『ダンジョンデート3』
細い道や曲がりくねった道。突然現れる広々とした空間や、いくつもの扉が並ぶ部屋。そして、数多の罠。
それらをナミラは迷うことなく踏破し、モモは頼もしい背中を追った。
しかし、行く先々でスケルトンが徘徊しており、先に進むための戦闘は避けられなかった。
「はああああっ!」
煌めく刃を振りかざし、ナミラが切り込む。
すべての敵を一閃の下に沈めていくが、多勢に無勢は体力を削る。
「『魔氷針!』」
それを援護するように、背後から丸太のような氷の針が大量に放たれる。
モモの初級魔法だが、大きさも数も規格外であった。
「はいっ、ほっ、よっ、ほいっ、よっと」
背後から次々に飛んでくる氷の針を、ナミラは見もせず躱していく。
反応速度を超える攻撃は無理だが、この程度ならスキル【危機察知】で対処することができた。
「うん、これなら連携が取れるな」
転がったスケルトンの残骸を眺めながら、ナミラが頷いた。
「ね、ねぇナミラくん。こ、このガイコツさんは、スケルトンじゃないの?」
モモが恐る恐る指差す先には、壁に寄りかかるように眠る古い人骨があった。
左手に折れた弓を、右手には番えようとした矢が握られたままでいる。彼の死因が、死の瞬間まで諦めなかった激闘だということが容易に想像できた。
「あぁ、大丈夫。その人は屍術でも使わないかぎり、動くことはない」
「ど、どうして?」
モモは周囲に横たわるスケルトンと見比べながら聞いた。
「あくまでも一説だけど、スケルトンやゾンビのようなアンデットの誕生には魂の残滓が関係してると言われてるんだ」
白骨の弓兵に哀れみの目を向けながら、ナミラはそっと近づいた。
「その遺った魂に魔素が宿って、アンデットたちは生まれるんだ……こんなダンジョンだと、未練を遺す者は多いだろう。この人は、そういう意味では幸運かな」
ナミラはせめて安らかに眠らせてやろうと、手に持つ弓矢を離してやろうとした。
しかし手が触れた瞬間ナミラは体勢を崩し、その骨に覆い被さってしまった。
「ナ、ナミラくん! だ、大丈夫?」
慌ててモモが駆け寄ったが、ナミラからは乾いた笑い声が上がる。
「ど、どうしたの? 大丈夫なの?」
「大丈夫、だよ……なんという皮肉、なんという運命。なんという……残酷な」
フラフラと立ち上がったナミラの顔は、悲しい笑みを浮かべていた。
「こいつは俺だ」
三百三十年前の記憶が蘇る。
当時まだギルドのような組織はなく、傭兵崩れや訳ありの者たちで勝手にパーティを組み、ダンジョン攻略や賞金首の魔物を討伐して生計を立てていた。
危険な暮らしだが楽しかったし、仲間のことが好きだった。
だから、森を追放されたエルフの前世は、仲間を逃がすため最期の瞬間まで時間を稼ぎ、命を落とした。
「ダンジョンを造ったヴェヒタも、そこで命を落としたロメインって男も俺。自分で自分を殺すなんて、なんて因果だよ」
見えない空を仰ぎ、冥界の女神へ抗議の視線を送った。
「そ、そんな。ナミラくんは悪く」
「行こう。またスケルトンが来る」
モモの言葉を遮り、ナミラは振り返ることなく先を進んだ。
「ま、待ってナミラくん」
慌ててついて行こうとするモモ。
しかし駆け出す前に立ち止まると、ナミラの前世であったエルフ、ロメインの亡骸にペコリと頭を下げた。




