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魂の継承者〜導く力は百万の前世〜  作者: 末野ユウ
第五章 魂のあり方
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『ダンジョンデート4』

「……あの扉の向こうが最奥の部屋だ」


 ナミラが、奥に見える重々しい扉を指さして言った。

 エルフの狩人ロメインの前世を得てからも、順調にスケルトンとの戦闘を切り抜けてきた。しかし、ナミラが倒したスケルトンにも触れるようになったため、進む時間は思ったよりもかかってしまった。


「ごめんな、俺のせいで遅くなって」

「ううん。全然いいよ! だってこれ……デ、デ、デー……ト」

「ん? なんだって?」

「ななな、なんでもないよ!」


 顔を赤くしたモモは、踏み入れた場所の空気が変わったように感じた。

 強いカビの臭いが薄まり、今までの場所に比べ小綺麗な空間が広がっている。


「ナミラくん、ここなにか違う?」

「ん? あぁ、ここはずっと出入り口近くに配置されてた区画だからね。ちょっと空気が美味しいかな?」


 ナミラが見せた笑顔に、モモはほっと胸を撫で下ろした。

 ロメインの前世を獲得した直後は、人生を悲観するような悲しい瞳をしていたが、今はいつものナミラに戻って見えた。


「これ以上前世も増えないだろうし、いよいよお宝が」

「ナミラくん! またスケルトン!」


 緩んでいた気持ちを、モモの声が引き締めた。


「こんなところにもいたか。よし、倒して……」


 奥に続く扉の前に、二体のスケルトンが立っていた。

 一体は大柄で、大きな盾と剣を装備している。

 もう一体は小柄な女性のようだったが、鎧の保存状態が良く双剣を引きずっていた。


「ど、どうしたの、ナミラくん」


 言葉を詰まらせ、立ち尽くすナミラの顔を覗き込んだモモは目を丸くした。


 号泣し、絶望の表情を浮かべていたのだ。


「そ、そんな……そんな、嘘だ……」


 首を何度も横に振り、目の前の現実を消し去ろうとする。

 しかし、二体のスケルトンはじりじりと近づいてくる。


「嗚呼……ダレス、スピニチ……私は、きみたちを守れなかったのか?」


 魂の中のロメインが、深い絶望を感じている。

 見覚えのある装備と骨だけでも分かる二人並んだ体格差は、間違えようがない。


 二人はかつて、共に旅したパーティの仲間。

 そして、ロメインが命を賭して逃したはずの者たちだった。


「こ、こんなところで……あと少しで、力尽きたのか? なぁ、答えてくれ。あの子は……キャロもここで死んだのか?」


 パーティにはもう一人、白魔法使いがいた。

 ゲス神官のセクハラから逃げ出し、偽りの罪を着せられて、追われる身となった哀れな少女。その子の骨は、見るかぎりこの場にはない。願わくば彼女だけでもと思っていたが、物言わぬかつての仲間は教えてくれない。


「ナミラくん、しっかり!」


 力無く立ち尽くすナミラを、モモが抱きしめた。


「座ってて。わたしが、わたしがあの人たちを」

「いや……やらせてくれ」


 スケルトンたちをキッと睨みつけたモモは、優しく頭を撫でられた。


「で、でも」

「俺……私じゃなきゃダメなんだ」


 涙でぐしゃぐしゃの顔。

 顔色も悪くなり、足取りも重い。

 しかし、その目には覚悟が光っていた。


「……昔した話を覚えているかい? 秋に、ゴブリン討伐をした帰りのキャンプさ」


 かつての仲間からは、軋む骨と鎧が揺れる音が返ってきた。


「討伐で私が初めて見せた技を、きみたちはすごく気に入ってくれたね。ダレスがどうせ死ぬなら、あんな技で死にたいって言って。スピニチは、あたしはイケメンに囲まれて死ぬから、窓の外に打ち上げてくれって」


 鮮明に蘇る、他愛もない日々の記憶。

 歴史に残るような出来事でもない、偉大なことを成し遂げたわけでもない。

 しかし、かけがえのない尊い時間。ロメインは記憶の中で、たしかに幸せを感じていた。


「……そのときは嫌だって言ったけど、せめてあのときの希望を叶えるよ」


 温かな闘気が両手に宿る。

 左手の闘気は弓となり、右手の闘気は矢の形を作った。


「守れなくて、ごめん」


 矢を番え、弓を引く。

 いつの間にか、姿は生前のロメインに変わっていた。


「闘技 虹光葬矢レインボー・アロー


 虹色の強烈な光が襲いかかる。

 しかし、二体のスケルトンは反撃や抵抗の素振りを一切見せることなく、まるで見惚れているかのように受け入れた。


「ありがとうな」


 技が炸裂する轟音の中で、声が聞こえた。


「ダレス……」

「あの子、キャロだけは無事だよ。あたしたちが、ちゃんと逃してあげたわ」

「スピニチ」


 太い男性の声と、ハスキーな女性の声の主が姿を見せる。

 仲間は何度も守ったが、貴族は守らなかった不良男。

 実力はあるが男好きで、王子に手を出した獣人の好色女戦士。


 どちらも世間的には犯罪者。

 しかし、ロメインにとっては最高の仲間だった。


「掟破りで追放された元王子が、先にカッコつけたからなぁ。タンク役の俺も意地張ったのよ! ま、だから気にすんな!」

「……あんたが罪に思うことないよ。あたしたちは、あたしたちの人生を精一杯生きた。それだけさね」


 二人の姿がゆっくりと消えかかる。


「ダレス! スピニチ!」

「俺らもシュワ様に転生させてもらうとするわ。また会えて嬉しかったぜ!」

「あんたは、今のあんたの人生を生きな。そうだね……なかなかタイプの見た目だから、生まれ変わってまた会えたら、あたしが抱いてやるよ」


 懐かしい笑い声を残し、二人の姿は虹色の光に消えていった。


「さらばだ、友よ」


 ロメインは呟くと、姿をナミラに戻した。

 闘技の光も同時に止み、薄暗いダンジョンが広がる。目指す扉の前には、粉々になった装備と骨が散乱していた。


「大丈夫? ナミラくん」


 モモが顔を覗き込む。

 

「……行こう」


 今のナミラに、答える余裕はなかった。

 亡骸を踏まないように進み、最奥に繋がる扉を開ける。


「なに……これ」


 モモは言葉を失った。

 一際広い空間に、ひっそりと佇む巨影がひとつ。


 変人技師ヴェヒタの最高傑作。

 八本腕のゴーレムが、こちらを睨んでいた。

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