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魂の継承者〜導く力は百万の前世〜  作者: 末野ユウ
第二章 少年の日の思い出
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『夢など無かったかのように』

 夢のような時間から一夜が明けた。


 ナミラたちの計画では、数日は自分たちの話題で持ちきりになり、来週の公演にはさらなる盛り上がりが生まれるはずだった。


 しかし、誰も昨日のことなど口にしていない。

 大人たちは皆、二日酔いも感じず慌ただしく動いている。女と子どもも手伝いに駆り出され、一様にピリピリとした緊張感を持っていた。


 その様子を見ていたアニが呟く。


「ねぇ、本当に戦争が起きちゃうの?」



 時間は昨日の夜にまで遡る。

 広場でのショーが終わり、こども楽団はアニの酒場でこっそりと解散した。


 みんな、互いを褒め合い興奮と達成感で満ち溢れていた。それはナミラたちも同じで、ダンはその場の勢いで酒を拝借しようしていたほどだ。

 しかし、大人の味を感じる直前、険しい顔のガイに声をかけられた。


「お前たち、ちょっと付き合え」


 肝を冷やしたダンだったが、べつの用だと分かり胸を撫で下ろした。

 四人はガイに連れられ、遠くに酔っ払いとカエルの声を聞きながら歩き出した。


「ねぇ、ナミラ。これって……」


 黙って歩く父の背後で、アニが心配そうな顔を見せる。


「……うん。きっと、あのことだろうね」


 ナミラは小声で答えながら、ガイの背中を見つめる。

 心なしか、いつもより小さくなっている気がした。


「着いたぞ」


 五人がやってきたのは、冒険者のギルド館だった。


 冒険者とは、ギルドという組織に所属し、クエストと呼ばれる仕事をこなす人間を指している。各国各所にギルド館のような支部があり、彼らは国境に縛られることなく依頼を受けることができる。

 元々は傭兵の集まりだったが、今では特定の国に属さない第三組織としてその力を増していた。


「まぁ、そんな固くなるな。とにかく入」

「ナ・ミ・ラー! すごいショーだったな! みんなもお疲れ様!」


 ガイが扉を開けた瞬間、シュウが飛び出しナミラに抱きついた。


「ちょっ、父さん! 恥ずかしいから離せって!」

「なに言ってるんだ。こんなの親子の触れ合いじゃないか! それに、父さんの教えた魔法が役に立っただろ?」


 シュウの言葉に、ナミラは一瞬口をつぐんだ。

 たしかに、今夜の踊りはシュウが帰っていないと成立しなかった。


 ナミラが踊り子の前世であるターニャの姿になっていたのは、シュウが教えた変身魔法、真似衣ネマネの効果によるものだった。

 この魔法は思い描いた相手の姿に変身できるが、対象と十日間共に過ごさなければならないという条件がある。

 砦から帰ったばかりのシュウに魔法を教わったとき、変身の条件を「元々本人であったなら、その時点で成立するのでは?」と考え、ナミラは試しにターニャの姿になってみた。


 しかし、思い付いてすぐに実行してしたため、その場にいた両親とガイにも見られてしまい、結局ギフトのことを説明する羽目になってしまった。

 もちろん、他言無用の約束を結んではいるが、アニには凡ミスを呆れられダンとデルには笑われた。

 

「まぁ、役に立ったことは感謝してるけどさ」

「なら頭撫でるくらい、いいだろう? う~ん、大きくなったなぁ」

「なにしてんだてめぇ……」


 扉と壁に挟まれたガイがシュウを睨み、怒りでぶるぶると震えていた。


「おっと、怖い怖い。ささ、みんな中に入りなさい」

「てめぇが止めてたんだろうが!」


 口笛を吹いて中に入ったシュウのあとを、腕まくりしながら追いかけるガイ。

 四人とも呆れた顔で見ていたが、緊張が解けていることを感じ、顔を見合わせて笑った。

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