爆発した。

 煙の中で、漆黒の体がうねる。


「充填完了だぁ! 離れろぉ!」


 ダンの大声が響くと、二人は一目散に後ろへ下がった。


「あぁは言ったけどよ、俺様は倒す気でいるからな。ナミラにも負けねぇ、新しい必殺技だ。いくぜ、ウルティマ!」


 構えた斧には、凄まじい量の闘気が宿っていた。


斬竜豪衝波ざんりゅうごうしょうは!」


 強大な闘気の竜が、魔喰に向けて放たれた。

 ナミラが放つものよりも太い腕を振りかざし、慈悲の欠片も感じられない。

 黒き体は光を身に受け、荒々しい爆発に飲み込まれた。


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