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魂の継承者〜導く力は百万の前世〜  作者: 末野ユウ
第六章 滅亡の因縁
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『黒き厄災の目覚め』

「おぉ! ついに!」


 ナミラたちがダンジョンを進み始めた頃。

 ゼノ山脈の坑内では歴史的瞬間が訪れていた。


「はい、柄の先端が出ただけですが。しかし、こ、これはなんとも」


 北の賢者バジラナは顔をしかめた。

 先程から老体を襲う倦怠感。重力が強まったように体が重く、気を抜けば立つことも難しい。実際、部下の数人はすでに倒れ意識を失う者も出た。小指ほどの大きさしかない漆黒の突起物が、なにかを吸い取っているようだった。


魔喰まくい……もしや魔力を吸っているのか?」


 ハッとして周囲に目を凝らすと、クリスタルに満ちる魔素の光が失われつつあった。

 自身の身に意識をやると、魔法を使っていないにもかかわらず、魔力の消費が続いている。


「こ、これは……なりませぬ、カリギュリス様! 危険でございます!」

「ふんっ! 臆するな賢者よ。むしろ余の心は踊っておるぞ! 柄の先端でこの力、ようやく我が腰を飾るにふさわしい剣と巡り会えたとな!」


 腰に下げた氷の魔剣を放り投げ、バーサ帝国皇帝カリギュリスは堂々と歩みを進めた。


「心配ならばお前も来い! 我がギフト【剣人ソード・マスター】にかかれば、このじゃじゃ馬も乗りこなせるわ! 余が最強となる瞬間を、その目で見届けよ!」


 ふんっと鼻を鳴らすカリギュリスに、バジラナは慌てて走り寄った。

 

「さぁ、この指が世界を揺るがす力を手に入れるぞ」


 興奮に顔を染めたカリギュリスは、人差し指をぴんと伸ばした。

 そして、雪解けに顔を出した土筆つくしのような魔喰の先端に、満を持して触れた。


「ぎゃああああああああああああ!」


 帝国の頂点に立ち何人たりとも逆らえぬ絶対の存在が、耳をつんざく悲鳴を上げた。


「陛下ぁ!」


 背後のバジラナは、何事が起こったか知る由もない。

 しかし【剣人】のギフトを持つ皇帝は、自身に起きた絶望を理解していた。本来であれば、この身はすでに消え去っていたはず。だが、このギフトは剣の能力を最大限に発揮する力を持つ。

 それ故、選ばれてしまった。

 それ故、自分が自分でなくなる恐怖が襲いかかっている。存在の端から喰われていく逃れられない感覚が、指先から広がっていく。


「に、逃げろぉ!」


 バジラナの部下たちが、一斉に走り出した。


「ま、待てお前たち! 儂も連れて」


 仕える主君を見捨て、己も逃げようとした賢者バジラナ。

 しかし、僅かに残った白髪を背後からわし掴みにされた。


「キサマアアアア! 余ヲ見ステるのカアアアア!」

「ひいぃぃぃ!」


 振り返ったバジラナは息を飲んだ。

 他を寄せ付けぬ凛々しさを誇っていた皇帝は、魔喰に触れる右腕を真っ黒に染めていた。その漆黒はさらに全身を蝕み続けており、空洞のように染まった両目と口から、得体の知れない黒い液体を流している。

 

「は、離せぇぇぇ! お、お前のような若造と一緒に死んでたまるか! 操りやすい阿呆だから煽てていれば、調子に乗ってこんな」


 吐き出されたバジラナの本音に反応し、頭を掴む腕が乱暴に引き寄せられた。


「ギザマアアアアア!」

「ひいぃぃぃぃぃぃ!」


 蝕む漆黒が全身に広がり、バジラナにも伝染する。

 

 闇に飲まれる意識の中で、ギフトによって魔喰のすべてを知るカリギュリスは最期に思った。


 世界は滅びる、と。


 同時刻。

 バーサ帝国を象徴し、テーベ村からも姿を拝めるゼノ山脈。


 そのすべてが一瞬で漆黒に染まり、汚泥のように崩れ去った。

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