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魂の継承者〜導く力は百万の前世〜  作者: 末野ユウ
第四部ー章 大罪
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『遊ぼうぜ』

 異変はすぐに起きた。

 前触れもなく現れた風雨と広がる黒雲。悲鳴のように轟く雷鳴。

 その中心に浮かぶ半面の少女たちは、ありったけの憎しみを湛えた表情をしていた。


「「お前たち……」」


 絞り出した声が乱れる。

 しかし、眼下の少年たちは動じない。軽い目配せののち、それぞれの役目を果たすべく動き出した。


「いくぜぇ? 斬波ぁ!」


 剛力で放たれた荒々しい三日月。

 太陽にも見間違う波動と光が、乱れ始めた天気を吹き飛ばした。


「くっ!」

「『集えや集え 我が手に遊べ 礫の子らよ 襲えや襲え』」

 

 属性タイプ:土

 出力:六〇%

 術式コード:改変初級魔法

 オーダー受諾しました。


「『石翔大弾ストーン・バレット・マキシマ!』」


 小石を飛ばす土の魔法が、モモによって大岩を放つ魔法に進化した。

 ガルフが伝授した奥義を応用した、新たな魔法の姿である。


「このぉ!」

 

 迫りくる巨石群を躱しながら、オンラたちも反撃の準備を進める。


「ホッホホウ!」


 しかし次の瞬間。

 岩と共に飛来した道化師の糸によって、絡めとられてしまった。


「くそっ! デルだな? 調子に乗るなよ雑魚が!」

「そうだよ、お前が一番怖くないんだから!」


 炸裂した闘気によって拘束を抜けると、殺気を伴った刃がデルに斬りかかった。

 ひょいと避けた道化師はそのまま、打ち上がる岩たちを足場にし交戦を開始した。


「きゃははははは! そんな攻撃なんて当たるか!」

「指の糸にさえ気を付ければ、お前なんて!」


 嘲る笑いは大きくなり、広がった鋼線の巣を弾き飛ばした。

 そして、隙だらけの腹めがけて飛び込む。


「そうだよねぇ。僕なんて、死ぬ気で特訓してもたかがしれてるよ」


 投げつけられた罵詈雑言に、デルは苦笑した。


「ダンちゃんみたいな力はないし、アニみたいに運動神経よくないし、モモちゃんみたいな魔力もない。器用貧乏で憧れだけが強い凡人さ。でも、それがじっとしてる理由にはならない。友達を、憧れの人を助けようとしないなんて、僕には無理だ!」

「「じゃあ憧れの存在に殺されろ!」」


 これから飛び散る鮮血を予想し、不気味な笑みが勝ち誇る。


「お前じゃないよ。僕が憧れたのはナミラ・タキメノだ。僕の幼馴染はお前なんかじゃない! 僕はナミラにたくさんのものをもらった。たくさん助けられた! だからっ、今度はっ!」


 肉を貫こうとした刀が止まる。

 なにが起きたか分からず、オンラたちは目を見開いた。

 高速の刺突を止めたのは巻き付いた複数の糸。

 ただしそれらは、全身を隠すマントの中から飛び出していた。


「僕がナミラを助ける番だ! そのためなら」


分厚いマントが、気流に巻き上げられて空を舞う。


「――――人間だってやめてやる!!」


 陽光に照らされたのは、硬く鋭い鉱物の光。

 脚部のモーター音が風を裂いている。腹部は鉄板のシックスパックが広がり、胸部には人工的な光が輝いている。

 攻撃を防いだ糸は、肩部に開いた射出口から伸びていた。憧れを抱き、勇ましい未来を夢見た瞳は、絶え間なくデータを集めるレンズがきらめいていた。


「お、お前っ! その姿は!」

「レオナルド将軍の人体改造とダーカメ連合の最新技術の成果さ。シュラさんにも無理言って手伝ってもらった」

「いやいやいやいやいやいやいやいや! 生きてるわけない!」


 金切り声を上げ、前世の記憶を有する頭は髪を振り乱す。


「仮に改造手術の激痛に耐えたとしても! お前みたいな貧相な体が負荷に耐えられるはずない!」

「そうだね。僕には左大将軍みたいな頑丈さはない。だから、助けてもらったのさ。賢者様に」

「賢者?」


 胸の小さなハッチが開き、中のものが露わになる。

 怪しく、それでいて神々しい光を放つ液体があった。


「水界の賢者ミドラー・エリクサー様から賜りし、長寿の酒エーテル! これが僕の動力源だ!」


 今や一体化した技巧手袋の指、肩の射出口に続き、前腕部にも砲身が現れた。

 両腕合わせて六門。火竜の咆哮を思わせる業火が吐き出される。


「うわああああ!」

「このぉ! エーテルに注目させておいてぇ!」


 押しても引いても離れない竜心を手放し、オンラたちは火の手から逃れた。

 しかし、その背を巨石が追い続ける。


「……マザードラゴンさん、ゴムダムさん。取り返したよ」


 手にした友の愛刀は、驚くほどに軽い。

 まるで母の手のように温かく、デルは泣きそうな安心感を感じた。


「よっと!」


 糸と脚のサスペンションを利用し、デルは常人では考えられない高さから見事に着地した。


「おいデル、なんだその体?」


 となりに立つダンが低い声をかける。

 アニとモモも、呆気に取られた表情を向けていた。


「かっこいいでしょ? 名付けてサイボーグ!」


 しかし本人は、いつもと変わらない明るく答えた。


「エーテルによる長寿の効果をエネルギーに変換しているんですね。なるほど、すごい技術です!」

 

 隻眼のモモが、まじまじとデルの体を見回した。


「ま、今さらそんなの見たってなんとも思わないわよ。むしろ、あんたの覚悟が伝わるっていうか」

「おうよ。負けてられねぇぜ」


 ゆっくりと担ぎ上げられた巨斧は、ギラギラと眩い輝きを放っている。

 

「こっちは充填完了だ。アニとモモは?」

「私はいつでも」

「わたしも、タイミング合わせていけます」

「うっし!」


 四つの覚悟がさらに強まり、空を見上げる。


「さぁ、久しぶりに遊ぼうぜ!」

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