『復讐』
「『地王の絶対城壁』!」
次の瞬間、大地が壁のように隆起した。
さらに土からオリハルコンに変化し、幾重にも重なる。ギリギリまで削られながらも、なんとか攻撃を防ぎ切った。
「間に合ったようだな」
再び頭上で声が聞こえ、全員が見上げる。
「精霊王様!」
シュウが歓喜の声を上げる。
等身大ではなく、元の巨大な姿の四大精霊王たちが現れた。初めて姿を拝む兵士たちは、助っ人の登場にもかかわらず呆然とし跪いて祈る者までいた。
「来てくれたのですね!」
「……精霊族の王たちよ、貴方たちが揃って参上するとは。あれは、そこまでの存在なのですか?」
なんとか立ち上がったガルフが聞いた。
「無論だ……むしろ、あれは我らの獲物である。下がっていろ」
ガルダが今まで見たこともないほど、険しい顔で睨んでいる。
「燃える燃える! このときをずっと待っていたぁ!」
イフリートが吠える。
「私たちの因縁。そして宿敵!」
カリプソが牙を剥く。
「十万年ぶりの再会じゃて。全身全霊で相手せねば」
タイタンの拳が力強く握られた。
「奴の名は魔喰! かつて万象王ゼノ様を葬り、世界を滅亡寸前まで追い詰めた厄災の剣である!」
ガルダの声には反応を示さず、魔喰は不気味な歩みを再開した。
「ば……万象王を、葬った?」
ガルフは言葉が続かなかった。
呆然としているうちにシュウに引きずられ、正門の前まで避難した。
「魔喰よ。我らはお前が万が一復活したときのため、この身に力を溜め続けてきたのだ! 遠慮なく喰らうがいい、これは我らの復讐である!」
暴嵐、豪炎、奔流、地震。
それぞれが倒すべき相手への殺意を持った。
「『風王の断罪!』」
「『炎王の憤怒!』」
「『水王の拒絶!』」
「『地王の蹂躪!』」
四元素を司る王たちの奥義。
十万年もの間、世界を再生しながら溜め続けた力。そのすべてを込めた技は互いを高め、昇華し、ついにかつての万象王を超えた。
「す、すげぇ……」
「ここまでとは。まったく、儂もまだまだじゃな」
シュウとガルフが感嘆の声を発した。
人間の域を超えた力のぶつかり合いは、一生忘れられぬ光景だった。
「ふむ。力を小規模に留め、閉じ込める策は成功だの」
タイタンが満足そうに頷いた。
世界が破壊されてもおかしくはない強力無比な四つの奥義が、魔喰の周囲だけに留まっている。風火水地の力が暴れ回る、世界で最も危険な場所が誕生した。
「あったり前だ! 俺は今まで散々練習してきたからな!」
「あんただけじゃないわよ、イフリート」
ドヤ顔のイフリートにカリプソがため息をつくが、表情は晴れ晴れとしていた。
「さて、人間たちよ。このまま待っていればいずれ終わる。安心するがいい。そして、我らが到着するまでの奮闘を褒め讃えよう。魔喰相手によくやった」
事実上の勝利宣言に、砦中が歓喜の声に沸いた。
「ガルダ様。魔喰について教えていただけまぬか? 左手の顔は恐らく、凍花の賢者と呼ばれた男。儂の兄弟子だった者です」
悲しげな顔で、ガルフは頭を下げた。
「……そうであったか。うむ、よかろう」
ガルダが頷き、遠い過去に思いを馳せた。
「あれがいつ、どうやって、誰が作ったのかは謎だ……いや、作られたものかどうかすらも定かではない。本体はあくまで剣だ。お前の兄弟子は、依代に選ばれたのだろう。頭が二つあったが、もう一人取り込まれたようだな」
魔喰を攻め続ける半球を見つめながら、ガルダは続けた。
「かつても突然現れ、多くの命と魔素を喰い荒らした。ゼノ様は依代を倒すことには成功したが、その隙を突いて魔喰はゼノ様を次の依代にしようとした。それを食い止めるため、自らの肉体をクリスタルと化し封印したのだ」
精霊王とナミラしか知らぬ古代の戦いを、ガルフはもちろん隣に立つシュウも真剣な顔で聞いていた。
「だが安心せよ。我ら四人の一撃は、かつて依代を屠ったゼノ様をも超えた。このまま本体も滅して」
「ガ、ガルダぁ!」
カリプソが動揺を隠さず叫んだ。
「どうした」
「あ、あれ」
魔喰を閉じ込める奥義に、水の精霊王が震える指先を向ける。
四つの属性それぞれ最強の技が荒ぶっていた半球の塊。その中心に暗黒の人影が広がり、膨らむ大きさに比例して周りの技が消えつつあった。
「馬鹿な! 十万年前にこんなことはなかったはず! すでに依代は消し飛び、本体だけになっていても……」
ガルダの脳裏に、十万年間思いもしなかった考えが過ぎった。
「まさか……あのときは、まだ覚醒してなかったのか?」
その考えは的中しており、原因が依代となった若き皇帝にあるとは誰も知らない。
ただ一人残らず、眼前の闇に恐れを抱いていた。
ギギギガガガガガゴオオォォォ。
ついに精霊王たちの奥義は喰い尽くされ、王たちの背丈をゆうに超える魔喰が産まれた。
「ふざけんなあああ!!」
「やるぞイフリート!」
激昂したイフリートが炎の剣を、タイタンが大槌を構え襲いかかった。
「カリプソ!」
「わ、分かってる! 援護を」
ガルダとカリプソは、遠距離から攻撃を加える。
しかし、剣も槌も風も水も。
すべて闇に喰われた。
「あり得ぬ、あり得てなるものか! 我らの十万年が……」
四大精霊王たちは悔しさを滲ませ、足元の人間たちは先程よりも深い絶望に落とされた。
「な、なにをする気だ?」
進行を再開するわけでも、剣を振るうわけでもなく。
魔喰はその場で背を丸めた。
「いかん! 守りを!」
狙いを察したガルダが叫ぶ。
次の瞬間、魔喰は全身から魔力を放出した。
「きゃあああ!」
同じ頃。
テーベ村を爆風が襲った。
北からやって来た不気味な風は、復興の進んだ村人の努力を台無しにし、瓦礫を伴って王都まで吹き抜けた。
「……シュウ」
いたるところで悲鳴が上がる中、ファラは北を見つめながら愛する夫の名を口にした。




