『テーベ村防衛戦 堕ちた賢者』
「最高位……魔法……? なんじゃ、それは」
フェロンはきょとんとした顔で言った。
「なんだとはなんだ? 最高位魔法は最高位魔法だろ。上級魔法より上の」
それに対してナミラも同じ表情で答えた。
すると、フェロンは上機嫌が一転して目を見開き、怒鳴り声を上げた。
「馬鹿を言うな! 魔法の極地は上級魔法じゃろうが! そ、その上があるだと? そんな……」
信じられないといった反応のフェロンだが、ナミラもその様子が信じられなかった。
最高位魔法を「見たことがない」ならまだしも「知らない」というのは、今を生きる魔法使いならあり得ない。魔道を志す者なら常識であり、必ず目指す夢でもあるのだ。
「……小僧」
フェロンはなにかブツブツ言っていたが、やがて低い唸るような声を発した。
「それは、今の賢者は使えるのか?」
反応は予想外のものだったが、明らかに風向きが変わりつつある。
内容の意図も分からないが、この流れを止めるわけにはいかない。ナミラは質問に答えることにした。
「……あぁ、もちろん。各地で賢者と称される人たちは、皆最低でも一つの属性で最高位魔法が使えると聞いている。この国にいる賢者ガルフなんかは、長年存在しなかった雷の最高位魔法を創り上げた者として名高いと思うが、知らないのか?」
フェロンはナミラの言葉を黙って聞いていた。
そして話が終わると、なにかが外れたように笑い、叫び狂った。
「フェーッフェッフェッフェ! なんじゃそれは! なんじゃそれはぁ! 儂の研究は……儂は魔道を極めたのではなかったのかぁ!」
魔力が溢れ出し、突風のようにナミラを襲った。
顔をしかめながら、ナミラは心の中でほくそ笑んだ。突くならここだと。
どうやら、最高位魔法は使えない。それはこちらにとって、最大の脅威と一つの勝機を失うことになるが、新たな可能性が現れた。
この狼狽に、ナミラは希望を見出していた。
「なにをそんなに驚くんだ? 最初の最高位魔法が創られて、もう九〇〇年になるだろう。最近なら十年前、雷の最高位魔法誕生はこの村でも騒ぎになったんだぞ?」
何故か、フェロンは最高位魔法についてなにも知らない。
そこを刺激し感情を揺さぶれば、再び上級魔法の応酬になっても先程のような苦戦はないと確信し、畳み掛けた。
「おいおい、これでもさっきは感動してたんだぜ? あんたの力は、俺が見たことのないくらい強い。世が世なら、本当に賢者だったかもしれない。なのに、最高位魔法も知らないだなんて、ガッカリさせないでくれよ。上級魔法で魔道を極めた? 九〇〇年前ならまだしも、そんなの俺だって言わねぇよ」
悪態をつきながらも、ナミラの額には汗がにじみ出ていた。
(さて、なにをしてくる?)
身構え、些細な動きも見逃すまいと睨みをきかせる。
「今……なんと言ったぁぁぁ!」
フェロンは懐から水晶玉を取り出し、地面に叩きつけた。
割れた中から封じられていた魔力が流れ出し、地面に沈んだ。
「『悪手魔根』」
「なに!」
地中から浅黒い巨木の根が出てきたかと思うと、ナミラに巻き付き体を締め上げた。
事前に魔道具に閉じ込めた魔法であったため、詠唱がなく反応が遅れてしまった。さらに、植物魔法はどの前世でも見たことがなく、捕らえられた今どんな効果が身に起きるのか分からない。
希望が一変、危機を迎えてしまった。
「世が世なら、だと? だったかもしれない、だと? ガッカリだとおぉ? ならば見よ! 刮目せよ! 我が魔道の集大成を!」
フェロンは着ていたローブを破り捨て、上半身を露出した。
「我が名はフェロン。フェロン・イーター! かつてバーサ帝国に仕えし者。九二〇年前、最強の賢者として君臨した男じゃあ!」
ナミラは言葉を発することが出来なかった。
フェロンの言ったことが荒唐無稽で、信じられなかったということもある。
しかし、それ以上に目を奪われた。
露出した胸部、骨と皮だけになった年老いた肉体。
そこに。
女性の頭が生えていた。




