『テーベ村防衛戦 友ゆえに2』
「死ね」
その瞬間を逃すことなく、ヴェインは自慢の愛刀を振り上げた。
瞬きほどののち、自分は返り血を浴びている。
そんなヴェインの思惑は、一瞬で崩れ去った。
自分のほうが先に攻撃を繰り出したはず。
なのに、あとから振り下ろされた巨斧は剣よりも速く、振り上げた軌道を変えて防がざるを得なかった。
「な、にぃ!」
なにが起こったか理解できない。
押し返そうにも、体勢が崩れて分が悪い。なにより、ダンの膂力が予想以上に強かった。
「歯ぁ食いしばれ」
反撃の隙を与えないまま、ダンは斧を振り下ろし続けた。
重く鋭く激しい連撃が、容赦なく襲いかかる。
「ぐっ、うっ、おっ」
そのうちヴェインの足下が沈み、衝撃が周囲にも広がっていく。
だが、ダンは攻撃の手を緩めない。一撃一撃に想いを乗せ、斧を振り続ける。
あの夜のことは忘れない。
ナミラを心からすげぇと思った。だから、ギフトや前世の力について聞いたときめちゃくちゃ燃えた。
こいつを超えたいって。
こんなすげぇ奴を超えたら、どんだけカッコいいんだって思った。
そもそも、「だんいん」が「だんちょう」より強いってなんだ。そんなのおかしいだろ。
すでにナミラのほうが強い? 関係ねぇ。
百万の前世がある? 関係ねぇ。
魔法も闘技も使えない? 関係ねぇ!
俺様の目標は昔から同じだ。
ナミラより強くなる。もしかしたら世界一かもしれないダチを超える。
どんだけ強くなろうがいくつ前世を集めようが、ここに最強のライバルがいるってことを忘れさせねぇ。余裕ぶちかます暇なんて与えねぇ!
だからよ。
「てめぇ如きに苦戦するわけにはいかねぇんだよ」
ダンはさらに渾身の力を込め、自慢の剣を叩き割るつもりで一撃を与えた。
どうにか耐えたヴェインだったが、膝をつきナミラの魔法でも感じなかった痺れを、全身に走らせることになった。
「舐めるなガキがぁ!」
堪らず咆哮波を放ち、どうにか追撃の手を止めた。
しかし、ダンは直前で距離を取ったため音波によるダメージはなく、強者の面持ちでヴェインを見下ろしている。
「……やりやがったな、ガキが。もう後悔しても遅ぇぞ! 俺の本気を見せ」
歯を剥き出しにし、怒り狂ったヴェインの叫びは眩しい純白の光に遮られた。
「な、なんだこりゃあ!」
光を放つ魔法陣が、いつの間にかヴェインの足下に広がっていた。
それは描いた直後でないと効果を発揮しない上級白魔法のものだったが、描いた魔法使いは周囲に見当たらない。
「『勇神アイン冥神シュワの名の下に 敬虔なる下僕が裁きを代行する』」
その声は空から響いていた。
見上げると、ヴェインの真上に飛行魔法で飛んだガイが、あまり似合わない白魔法使いのローブをはためかせている。
ガイは幼い頃から神を信仰し、神官として教会に仕えていた。若い頃には優秀な白魔法の使い手としてギルドに派遣され、恵まれた体躯もあって杖代わりに棍棒を振り回す、武闘派神官として活躍していた。
しかし、あるとき酒の味を知って以来その魅力に取り憑かれ、教会を去り故郷であるテーベ村で酒場を開いたという経歴を持っている。
久しく魔法を使うことはなかったが、培った経験と力は健在だった。
「『愚かな命に裁きを 迷える魂に輪廻の救済を 白き光を天と地より与えたもう……』」
普段は怒鳴ってばかりのガイだが、唱える呪文の声は教会の説法のように胸に響く低重音を奏でていた。
「くそがぁ! てめぇ、タイマン張りやがれ! 恥ずかしくねぇのか!」
魔法陣の中に閉じ込められたヴェインが、ダンに向かって吠えた。
「元々、ここに攻めてきた奴は全員で迎え撃つ作戦だったからなぁ。まぁ、たしかにお前を俺様一人で倒したって言えば、ナミラも一目置くかもしれねぇけどよ」
「ならやれやぁ!」
ダンは頭を掻きながら答えた。
「でもよ、こっちは被害出さねぇことが一番の勝ちなんだよ。俺様一人のわがままで、みんなを危険に晒すなんてできねぇ。俺様はテーベ村きしだんのだんちょうだからな」
そう言うと、ダンはニヤリと笑って今度は鼻をほじった。
「それに、ナミラ苦戦してんだろ? お前を倒すのに時間かけるより、作戦通りちゃっちゃと倒して助けに行ったほうが、カッコいいだろうが。うん、やっぱりそうだな。なんかそれライバルっぽいな、うん」
すでに頭の中では妄想が始まったようで、ヴェインなど眼中になかった。
「っざけんなてめぇ! こっち来いこらぁ!」
「うるせぇなぁ。うちの酔いどれ神官の鉄槌喰らっとけ」
「聞こえてるぞダン! あとでゲンコツしてやるから離れてろ!」
思いがけず落ちた雷に「やべっ」と呟くと、ダンはバリケードの後ろまで飛び退いた。
「さて、お前には私からの慈悲はない。赦しは冥界で女神シュワに乞うがいい」
魔法陣の光が強まり、その真上に巨大な剣が現れた。
「『断罪白墜剣』」
ガイが腕を振り下ろすと、光の剣は音もなく落下した。
「ぐおおおおお!」
ヴェインの叫びがこだましたが、剣は止まることなく大地へ突き刺さった。
そして、魂を天へ還すかのように光が昇り、村長邸は昼間の明るさに包まれた。
「さてと」
魔法を放ったガイまでもが目を細める中、ダンは村の方へ視線をやった。
先程まで、ナミラと敵のものと思われる魔法の応酬が広場に確認できたが、今は止んでいる。村の各所で上がっていた破壊音や戦闘音も聞こえない。
苦戦しているかもしれないし、怪我をしているかもしれない。
それでも、ナミラが負けるとは思っていない。ナミラがついていながら、デルやアニの身が危険なんてこともあり得ない。
揺るぎない信頼と確信が、ダンの胸にあった。
「待ってろ、今助けに行くからよ!」
斧の柄を強く握り直し、接近を拒む魔法の光が消えるのを今か今かと待ち望んだ。
ダンが見つめた視線の先。
女神シュワの像が建つ広場では、戦いの終わりを告げる静寂が包んでいた。
そして、乾いた音を立てて。
ナミラの杖が砕け散った。




