『再びの暗雲』
飛来したそれは、煌々と燃える巨大な炎の鳥だった。
あまりの美しさに敵は見惚れ、やがてその目をも焼く。過去の記録では一帯すべてが灰になり、炎は百年燃え続けたという。
「飛翔!」
ナミラは飛行魔法で飛び、羽ばたく極炎鳥と向かい合った。
「竜心の試し斬りだ!」
そして愛刀を抜き放ち、構えた。
「真・斬竜天衝波ぁ!」
新たな姿となった闘気の竜と、魔力の炎鳥がぶつかり合う。
地上には激しい波動が襲ったが、仲間たちがなんとか防いだ。
「こいつもくらえ!」
ナミラの頭上に黒い球体が現れた。
それはどんどん大きさを増し、見上げる人々に黒い太陽を思わせた。
「極大・魔狼弾!」
強力な技を駆使し、ナミラは最高位魔法に対抗した。
三つの力はしばらく拮抗したのち、音のない光の爆発と共に最高位魔法は消滅した。
「……精霊王帰すんじゃなかった」
ぼやきながら降り立ったナミラの元に、興奮を抑えきれない足音が近づいた。
「ど、ど、ど、どうでし、た?」
上擦った声と前髪の奥の瞳から、溢れる期待の念が伝わる。
きっと獣人なら、ぶんぶん尻尾を振ってるんだろうなぁと思いつつ、ナミラは精一杯の笑顔を向けた。
「す、すごかったよ」
どうやら、純粋に珍しい魔法で喜ばそうとしただけのようだ。
モモはもじもじしながら「ふふふっ」と笑うと、今度はガルフに褒めてもらいに駆けていった。
苦笑いの父に頭を撫でてもらう姿は、確かに愛らしい。
しかし、村人たちにはその力と純真さに困惑と恐怖が植え付けられてしまった。
「なんか……大変な子ね」
アニがため息混じりに呟いた。
全面的に同意しつつ、ナミラはとりあえず幼いがゆえの警戒をすることにした。
「し、死ぬかと思ったであーる。そ、村長。そろそろ、村を案内してもらうであーる」
「そ、そうですな」
ブルボノとバビがフラつきながら起き上がった。
「まずは、捕まえた盗賊団の捕虜のところへ行くであーる。貴族の尋問を見せてやるであーる」
腰が抜けた恥を隠す虚勢なのか、ブルボノが髭をピンと整えた。
「屋敷の地下牢に捕らえておりますので。よし、お前たちも見張りに戻れ」
バビは跪いていた村の男二人に声をかけた。
「……待て。今のはどういうことであーる?」
張り詰めた空気が広がる。
ナミラやガルフ、周囲の大人はみんなバビのことをすごい目で見ていたが、本人はなにも気づいていない。
「はい! 村総出でのお出迎えでしたから、とても豪華でしたでしょう? もちろん、見張りの者もこちらに呼びましてございます!」
バビは自信たっぷりに満面の笑みを見せた。
「お前は馬鹿であーる!」
ブルボノの悲鳴に近い罵倒が、また北の門まで響き渡った。
「え? あ、あのたぶん大丈夫かと」
「デル! お前が一番速い! はやく地下牢に!」
「分かった!」
おどおどするバビの言い訳など誰も聞かず、デルが一足先に人混みを駆け抜けて行った。
「あ、あの……町への昇格……町長への話は」
「それは捕虜次第であーる」
ブルボノは冷たく言い放った。
バビは続いてガルフを見たが、モモに「見てはいけません」と視界を遮っているところだった。
「あ、ナミラ……その、初代様は」
「お前は末代までの恥だと思っていたが、お前が末代だったようだ」
ナミラが初代村長ラビの言葉を告げると、バビは泡を吹いて倒れた。
その後。
地下牢にたどり着いたデルは破られた格子を目にし、大きなため息をついた。
北の空に、再び暗雲が立ち込め始める。




