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魂の継承者〜導く力は百万の前世〜  作者: 末野ユウ
第四章 古き縁と新たな出会い
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『貴族、賢者、モモ』

「おい、全員揃ったか!」


 戦いが集結して四日目。

 村は復興などそっちのけで、慌ただしさに満ちていた。


「もうすぐ王都から領主様がお見えになるぞぉ! お出迎えの準備を急げ!」


 この日、テーベ村を含む北の領地を治める貴族が、被害の視察にやって来ることになっていた。

 しかも、王都からの特別な使者も連れているという連絡を受けたバビは、今できる特上のおもてなしをすると張り切っていた。


「領主様はこの村のため、王都に行ってくれていたのだ。その感謝を忘れるな!」


 先程からはち切れそうな一張羅に袖を通したバビが、そこかしこで住民に怒鳴っている。


「ケッ! 昨日まで昼寝の豚だったくせによ」

「こんな贅沢な料理やお菓子まで作らせて……領主様に抗議してやろうかしら」


 人々には不平不満が募っていったが、貴族に失礼があってはならないという点は一応理解できるので、しぶしぶ従っていた。


「ほらダン! それじゃ皺になっちまうだろ」

「やめろよ! は、恥ずかしいだろ母ちゃん!」


 出迎える王都側の門の前には、戦いの立役者たちが待っていた。

 普段よりも着飾り、誰もが浮足立っている。


「ははは、ダンちゃんダサいなぁ」

「あんたもだよデル。袖が折れ曲がってるよ」

「な、なんで俺だけ昔のローブなんだ……」

「私は似合ってると思うよ、パパ」


 きしだんの子どもたちは、戦いよりも激しい胸の鼓動を聞いていた。


「バビの野郎。ファラに焼き菓子作らせるなんて、きっと新しい名物にしようとしてるんだろうな。精霊王御用達とかなんとか」


 磨かれた鎧に身を包んだシュウが、バビに悪態をついた。


「そうだね……」

「もしかして、緊張してるのか?」


 どこか上の空のナミラに、シュウは目を丸くした。


「うん、まぁね」

「驚いたな。精霊王に比べれば貴族なんて屁でもないだろ?」

「そうなんだけど……」


 慣れない装飾が光る襟を正しながら、ナミラは空を仰いだ。


「貴族の前世って、どんなのかなぁって。楽しみで楽しみで……へへっ、へへへへ」

「……とりあえず落ち着こうな、息子」

「見えたぞ!」


 街道の遠くに、高く掲げられた旗が現れた。

 近づくにつれて、その全貌が明らかになる。


 一際大きな旗は、勇神アインと女神シュワをモチーフにした王国の御旗。

 その脇に、領主である貴族の家紋が施された一回り小さな旗が揺れていた。


「さぁ、お前たちはそこに並べ! 失礼のないように、現村長の私が最初にお出迎えする」

「……本当に失礼のないようにな?」


 思わず口から、初代村長ラビの言葉が飛び出した。

 小さく悲鳴を上げたバビの様子に、集まった村人は皆笑いを堪えた。ほどよく空気が和んだところで、ついに護衛の兵士が門をくぐった。続いて貴族、旗手が村へと足を踏み入れた。


