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魂の継承者〜導く力は百万の前世〜  作者: 末野ユウ
第五章 魂のあり方
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『画策 テーベ村にて』

 モモたちが村にやってきて、一週間が経った。

 その間、村中を捜索し北の砦への慰問も行ったが、逃げた捕虜の行方は分からないままだった。

 三人はテーベ村に滞在し、被害やナミラたちについての調査を行い、ガルフが持参した通信魔法用の水晶で王都と今後のことを話し合う日々を送っていた。


「ガルフ様、お疲れ様です」


 ガルフはその傍ら、大人たちのご意見番として知識と魔法の伝授に貢献していた。


「ブルボノ様〜! 肩車してー!」

「今は畑の地質調査中であーる! ほら、我が家に伝わるおとぎ話『優しくて強いピエロ』の話をしてやるであーる! それなら動きながら言えるから、黙って聞くであーる!」

「はーい!」


 貴族であるブルボノは、最初こそ身分の違いに距離を置かれていたが、生来の面倒見の良さが露呈すると自然と親しまれるようになった。

 小さな子どもには特に好かれ、抜け殻のようになったバビの代わりに村長代理として働いている。しかし「今後の防衛は貴族が中心」という主張のせいで、ダンとは小さな溝ができている。


 そして、最高位魔法を披露したギフト・ホルダーの少女モモは。


「え、えと、ナ、ナミラくんは『神の涙』って、し、知ってる?」


 ナミラにめちゃくちゃ懐いていた。


「あぁ、知ってるよ。昔滅んだ魔法大国が造ってた兵器だろ?」


 向かい合って座るモモが、長い前髪の奥からキラキラした瞳をナミラに向けている。

 少し離れたところでは、ダンとデルが模擬戦を行っていて、子ども楽団が観客となっていた。


「そう! や、やっぱり知ってるんだね。お、大人でもあんまり、知らないのに」


 喜びと尊敬の気持ちが、声から滲み出る。

 モモはあの日以来、大人たちからは恐れられる存在となったが、ナミラとアニの提案で子ども楽団に迎え入れることとなった。その夜披露された踊りにモモも虜になり、ダンの勧誘によってついでにテーベ村騎士団にも入団した。

 中でもナミラのことは一目置いているらしく、毎日マニアックな魔法談義に花を咲かせている。


「それってすごいの?」


 ナミラの隣に座るアニが首を傾げる。

 モモがナミラの次に心を開いているのが、姉のように慕うアニだった。


「う、うん。小石くらいの、大きさでね。造った国を、滅ぼしちゃったんだって!」

「まぁ、伝説の代物だよ。製造方法も伝わっていないし」

「へぇ〜、やっぱりモモって物知りなんだね!」

「えへへへへ」


 モモが嬉しそうに、体をもじもじさせた。

 人とのコミュニケーションは苦手だが、魔法のことになると饒舌になる。父のガルフ曰く「知識も賢者塔でトップクラス。自慢の娘じゃ」とのことだった。


「モモ、モモ」


 ガルフの使い魔であるカラスがモモの名を呼び、頭の上にふわりと着地した。

 

「ガルフ呼んでる。村長の家に来て」

「ととさまが? 大変、行かなきゃ!」


 モモは立ち上がると、ローブに付いた草もそのままに走り出した。


「ご、ごめんね! またね! ナミラくん、アニちゃん! みんなも〜!」

「またな〜」

「気をつけてね〜」

「「じゃあねー!」」


 アニの心配は当たり、モモはすぐに転んでしまった。

 それでもめげずに起き上がり、ブンブンと手を振って走り去っていった。


「かわいい子だねぇ。なんかこう、ほっとけない感じ?」

「まぁ……そうなのかな?」


 ナミラは苦笑いで返した。


「……ねぇ、魔法もすごくて賢くて優秀。それでいて守ってあげたくなる少女って、ナミラ的にはどうなの? モモちゃん、前髪上げたらすっごくかわいかったしさ」

「ア、アニ?」


 アニは喋りながら当たり前のようにナミラの背後に回り、背中に抱きついた。


「え、ちょ」

「そういえば、ナミラのタイプって知らないんだよねぇ」


 アニの大胆な行動に、周りで見ていた女の子たちからは黄色い声が上がった。

 ナミラはなにが起きたのか分からず、思春期の胸の高鳴りを感じていたが、それは当事者のアニも同じだった。

 この一週間、どこに行くにもモモがくっついていて、その様子をお似合いだと思ってしまった自分がいた。今まで村にはいなかったライバルの出現に焦りを感じ、意を決してのアピールだった。


