『ダンジョンデート4』
「……あの扉の向こうが最奥の部屋だ」
ナミラが、奥に見える重々しい扉を指さして言った。
エルフの狩人ロメインの前世を得てからも、順調にスケルトンとの戦闘を切り抜けてきた。しかし、ナミラが倒したスケルトンにも触れるようになったため、進む時間は思ったよりもかかってしまった。
「ごめんな、俺のせいで遅くなって」
「ううん。全然いいよ! だってこれ……デ、デ、デー……ト」
「ん? なんだって?」
「ななな、なんでもないよ!」
顔を赤くしたモモは、踏み入れた場所の空気が変わったように感じた。
強いカビの臭いが薄まり、今までの場所に比べ小綺麗な空間が広がっている。
「ナミラくん、ここなにか違う?」
「ん? あぁ、ここはずっと出入り口近くに配置されてた区画だからね。ちょっと空気が美味しいかな?」
ナミラが見せた笑顔に、モモはほっと胸を撫で下ろした。
ロメインの前世を獲得した直後は、人生を悲観するような悲しい瞳をしていたが、今はいつものナミラに戻って見えた。
「これ以上前世も増えないだろうし、いよいよお宝が」
「ナミラくん! またスケルトン!」
緩んでいた気持ちを、モモの声が引き締めた。
「こんなところにもいたか。よし、倒して……」
奥に続く扉の前に、二体のスケルトンが立っていた。
一体は大柄で、大きな盾と剣を装備している。
もう一体は小柄な女性のようだったが、鎧の保存状態が良く双剣を引きずっていた。
「ど、どうしたの、ナミラくん」
言葉を詰まらせ、立ち尽くすナミラの顔を覗き込んだモモは目を丸くした。
号泣し、絶望の表情を浮かべていたのだ。
「そ、そんな……そんな、嘘だ……」
首を何度も横に振り、目の前の現実を消し去ろうとする。
しかし、二体のスケルトンはじりじりと近づいてくる。
「嗚呼……ダレス、スピニチ……私は、きみたちを守れなかったのか?」
魂の中のロメインが、深い絶望を感じている。
見覚えのある装備と骨だけでも分かる二人並んだ体格差は、間違えようがない。
二人はかつて、共に旅したパーティの仲間。
そして、ロメインが命を賭して逃したはずの者たちだった。
「こ、こんなところで……あと少しで、力尽きたのか? なぁ、答えてくれ。あの子は……キャロもここで死んだのか?」
パーティにはもう一人、白魔法使いがいた。
ゲス神官のセクハラから逃げ出し、偽りの罪を着せられて、追われる身となった哀れな少女。その子の骨は、見るかぎりこの場にはない。願わくば彼女だけでもと思っていたが、物言わぬかつての仲間は教えてくれない。
「ナミラくん、しっかり!」
力無く立ち尽くすナミラを、モモが抱きしめた。
「座ってて。わたしが、わたしがあの人たちを」
「いや……やらせてくれ」
スケルトンたちをキッと睨みつけたモモは、優しく頭を撫でられた。
「で、でも」
「俺……私じゃなきゃダメなんだ」
涙でぐしゃぐしゃの顔。
顔色も悪くなり、足取りも重い。
しかし、その目には覚悟が光っていた。
「……昔した話を覚えているかい? 秋に、ゴブリン討伐をした帰りのキャンプさ」
かつての仲間からは、軋む骨と鎧が揺れる音が返ってきた。
「討伐で私が初めて見せた技を、きみたちはすごく気に入ってくれたね。ダレスがどうせ死ぬなら、あんな技で死にたいって言って。スピニチは、あたしはイケメンに囲まれて死ぬから、窓の外に打ち上げてくれって」
鮮明に蘇る、他愛もない日々の記憶。
歴史に残るような出来事でもない、偉大なことを成し遂げたわけでもない。
しかし、かけがえのない尊い時間。ロメインは記憶の中で、たしかに幸せを感じていた。
「……そのときは嫌だって言ったけど、せめてあのときの希望を叶えるよ」
温かな闘気が両手に宿る。
左手の闘気は弓となり、右手の闘気は矢の形を作った。
「守れなくて、ごめん」
矢を番え、弓を引く。
いつの間にか、姿は生前のロメインに変わっていた。
「闘技 虹光葬矢」
虹色の強烈な光が襲いかかる。
しかし、二体のスケルトンは反撃や抵抗の素振りを一切見せることなく、まるで見惚れているかのように受け入れた。
「ありがとうな」
技が炸裂する轟音の中で、声が聞こえた。
「ダレス……」
「あの子、キャロだけは無事だよ。あたしたちが、ちゃんと逃してあげたわ」
「スピニチ」
太い男性の声と、ハスキーな女性の声の主が姿を見せる。
仲間は何度も守ったが、貴族は守らなかった不良男。
実力はあるが男好きで、王子に手を出した獣人の好色女戦士。
どちらも世間的には犯罪者。
しかし、ロメインにとっては最高の仲間だった。
「掟破りで追放された元王子が、先にカッコつけたからなぁ。タンク役の俺も意地張ったのよ! ま、だから気にすんな!」
「……あんたが罪に思うことないよ。あたしたちは、あたしたちの人生を精一杯生きた。それだけさね」
二人の姿がゆっくりと消えかかる。
「ダレス! スピニチ!」
「俺らもシュワ様に転生させてもらうとするわ。また会えて嬉しかったぜ!」
「あんたは、今のあんたの人生を生きな。そうだね……なかなかタイプの見た目だから、生まれ変わってまた会えたら、あたしが抱いてやるよ」
懐かしい笑い声を残し、二人の姿は虹色の光に消えていった。
「さらばだ、友よ」
ロメインは呟くと、姿をナミラに戻した。
闘技の光も同時に止み、薄暗いダンジョンが広がる。目指す扉の前には、粉々になった装備と骨が散乱していた。
「大丈夫? ナミラくん」
モモが顔を覗き込む。
「……行こう」
今のナミラに、答える余裕はなかった。
亡骸を踏まないように進み、最奥に繋がる扉を開ける。
「なに……これ」
モモは言葉を失った。
一際広い空間に、ひっそりと佇む巨影がひとつ。
変人技師ヴェヒタの最高傑作。
八本腕のゴーレムが、こちらを睨んでいた。




