『テーベ村防衛戦 あとは任せたぜ』
「うおおお!」
先を急ぐナミラたちを、突如地震が襲った。
同時に村長邸から激しい闘気のぶつかり合いが起き、辺りの森まで強烈な波動が広がった。
「……急ごう!」
揺れが治まるのも待たずに、三人は罠の残骸が散らかる坂道を進む。
「ダン!」
そして、登りきったと同時に友の名を呼んだ。
視界を遮る土煙を、風が攫っていく。
目の前に現れたのは、のたうち回るヴェイン。
そして、燃え尽きたように立ち尽くすダンの姿だった。
「「ダン!」」
「ダンちゃん!」
三人は一目散に駆け寄った。
差し伸べた手に伝わったのは、冷えた温度と乾いた肌の感触。静かな脈拍が、辛うじて命の存在を教えてくれた。
「見たか……よ……やって、やった……ぜ」
「あぁ、すごいよダン」
三人で体を支えながら、腰を下ろす。
その最中、ナミラはダンの背後に目をやった。
壁にひどい傷跡があるが、健在の村長邸と怪我を庇うガイと男衆。
そして、ダンを中心に二股に別れた衝撃波の跡。大地を深く穿ち、これが地震の原因だったことが分かる。ダンがいなければ、この力を合わせたものが村人たちを襲っていた。そうなれば、今見ているものはすべて存在していない。
「本当に、よくやったよ」
ナミラは心から友人を褒め称えた。
「アニ、みんな無事でよかった。状況を……」
「パパ、もう大丈夫だよ」
ガイは娘に微笑みかけると意識を失った。
ダンの背後で防御魔法唱え、魔力を使い果たしたのだ。
「ぬアアアアアアア! 腹減っタアアアアアアアアアア!」
ひび割れた声が村に響く。
耳障りな叫びの主を、三人は鋭く睨みつけた。
そして、ナミラは状況を冷静に分析する。
感じた波動から、二人の闘気はほぼ互角だった。しかし、武器の差が勝敗を分けた。ダンの斧は乾いた土塊のようにボロボロに崩れた一方、ヴェインの剣は無傷のまま光を纏っている。ナミラは【解析眼】を使い、ヴェインと剣の詳細を知った。
「あとは……任せたぜ」
ダンは言い終わると同時に気を失い、アニの胸に身を沈めた。
「了解、だんちょう」
ダンを動ける村人に任せ、三人は武器を構えた。
「デル、アニ。全力でいくよ」
「うん!」
「はい!」
ナミラの低い声。
二人はそれだけで、警戒を最大にまで強めた。
「腹減っタ……腹減っタ! お前たち、いい加減に喰わせロオオオオオオ!」
腹を掻き毟り、のたうち回っていたヴェインが飛び起き、よだれを撒き散らして襲いかかった。
「道化殺法」
誰よりも先に上空へ跳び、剣を逆手に持ち変えたナミラは殺気の籠もった目を向けた。
デルとアニの武術は、ナミラが開発し共に高め合ったもの。原型となった前世の技術を持つナミラは、二人以上の練度を誇っていた。
「紅鎌切!」
鋭い剣撃が頭上から飛来した。
しかしヴェインは軽々と防ぎ、着地したナミラに剣を振り上げた。
「道化殺法 弧組輪難」
たが、ナミラの背後から弧を描き、デルの投げた無数のナイフが襲う。
羽ばたく翼のように一切の障害なく、ヴェインの腹部に命中した。
「ふンっ!」
しかし、筋肉の収縮で硬くなった腹筋に、すべて弾かれ足下に落ちた。
「うそぉ!」
デルはショックの悲鳴を上げた。
それを聞いて嬉しそうに笑いながら、ヴェインは再び剣を振り下ろす。しかし、素早く跳び退いたナミラには届かず、追いかけ間合いまで踏み込もうと足を出す。が、どちらの足も地面に貼り付いたように動かない。
「闘技 影縫い。それだけの量が刺さってたら、簡単には動けないよ」
ほくそ笑むデルを睨んだクォーター・オークの背中を、さらにアニの視線が突き刺す。
「「鳥欄舞闘・双演」」
前後で挟むナミラとアニの声が重なる。
二人はまるで鏡写しのように動きを合わせ、剣を構えた。
「「陸の舞。群青雉連剣!」
ヴェインの周囲を回りながら、ナミラとアニは止まる気配のない連撃を繰り出した。
剣の本数に違いはあるが、ナミラは一刀の破壊力が、アニは双剣の手数があり緩急のついた動きで翻弄した。
「グオオオオオオ!」
なんとか竜牙剣を振り回すヴェインだが、二人の動きに反応しきれない。
オークの皮膚のおかげで一撃のダメージは大きくないが、蓄積は免れない。なにより、ダンから受けた傷が思っていたよりも深く、出血と痛みが動きを鈍らせていた。
「調子ニ……乗るナアアアアアア!」
まるで爆発のような咆哮波が起こり、ナミラとアニは吹き飛ばされた。
「ガアアアアア!」
衝撃で足下が抉れ、影縫いの効果も無くなってしまった。
その瞬間を逃さず、狂った殺意が体制を崩したアニに襲いかかる。
「きゃあ!」
高い悲鳴を上げたアニだったが、寸でのところでナミラが飛び出し、アニを抱えて距離を取った。
「大丈夫?」
「あ、ありがとうナミラ」
村長邸を背に、三人は再び身構える。
もはや敵は正気を失っており、魔物とほとんど変わりない。だが、ダンからの傷が痛手となり、こちらの動きについていけていない。日々の特訓通りにやれば、じりじりと弱らせられるはずだった。
あの技さえなければ。
「ぬオオオオオオオオオオオ!」
ヴェインは雄叫びと共に剣を天に構え、膨大な闘気を生んだ。
村人たちから悲鳴が上がる中、ナミラは斬波の構えを取った。
「二人とも、お願い!」
「「闘技 流々奔竜!」」
デルとアニが両脇に立ち、背中に手を当て闘気を流す。
本来は闘気を流し込むことで肉体を破壊する技だが、リクの前世は闘気を操ることに長けていたため、そのまま自分の技に変換する術を身に着けていた。
ダンとの戦いで消耗した今のヴェインになら、三人の闘気で勝てる。
残量はさっき【解析眼】で確認済みだ。
「斬竜ゥ天衝波ァァァ!」
「闘技 斬波!」
再び、テーベ村に闘気の衝突が起こった。
拮抗する二つの斬撃は、徐々に一方を圧倒していく。
「な、にぃ!」
顔を歪めたのはナミラのほうだった。
おかしい。
剣に宿る力も、闘気の残りも確認した。それでもこちらが優勢だったはず。しかし、現実では目の前に死の光が迫って来ていた。
「デル! アニ!」
咄嗟に足払いをし、二人の体勢を崩した。
デルもアニも、巻き起こる突風に身を押され、ナミラの側から離れてしまった。
「ナミラー!」
アニの悲鳴がこだまする。
出力を失ったナミラの斬波は押し込まれ、ナミラの体も光の中に呑み込まれていった。
アニはただ、その様子を呆然と見ていることしかできなかった。