「お待ちしておりました、領主様。ようこそテーベ村へ。ワタクシ、村長のバビと申します」


 バビが仰々しくお辞儀をし、馬上の貴族を歓迎した。

 同時に、後ろに控えた村人たちも膝を付いて頭を下げた。


「ふむ」


 その様子を見た領主の男は、おもむろに馬から降りた。

 そして大きく息を吸い込むと、北の門まで通る声で名乗りを上げた。


「吾輩はこの地を治める、ツッカーノ家六代目当主。ブルボノ・ツッカーノであーる! テーベ村の住人たちよ、よくぞ無事であった!」


 わざわざ馬から降りて行った、領民に対する労い。

 大人たちはその有り難さを感じたが、あまりの声量に驚いた赤ん坊たちが一斉に泣き出してしまった。


「もももも、申し訳ございません! す、すぐに泣き止ませます!」

「い、いや、赤子は泣くのが仕事であーる。急ぐ必要はないが、母親と一緒にちょっと離れているであーる」


 気まずそうな咳払いのあと、ブルボノは赤ん坊たちに小さく手を振った。


「なんだか面白いね。見た目も中身も」


 ナミラの隣に並ぶデルが、ニヤニヤしながら囁いた。

 たしかに、ナミラも人間的には好感が持てた。さらに、マッシュルームヘアと左右に整えられた長い口髭は、第一印象に強烈なインパクトを与えていた。


「俺様もさっきから笑いそうで危ねぇ」

「バ、バカ! 失礼があったらどうすんのよ! が、我慢しなさい!」


 小声で怒鳴るアニだったが、笑いを堪えて声が震えていた。


「ごほん! まずはこの度の戦いにおける皆の尽力、心から賞賛するであーる! この村はバーサ帝国との国境を、長年守ってきた拠点。復興への支援は、我がツッカーノ家が全面協力で行うであーる!」


 ブルボノの言葉に、住人から「おぉ!」と声が上がった。


「そして……皆には領主として謝るであーる。町への昇格を国王に許してもらうため、王都に赴いていたときに起きた悲劇。中央の貴族に舐められまいと、私兵をたくさん連れて行った、吾輩の責任であーる……すまなかったであーる」


 しょんぼりした領主の姿に、村人の心には親しみと同情の気持ちが起こった。

 しかし、ダンがボソッと呟いた「大丈夫かこいつ」という言葉に、ナミラは少し同意した。


「そんな、もったいないお言葉……あの、ツッカーノ様。お連れの皆様は、その、これで全員でございますか?」


 おどおどするバビの視線の先に、ブルボノが連れた兵士たちの姿があった。

 たくさん連れて行ったと言う割には、わずかな護衛と旗手しかいない。


「うむ。他は諸々の理由で、王都の守護に置いてきたであーる。さて、村長バビ。そしてテーベ村の住人たちよ」


 ブルボノは、改めて姿勢を正し村人たちを見回した。


「王都に緊急で送られた書状には、妖精剣士やら精霊王やら信じられないことが山ほど書かれていたであーる! その調査のため、王都から特別な使者が参られた。今一度、頭を下げるであーる!」

「いやいやー、そんな大袈裟にする必要ないぞー」


 その場にいた全員がハッと空を見上げた。

 声はふわふわと浮かぶ絨毯の上から聞こえ、誰も存在に気づいていなかった。やがてゆっくりと下降した絨毯は、一人の老人を地上に降ろした。


「名乗りは自分でやろうかの。儂の名はガルフ。雷迅らいじんの賢者と言ったほうが、カッコいいかの?」


 人々にどよめきが起きた。

 ナミラも顔を上げ、ひと目見ようと首を伸ばした。フェロンとの戦いでも名を出した、最強の賢者と名高い男。齢七十を超える長身の肉体は、鍛えられているのがローブの上からでも分かる。高い魔力と漲る生命力が、積み重ねた鍛錬の激しさを物語っていた。


「儂は王の命を受けて、報告にあった事象を調べに参った……それと、ほれ! 挨拶はちゃんとしなさい」


 ガルフが足下に話しかけると、灰色のローブがもぞもぞと動いた。


「紹介しよう。儂の娘のモモじゃ」


 まだ幼さの残る、小柄の少女が恥ずかしそうに現れた。

 顔の半分は長い前髪に隠れ、表情は分からない。しかし、全身から抑えられない緊張が伺えた。


「モモ……です。よ、よ、よろしく……お願い……ます」


 消えそうな細い声を発すると、ペコリと頭を下げた。

 あどけない姿に微笑ましさを感じ、村人たちは拍手で歓迎した。アニなどは「かわいい〜」と黄色い声で手を降るほどだった。


 しかし、ナミラは違った。

 これまで人智を超えた力と歴代の猛者の前世を手に入れ、間違いなく最強の一角としての力を手に入れている。


 その彼がモモを目にした瞬間。


 恐怖で震えが止まらなくなっていた。

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