「い、いや、その、アニ。ちゃんと目を見て話そうよ。その……せ、背中にさ」

「当ててんのよ」


 顔が真っ赤になったナミラは、火の最高位魔法を相手にした以上の熱さを感じていた。


「ふんっ!」

「危なっ!」


 模擬戦をしていたダンとデルからも、突然声が上がった。


「ちょっとダンちゃん! 寸止めって言ったじゃん! なに振り抜いてるの? 髪の毛かすったんですけど! 当たったんですけど!」

「当ててんのよ」

「うるさいよ!」


 模擬戦は怒ったデルが影縫いで縛りつけたダンを、他の子どもたちとくすぐることで反則負けとなった。

 そしてアニの恋の駆け引きは、恥ずかしさに耐えられなくなったアニが倒れ、お姫様だっこを勝ち取るという戦果を挙げて終わった。



「おぉ、ナミラくん。いいところに」


 アニを家まで送り届け、行き過ぎた想像力を働かせたガイから逃げたナミラは、村長邸の近くでガルフに出会った。


「あぁ、どうも」

「な、なんか疲れとるみたいだの。ちょっと歩かんか?」


 賢者からの誘いを断るわけにもいかず、ナミラは頷いた。


「いやぁ〜、本当はナミラ様と呼ぶべきなんじゃろうが」

「いやいや。どんな前世があっても、自分は十五歳の子どもですから。賢者様が気を遣う必要はないですよ」


 正面からの日差しに目を細めながら、ナミラは隣を歩くガルフに頭を下げる。


「うむ、それならお言葉に甘えようかの……きみには、娘が世話になっとるな」

「いえ、そんな」

「もう気づいとると思うが……儂とあの子は本当の親子ではない」


 ナミラは、少し沈んだ声を黙って聞いていた。


「もう八年になる。とある小国に、ひどい貧民街があっての。そこであの子は、母親に売られておった。まだ三歳の、痩せ細った女の子がじゃ」


 深い皺が刻まれた遠い目は、辛い記憶を見つめていた。


「扱いは酷いものじゃった……しかし、そこで儂はあの子の才能を見抜いた。誰よりも優れた魔法の才を。贈られたギフトを!」

「運命の出会い……というやつですか」


 ナミラの言葉に、ガルフは笑みを見せた。


「左様。少なくとも儂はそう思っとる。母親ごと買い取ろうとしたが、あの子を化け物と呼んでの。なに不自由ない暮らしよりも、あの子と離れることを選んだのじゃ。儂はモモと名付け、あの子を養子に迎え入れた。あの子は必ず、歴代最高の魔法使いになれる。その大成と幸せこそ、この老体が抱く願いじゃ」


 そのうち、二人はヴェインらと戦った村長邸の庭へ足を踏み入れた。


「そういえば、モモを呼んでいましたね。なにかあったんですか?」

「あぁ、そのことなんじゃがの……すまん!」


 ガルフは突然、ナミラを突き飛ばした。

 そして、ふらついたナミラの足元に、輝く魔法陣が出現した。


「な、なにを」

「さっきも言った通り、あの子の幸せが儂の願いじゃ。やっとできた友達と、もっと仲良くなってもらいたいんじゃよ」


 ナミラは魔法陣を見つめ、それが転移魔法のものだと見抜いた。


「どういうこと」

「そしてナミラくん! きみは力も見た目も性格も合格じゃ! 友達としてはもちろん、ゆくゆくはそれ以上の関係になっても、いいと思っとる」

「なに言ってんだジジ……ガルフ様?」


 出かけた悪態を慌てて飲み込んだ。


「モモは先に行って待っとるからの。あ! それ以上の関係って言っても限度があるからな!」

「話を聞け! っていうかどこに行くんですか!」


 閉じ込められたナミラに、ガルフは意地の悪い笑顔を見せた。


「それは行ってからのお楽しみじゃ。モモとのデートを楽しむがよい」

「ちょっと待っ」


 抗議の声を言い終わることなく、ナミラは光の中へと消えた。


 無事転移が完了したことを見届けたガルフは「これで、あの幼馴染みの娘に勝てるかの」と、いらぬお節介を口にした。

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