『ナミラVS北の三英雄』
思いがけず精霊王の助力を受けたことで、終わりの見えなかった復興に明るい兆しが生まれたテーベ村。
人々の心にも明るさが戻り、治療を受けた者は怪我をする前よりも元気になっていた。そんな、村全体が奇跡のような一日を過ごした翌日。
丘の上には、戦闘態勢のナミラの姿があった。
「いけー! ナミラー!」
「がんばれー!」
「だんちょうが見ているぞ!」
「ちょっとダンちゃん、前に立たれたら見えないんだけど!」
周囲の岩陰では、子どもや仕事を中断した大人たちが観客となって、その様子を見守っている。
ナミラの強さは先の戦いで再評価され、なにより昨日の精霊王の出現は国の歴史に刻まれる大事件だった。その力の一端が見られるとあって、村中が注目していた。
「冒険者のリーダーなんだから、根性見せろよゴーシュ!」
「レゴルス様ー! お怪我のないように!」
「シュウ! 英雄(仮)の力見せてみろ!」
「誰だ今馬鹿にしたの!」
中央のナミラを手練れの三人が囲んでいる。
すっかり全快し、最高に体の調子がいいゴーシュ。
部下と村人にできたファンの声援を受け、少々恥ずかしそうなレゴルス。
人智を超えた力を手にしたにも関わらず、村人から相変わらずの対応を受け、噛みつきそうな顔をしているシュウ。
北の戦いで活躍し、砦長から『北の三英雄』と称された三人が、それぞれ武器を持ち静かに闘志を燃やしている。
「ナミラ、本当にいいんだな?」
大剣を構えながら、ゴーシュが低い声で言った。
「自慢じゃねぇけど、精霊王の治癒のおかげで俺は生まれ変わったみたいに最高の状態だ。手加減できる自信がねぇ。他の二人もさらに強くなったんだろ? 怪我じゃ済まないぜ?」
シュウはミスリルの魔剣を握り、レゴルスはすでに精霊を召喚している。
対して、柔軟運動をするナミラは丸腰でいた。
「心配ありがとう。でも、大丈夫と思うよ。むしろ……」
ナミラが構えると、光の竜翼が現れ闘気が放たれた。
「怪我で済まさないつもりで来てほしいな。闘気と魔力の切り替えとか、いろいろ試してみたいし」
不敵な笑いの少年が、冗談を言っているわけではないと全員が理解した。
張り詰めた空気が丘に満ち、ゴーシュは自らの認識を改めた。
「……言ってくれるじゃねぇか。お前こそ、変な手加減したら承知しねぇぞ?」
ゴーシュはニヤリと笑い、ナミラもそれに応えた。
「おいバカ。息子に負けたら恥ずかしいぞ」
「今集中してんだから話しかけんなハゲ!」
「そうだよパパ!」
ギャラリーの中から、ガイがシュウに野次を飛ばした。
それをアニがたしなめると、緊迫した場に笑いが起き人々の緊張が和らいだ。
同時に、通りすがりの雲が太陽の光を遮った。
「んじゃ」
それを合図にするように、ゴーシュが二人に目配せをした。
「始めるぜ」
先陣を切って、ゴーシュが斬りかかる。
大剣を持っているとは思えないほど素早く、動きに迷いはない。
「ぬぉら!」
振り下ろされた分厚い刃を、ナミラはひらりと躱した。
「ぬおおおおおお!」
意外にも技巧派なゴーシュは、多彩な剣撃で攻め立てる。
しかし、年端もいかない体を捉えることはできない。
「隙あり」
大振りな回転切りの動きに合わせて、ナミラが鉄拳を繰り出そうとした。
「そっちがな!」
しかし、それは罠だった。
巻きあがった砂埃と大剣に隠れて、シュウが距離を詰めていた。
「よーし、父さん新技やっちゃうぞ」
上段の構えから、ギラりと光る魔剣が襲う。
「四妖精の光刃!」
真上から一直線に襲う銀色の刃。
その両脇に四色の刃が現れ、五方向からの同時攻撃を繰り出した。
「はあ!」
ナミラは瞬時にゼノの力を使い、四元素の刃を相殺した。
「嘘だろボふォ!」
