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『テーベ村防衛戦 友ゆえに』

 村のあちこちで戦闘が繰り広げられるなか、ヴェインは口笛を吹きながら村長邸への道を歩いていた。

 道中は上り坂が続いており、傾斜を利用した罠も多く仕掛けられていたが、わずかな足止めにしかならなかった。残骸を踏みつけ唾を吐き捨てるヴェインは、意外にも状況を冷静に見ていた。


(この分じゃ、下にも罠が仕掛けられてるだろうなぁ。それにあのガキ共……魔法使いの兄ちゃんはジジイが相手するとして、あとの二人は雑魚共には荷が重いだろうなぁ)


 ふわふわと、一匹の蝶が目の前を漂う。

 その可憐な白い羽は、ヴェインの黄色い歯に潰され飲み込まれた。


「ま、いいか。最後は全部、俺が喰うんだからよ」


 狂気の笑みを運ぶ足は止まらない。

 常人よりも優れた嗅覚によって、隠れた村人たちの匂いを感じ足取りはむしろ速まった。


「放てー!」


 最後の坂を上り切ったところで、待ち構えていた男衆によって矢が放たれた。

 一人に対して多過ぎる数だったが、ナミラから討伐完了の狼煙が上がらず、ここまでの罠が次々に踏破された現状から、村人たちに躊躇はなかった。


「闘技 咆哮波ほうこうは!」


 笑ったままのヴェインは、大気が揺れる咆哮で迎え撃った。


 ガルゥの咆哮弾ハウリング・バレットと違い、声を闘気で増幅しただけなので、破壊力には乏しい。しかし、矢は強風に弾かれたように吹き飛び、とてつもない声量は第二射を構える手を止めた。


「はっはっは! 喰いに来てやったぞ!」


 両手を広げ、よだれを垂らした。

 邸宅までは広い庭が続き、途中には武器を構えた男たちとバリケードが立ち塞がっている。しかし、建物の中に隠れる女たちはその声に震え、地下で息を潜める子供たちは得体のしれない恐怖を感じていた。


「ん?」


 ヴェインの歩みが初めて止まる。

 細めた視線の先には、斧を担いだ一人の男が睨んでいた。


「……なんだ、お前が相手してくれるのかい? 斧の兄ちゃん」


 軽口を叩くが、声色には明らかに警戒がにじみ出ていた。


「おう、俺様が相手になってやる」

「そうかそうか。俺は斬竜団頭領のヴェインだ。お前は?」

「テーベ村きしだんだんちょう、ダン様だ」


 互いに顎を上げ、見下すように相手を睨みつける。

 身長はヴェインのほうが上だが、鍛えられた肉体はダンも負けてはいない。


「ダン、無茶すんじゃないよ!」


 バリケードの後ろから、ダンの母親が息子を見つめ声をかけた。


「あぁ。大丈夫だよ母ちゃん。ほら、ファラさんたちと家ん中隠れてなって」


 母に向けた微笑みは、成長を感じさせる自信に溢れたものだった。

 遠ざかる足音を聞きながら、ダンは一歩づつ進んだ。ヴェインも同じように近づき、二人はあと一歩で間合いという距離で止まった。


「いい斧だなぁ」


 ダンの斧を指差して、ヴェインが言った。


「でも、俺のもすげぇんだぜ? 見ろよ」


 ヴェインが、腰の大刀を見せびらかすように抜いた。

 その刀身は、幼い頃から冒険者の武器を見てきたダンにも見慣れないものだった。


 反りのある片刃の形状は珍しくない。しかし、艷やかな白色はくしょくの陶器のようでありながら、ずっしりとした頑強さと鋭い切れ味を持っている。鉄とも鉱石とも違うものだった。


「これはよ、斬竜団の頭領に代々受け継がれてる牙竜剣がりゅうけんって名剣だ。初代が首斬ったっていう竜の牙から造られてるんだぜ? すげぇだろ。団の名前も、そっから来てるんだぜ」


 出かかった「嘘つけ」という言葉を、ダンは辛うじて飲み込んだ。

 数千年を生きる命と圧倒的な力で、最も高位の種族とされる竜族。その力に反して個体数が少ないため、ダンたちは伝説として語り聞いていた。そんな存在を人間が斬れるかと笑うつもりが、刀身全体が薄っすらと光を帯びているのに気づき、黙って気を引き締めた。


「お前、強いなぁ。後ろの大人たちよりも、よっぽど強ぇ。さっきの兄ちゃんたちも強かったよな? どうなってんだ、この村は」


 ダンたちを讃えつつもヘラヘラと笑うヴェインは、反応がないまま構わず続けた。


「でもなぁ、残念だ。俺の相手がお前なんてよ。お前より、魔法使いの兄ちゃんのほうが強ぇだろ?」


 ダンの体がピクリと動いた。


解析眼アナライズなんてなくても、俺は匂いで分かるのよ。あの兄ちゃんのほうが数段強ぇだろ? しかも、ウチのジジイが進んで相手したんだ。お墨付きってやつもあるしよ」

「ごちゃごちゃうるせぇ」


 担いでいた斧を構え、ダンは熱い息を吐いた。

 その目には、怒気と殺気が込められている。


「俺様の実力がどんなもんか、試してみろや」


 あと一歩。

 間合いの外にいたダンだったが、ついに足を踏み入れた。

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