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魂の継承者〜導く力は百万の前世〜  作者: 末野ユウ
第六章 滅亡の因縁
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『復讐』

「『地王の絶対城壁(タイタン・ウォール)』!」


 次の瞬間、大地が壁のように隆起した。

 さらに土からオリハルコンに変化し、幾重にも重なる。ギリギリまで削られながらも、なんとか攻撃を防ぎ切った。


「間に合ったようだな」


 再び頭上で声が聞こえ、全員が見上げる。


「精霊王様!」


 シュウが歓喜の声を上げる。

 等身大ではなく、元の巨大な姿の四大精霊王たちが現れた。初めて姿を拝む兵士たちは、助っ人の登場にもかかわらず呆然とし跪いて祈る者までいた。


「来てくれたのですね!」

「……精霊族の王たちよ、貴方たちが揃って参上するとは。あれは、そこまでの存在なのですか?」


 なんとか立ち上がったガルフが聞いた。


「無論だ……むしろ、あれは我らの獲物である。下がっていろ」


 ガルダが今まで見たこともないほど、険しい顔で睨んでいる。


「燃える燃える! このときをずっと待っていたぁ!」


 イフリートが吠える。


「私たちの因縁。そして宿敵!」


 カリプソが牙を剥く。


「十万年ぶりの再会じゃて。全身全霊で相手せねば」


 タイタンの拳が力強く握られた。


「奴の名は魔喰まくい! かつて万象王ゼノ様を葬り、世界を滅亡寸前まで追い詰めた厄災の剣である!」


 ガルダの声には反応を示さず、魔喰は不気味な歩みを再開した。


「ば……万象王を、葬った?」

 

 ガルフは言葉が続かなかった。

 呆然としているうちにシュウに引きずられ、正門の前まで避難した。


「魔喰よ。我らはお前が万が一復活したときのため、この身に力を溜め続けてきたのだ! 遠慮なく喰らうがいい、これは我らの復讐である!」


 暴嵐、豪炎、奔流、地震。

 それぞれが倒すべき相手への殺意を持った。


「『風王の断罪(ガルダ・テンペスト)!』」

「『炎王の(イフリート・)憤怒(エクスプロージョン)!』」

「『水王の(カリプソ・)拒絶(レヴィアタン)!』」

「『地王の蹂躪(タイタン・コア)!』」


 四元素を司る王たちの奥義。

 十万年もの間、世界を再生しながら溜め続けた力。そのすべてを込めた技は互いを高め、昇華し、ついにかつての万象王を超えた。


「す、すげぇ……」

「ここまでとは。まったく、儂もまだまだじゃな」


 シュウとガルフが感嘆の声を発した。

 人間の域を超えた力のぶつかり合いは、一生忘れられぬ光景だった。


「ふむ。力を小規模に留め、閉じ込める策は成功だの」


 タイタンが満足そうに頷いた。

 世界が破壊されてもおかしくはない強力無比な四つの奥義が、魔喰の周囲だけに留まっている。風火水地の力が暴れ回る、世界で最も危険な場所が誕生した。


「あったり前だ! 俺は今まで散々練習してきたからな!」

「あんただけじゃないわよ、イフリート」


 ドヤ顔のイフリートにカリプソがため息をつくが、表情は晴れ晴れとしていた。


「さて、人間たちよ。このまま待っていればいずれ終わる。安心するがいい。そして、我らが到着するまでの奮闘を褒め讃えよう。魔喰相手によくやった」


 事実上の勝利宣言に、砦中が歓喜の声に沸いた。


「ガルダ様。魔喰について教えていただけまぬか? 左手の顔は恐らく、凍花とうかの賢者と呼ばれた男。儂の兄弟子だった者です」


 悲しげな顔で、ガルフは頭を下げた。


「……そうであったか。うむ、よかろう」


 ガルダが頷き、遠い過去に思いを馳せた。


「あれがいつ、どうやって、誰が作ったのかは謎だ……いや、作られたものかどうかすらも定かではない。本体はあくまで剣だ。お前の兄弟子は、依代に選ばれたのだろう。頭が二つあったが、もう一人取り込まれたようだな」


 魔喰を攻め続ける半球を見つめながら、ガルダは続けた。


「かつても突然現れ、多くの命と魔素を喰い荒らした。ゼノ様は依代を倒すことには成功したが、その隙を突いて魔喰はゼノ様を次の依代にしようとした。それを食い止めるため、自らの肉体をクリスタルと化し封印したのだ」


 精霊王とナミラしか知らぬ古代の戦いを、ガルフはもちろん隣に立つシュウも真剣な顔で聞いていた。


「だが安心せよ。我ら四人の一撃は、かつて依代を屠ったゼノ様をも超えた。このまま本体も滅して」

「ガ、ガルダぁ!」


 カリプソが動揺を隠さず叫んだ。


「どうした」

「あ、あれ」


 魔喰を閉じ込める奥義に、水の精霊王が震える指先を向ける。

 四つの属性それぞれ最強の技が荒ぶっていた半球の塊。その中心に暗黒の人影が広がり、膨らむ大きさに比例して周りの技が消えつつあった。


「馬鹿な! 十万年前にこんなことはなかったはず! すでに依代は消し飛び、本体だけになっていても……」


 ガルダの脳裏に、十万年間思いもしなかった考えが過ぎった。


「まさか……あのときは、まだ覚醒してなかったのか?」


 その考えは的中しており、原因が依代となった若き皇帝にあるとは誰も知らない。

 ただ一人残らず、眼前の闇に恐れを抱いていた。


 ギギギガガガガガゴオオォォォ。


 ついに精霊王たちの奥義は喰い尽くされ、王たちの背丈をゆうに超える魔喰が産まれた。


「ふざけんなあああ!!」

「やるぞイフリート!」


 激昂したイフリートが炎の剣を、タイタンが大槌を構え襲いかかった。


「カリプソ!」

「わ、分かってる! 援護を」


 ガルダとカリプソは、遠距離から攻撃を加える。

 しかし、剣も槌も風も水も。

 すべて闇に喰われた。


「あり得ぬ、あり得てなるものか! 我らの十万年が……」


 四大精霊王たちは悔しさを滲ませ、足元の人間たちは先程よりも深い絶望に落とされた。


「な、なにをする気だ?」


 進行を再開するわけでも、剣を振るうわけでもなく。

 魔喰はその場で背を丸めた。


「いかん! 守りを!」


 狙いを察したガルダが叫ぶ。

 次の瞬間、魔喰は全身から魔力を放出した。


 

「きゃあああ!」


 同じ頃。

 テーベ村を爆風が襲った。

 北からやって来た不気味な風は、復興の進んだ村人の努力を台無しにし、瓦礫を伴って王都まで吹き抜けた。


「……シュウ」


 いたるところで悲鳴が上がる中、ファラは北を見つめながら愛する夫の名を口にした。

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