魔剣が体に触れる前に中段蹴りを放ち、シュウの体をくの字に曲げて吹っ飛ばした。
「後ろガラ空きだぜぇ!」
その隙を逃すことなく、ゴーシュが背後に斬りかかる。
「ふっ!」
一瞬で闘気を練り直し、生じた翼で重い一撃を防いだ。
「ぬおおおおお!」
「はああああああ!」
力比べに勝利し、剣を弾いたナミラは右拳を叩きこみ、ゴーシュは観客が隠れる岩へと飛ばされた。
「凄まじいですね……」
レゴルスを中心に、激しい風が吹き荒れる。
漂う強力な魔力の中で、金髪のエルフは微笑みを浮かべていた。
「でも、ここまでが私たちのコンビネーションです。溜めに時間がかかりますが、最後に仕留めるのが私の役目。ガルダ様より授かった、精霊術の上位魔法『精霊武装』の力。お見せしましょう!」
レゴルスの手には、荒れ狂う風の弓があった。
そして、竜巻の矢を番えると躊躇うことなく放った。
「風精霊の魔弓!」
目にも止まらぬ暴風の矢がナミラに向かう。
この矢を受けた者は生じた乱気流によって粉々にされ、痕跡さえもこの世に残さない。エルフの中でも、一部の手練れしか習得していない奥義である。
「ほっ」
その必殺の一矢をナミラは指先で摘まみ、消滅させた。
「へ?」
クールなレゴルスのイメージを壊す、まぬけな声が飛び出した。
たしかに精霊武装は強力無比だが、万象王の力を手に入れたナミラの前には児戯に等しいものであった。
「レゴルスさん。覚えたてで、ここまでやれるのはすごいです。でも、まだまだシルフに舐められてますよ。契約すれば使える精霊術と違って、精霊武装はパートナーの精霊と心をひとつにするか、完全に上に立つかしないと真の力は発揮できません。シルフは精霊の中でもお調子者なんで、手っ取り早いのは後者かな。こんな風にっ!」
指先に残ったそよ風を、ナミラは怖い顔で睨みつけた。
すると子どもの姿をした精霊のシルフが現れ「ひいぃ!」と高い悲鳴を上げると、ナミラの手にも風の弓と矢が現れた。
ただし、先程のレゴルスよりも数倍大きく、凝縮された魔力も桁違い。
豪華な装飾まであしらわれ、見た目だけで格の違いを物語っていた。
「風精霊の魔弓!」
「いや、ちょ」
命中する寸前で矢は消されたものの、激しい爆風が起こった。
集まった観客はナミラが防御魔法で守ったが、手合わせをしていた三人は岩に叩きつけられ「三人対一なら、もしかしたら勝てるかも?」と思っていた数分前の自分を、怒鳴りつけたい気持ちになっていた。
「ま、参りました」
「降参です……」
「父さんが悪かった……」
風が止み、息も絶え絶えの三人が負けを認めると、周囲から笑いと歓声が沸き起こった。
「ナミラ兄ちゃんつよーい!」
「ナミラ、今度魔法教えてくれよ!」
「うちの子と見合いどうだい?」
ナミラの周りにはあっという間に人が集まり、身動きが取れないほど囲まれてしまった。
「がははは! 見事にやられたな」
「お疲れさん。まぁ、ナミラ相手じゃ仕方ねぇよ」
「息子にやられた気分はどうだ?」
「黙れハゲ」
一方、敗者である三英雄たちには労いの酒と慰めの言葉が送られた。
「もうちょっと、頑張れると思ったんだけどなぁ」
「とんでもない息子さんですね」
「……でしょう?」
苦笑いの奥に悔しさを忍ばせた視線の先には、顔を出した太陽に照らされる少年の姿があった。
「シュウさん」
ゴーシュが呟いた。
「再戦、今から予約しといていいですか?」
「私もお願いします」
鼻息荒いゴーシュと、涼やかなレゴルス。
対照的な二人だが、胸に秘める気持ちは同じだった。
「ええ。父親の権限で、予定空けさせますから。もちろん、俺も一緒です」
ニヤリと笑う大人たちの目が輝く。
まるでナミラと年の変わらぬ少年のような、熱い情熱が灯ったようだった。




