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魂の継承者〜導く力は百万の前世〜  作者: 末野ユウ
第四部ー章 大罪
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『愛風』

 きっとそれは。

 魔法と呼ぶには効果がなく。

 技と呼ぶにはなにもせず。

 奇跡と呼ぶにはちっぽけな出来事。


 けれども命を懸ける彼らの耳には、あの頃聴いた同じ音楽が聞こえていた。


「はああああ!」


 打ち上げられた巨岩に伸びる、無数の糸。

 天まで行こうとしていたそれらを縛り留め、オンラに向かって落とし始める。


「このっ! こんなもの!」


 トロールよりも巨大な雨粒を小鳥のようにかいくぐる。

 さらに高度を上げ、小さな点となった敵を見下ろした。


「これで死ね! 『我万象王也ゼノ』」


 凝縮された魔力の球が、すべてを飲み込み消滅させる最強の御業。

 神々しい黄金の光は、今や淀んだ闇に満ちていた。


「きゃはははは!」

「終わりだぁ!」

 

 ごうごうと鳴る大風と自身の声。

 聴覚を占領された二人の少女は、離れた地上の音など聞く術もなかった。


 属性タイプ:生命

 出力:一二〇%

 術式コード:精霊魔法

 オーダー受諾しました。


「『我万象人也ゼノ・レプリカント!』」

 

 モモが新たに習得した魔法。

 種族の在りようを脅かす、偉大な所業。

 ひとりの少女は愛する人のため。

 精霊の王を超え大自然を従え、万象王の頂に手をかけた。


「そんな! あり得な」

「負けない!!」


 白銀の光は闇を弾き、大穴の上でぶつかり合った。


「あかんあかんあかん! 余波で落ちる! これこの世の終わりとちゃうんか!?」

「なんと……壮大な」


 頭上に広がる未知の光景に、最先端をいく国家の代表は冷静でいられなかった。

 

「偽物にぃ! 負けるかぁぁぁ!」

「それは……あなたのほう!」


 二つの魔力は互いを押し潰し、空間に不気味な歪みを残して消えた。


「な、なんなの、よ」

「疲れてるところ悪いんだけどよ」


 振り向いた視界を埋めたのは、分厚い斧の刃。

 咄嗟に防いだものの、込められた力を受けきれず落下を始めた。


「俺様とも遊んでもらおうか」

「うるさい! 筋肉ダルマ!」


 地上に近づきながら、二人は剣劇を繰り広げた。

 ダンは斧だが、動きと速さで刀に引けを取っていない。


「このっ! このっ! なんでっ!」

「ったくよぉ、つまんねぇぜやっぱ。ナミラなら、もっとヒリヒリする戦いになるのによ」

「あぁ? こんな程度で調子に」

「だからよ」


 ダンの目に静かな殺気が灯る。


「デカいの一発いくぞコラ」


 闘気のスペシャリストたちとの修練で身に着けた、ダンの新たな力。

 それは、ただ闘気の操り方を学んだだけにすぎない。

 しかし、それだけで十分だった。

 体得に至ったダンはラライアの猛攻を退け、ガーラの必殺技に打ち勝った。

 世界最強に相応しい力は、すでに彼の中にあったのだ。


「俺流闘技 スーパー兜割り・究極斬っ!」


 刹那に爆発した闘気がすべて巨斧に宿り、煌々とした輝きを放つ。

 一切の手加減なく振り下ろされたウルティマは、他を寄せ付けない金色をぶつけた。


「ぎゃ!」


 短い悲鳴を残し、オンラとジルは地上へ落とされた。

 大穴のとなりに深い穴がもうひとつ生まれた。


「っち、手応えねぇな」

「いやいや、洒落になってないよダンちゃん」

「まぁ、死んではいないだろ。なぁ、アニ?」


 見下ろした大地に渦巻く風。

 烈風の賢者に師事し、アニが体得した闘気と魔力の混合。

 ナミラにしか出来なかった神技を、彼女は操ってみせた。


「闘魔融合 愛風あいかぜ


 風の中を歩き、跳ね、華麗に舞う。

 彼女たちを閉じ込める風は温かく、戦いの中にあって優しさに満ちていた。


「なによ、これ……」

「オンラ、余計なこと考えちゃダメ。一気に吹き飛ばして」

「できないでしょ?」


 揺れる双剣が撫でるかのように迫り、オンラとジルは慌ててのけ反った。


「目覚めてから、かなりの魔力と闘気を使ったはずよ。いくら前世があるとはいえ、体力が持たないでしょ?」

「お前に分かるもんか!」

「分かるよ。だって、ナミラのことだもん。ナミラのことは、ずっと見てきたから」


 真綿に包まれるような感覚の中、注ぐ眼差しが復讐の女たちを縛った。


「返してもらうよ、私の……好きな人を」


 音が消え、まるで時の止まったような世界で。

 熱い唇が、そっと重なった。


「「んぐっ!?」」


 戸惑いと驚きの声は、アニの中に凪ぐ風に飲まれた。

 周囲を包んでいた風が桜色を帯び、わずかに空いた隙間から体の中へ侵入していく。


(お願い、愛風。みんなの想いをナミラに届けて)


 風はダンとデルの闘気とモモの魔力の残滓を巻き込み、みるみるうちに消えていく。


 その中に。

 四人のものではない光の粒が含まれていたことを、だれも気づいてはいなかった。

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