『テーベ村防衛戦 憧れゆえに』
「ちくしょう! 痺れて動きづれぇ!」
斬竜団の男たちは左右に別れ、村の中を突き進んだ。
それぞれ村を大きく回るように暴れ、最終的にヴェインと合流するつもりだった。もちろん盗賊として、道中の破壊と略奪は忘れていない。建物に攻撃を加え、金目の物をいただく算段だ。
「止まれ!」
先頭の一人が声を上げた。
視線の先には、略奪し甲斐のある道具屋が建っている。しかし、そこに続く道には切れ味のある細い糸が張り巡らされていた。
「けっ、罠を張ったつもりが雨が滴って丸分かりじゃねぇか! 馬鹿だな、この村の奴らはよ!」
男たちは声を揃えて笑った。
「斬ったりできねぇのか?」
別の一人が適当に剣を振り下ろすと、糸は刃を跳ね返し水滴を落とした。
「駄目だな。何で出来てるか分からねぇが、斬るのは無理だ。こんなに濡れてちゃ燃やすこともできねぇしよ。仕方ねぇ、こっちに行くべ」
男たちは罠のない道を進んだ。
その後も罠を避けて進み続けるが、急速に成長した村の中はひしめく店で複雑に入り組み、どこまできたのか分からない。そのうえ、だんだんと高い壁に囲まれてしまい、略奪や破壊も思うようにできずにいた。
「なんだよ、話と違うぜ! もういい、俺はこっちに行く!」
小太りの男が業を煮やし、獣用の罠が敷き詰められた道に進み出した。
「こんなもん、一人づつ進めばなんともないぜ! お前らもちょっとは頭を使え頭を」
仕掛けられた罠は、衝撃や重さが加わると作動し刃が襲うものだった。
小太りの男は器用に隙間に足を入れ、得意気な笑みを浮かべた。
「うぎゃあ!」
だが、その顔はすぐさま激痛に歪むことになる。
雨に濡れ、罠が敷かれた状態では分かりにくいが、道には油が撒かれており小太りのように進む者を阻む工作がされていたのだ。
小太りは罠の上に転び、全身に刃を食い込ませながらのたうち回り、さらに罠を巻き込んだ。
「ぎゃははは、ダセぇ!」
「う、うるせぇ! さっさと助けろぉ!」
「は?」
仲間の苦しむ様子を見ながら、見下ろす仲間の視線は冷たかった。
「そんな面倒臭えことするわけねぇだろ。あ、そうだ。このままお前転がして、ここの罠全部取っ払っちまおうぜ!」
先頭の案に、他の仲間たちも「そりゃあいい!」と喜んだ。
「ふざけんな! ちょ、ちょっと待て! おい本気か? 俺たち仲間だろ?」
小太りは有無を言わさず蹴飛ばされ、残りの罠へと転がされた。
「うーし、このままいくか」
ブウゥゥゥン。
一人の断末魔と無数の笑い声に混ざって、虫の羽音が路地に響いた。
男たちが見上げると頭上に回転するナイフが浮かんでおり、飛来するときを待っていた。
その上には、路地を横断するように糸を張り、仁王立ちをするデルの姿があった。
「蜂殺飛……」
「おらぁ!」
デルが呟く前に矢が放たれ、槍や剣が力任せに投げつけられた。
刃はすべて撃ち落とされ、奇襲は失敗に終わった。
「う、うそ!」
デルは思わず悲鳴を上げた。
「あ? なんだ、さっきのガキか」
「女のほうじゃねぇのかよ!」
痺れが残る体でも、百戦錬磨の盗賊にデルの策は驚きすら与えられず足下から野次が飛んだ。
「ん? なんだ。震えてんじゃねぇか」
今度は、馬鹿にした声が投げられた。
言葉の通りデルの足は震え、バランスを取るので精一杯だった。
想像と違う悪い展開に、男たちの笑いも耳に入らない。
魔獣相手とは違う同族との殺し合い。
先手必勝の奇襲は通じず、多勢に無勢の状況。
本能が嫌がり、体が拒否反応を示している。
「……ナミラ」
おもむろに仮面に触れる。
湿った風を感じながら、昨日のことが脳裏に浮かんだ。
ナミラがバビの家に向かっている間、デルたちは村人と協力し避難を進めていた。その後合流し、二人で無人となった民家や村に罠を仕掛けた。罠の設置はポルンの技術を持つナミラとデルにしか、任せられないものだった。
「デル、怖い?」
薄暗い家の中で、ナミラが声をかけた。
「へ? な、なにが?」
「手、震えてるよ」
自分でも気づいていなかったが、糸を張る指先が震えていた。
「そ、そんなこと」
「大丈夫、仕上げは俺がやるから。明日も、わざわざ殺す必要は」
「それって、ナミラが止めを刺すってこと?」
デルの問いに、ナミラは誤魔化すように笑った。
その表情を見ていると、デルは近くにいるのに遠い、幼馴染への想いが溢れてしまった。
幼い頃とは違い、今のナミラには想像を絶する力があって、一人でなんでも出来てしまう。だから全部背負って、傷ついて、守り抜こうとする。
ああ、なんて強くてカッコいいんだろう。
あの夜、僕は戦うきみに心を奪われた。
一生追いつくことはなくても、どんなに厳しい道程でも、命の限り追いかけたい。あの夜のきみに僕はなりたい。
きみは、僕の英雄なのだから。
「それじゃあダメだよ」
泣きそうな声で拳を握りしめる。
でも、ナミラの目はまっすぐに見つめていた。
「……ありがとう」
ナミラはデルの心中を察したように微笑んだ。
「もし、どうしても怖いなら、あの仮面を被るといい」
あの仮面とは、こども楽団で使っているものを差していた。
しかし目元しか隠さないため、デルは恐怖が拭えるか不安に感じた。不安な心の声が聞こえたように、ナミラは口を開いた。
「顔を全部隠せば、まるで別人のように怖くなくなるよ。でも、それに頼ってしまうと、だんだんその人格が支配してしまう。戦うのはあくまで自分だからね。自分を見失わないように、半分は隠さないでおくんだよ」
ナミラは穏やかな声で語った。
「……うん、やってみる。ふくだんちょうだからね、僕は。ナミラも、ピンチになったら僕を呼んでよ」
強がりだったが、デルは精一杯の笑顔を見せた。
「本当に優しいな、デルは」
二人はしばし笑い、互いに友情を確かめ合った。




