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魂の継承者〜導く力は百万の前世〜  作者: 末野ユウ
第四部ー章 大罪
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『欲望堂羅』

「助太刀感謝いたします、ダーカメ様」


 移動要塞頂上のエントランスに、シュラがふわりと着地した。

 

「おう! シュラちゃんにお礼言われるだけでも、めっちゃええ気分やで! せやけど……どいつもこいつも出し抜いて一番乗りしたつもりやったのに、ウチら以上の阿呆がおったみたいやな」


 ギラついていた空気が、途端に陰りを見せた。

 眉間に現れたしわは、横たわる四人を見下ろしていた。


「無事なんか?」

「レゴルス様、ゴーシュ様、ブルボノ様は辛うじて。ですが……シュウ様は」

「我らの責任だ」


 言葉に詰まるメイドに、もはや姿の見えないガルダの声が続いた。

 多腕の中に満ちた精霊の力に身を預け、存在の維持に努めている。


「お前たちも逃げろ、人の子よ。こんな鉄の塊では到底敵わん」

「アホなこと抜かすなや」


 仮にも精霊王に対し、ダーカメは乱暴に悪態をついた。


「ここまで来て逃げるようやったら、ハナから来とらんっちゅうねん。あんさんらこそ、消えかけとるんやからどっかに下がりや」

「しかし」

「意地張る人間が、そいつらだけや思うたら大間違いやで?」


 この中で一番小さく弱い男。

 にもかかわらず、有無を言わせぬ強者の背中をしていた。


「行きなさい、シュラさん。きみにも、まだ希望があるのだろう?」


 レイイチに促され、シュラは小さく頷いた。


「では……お気をつけて」


 精霊王と四人を連れ、ゴーレムメイドは空を飛んだ。


「さて、待たせてもうてすまんのぉ。って、まぁタダで待っとったわけないか!」


 目の前で渦巻く禍々しい闘気。

 ジルとオンラは刀を掲げ、新しいおもちゃを得た子どものように笑っていた。


「「真・斬竜天衝波!」」


 ナミラが放つものと違い、どす黒く不気味な闘気の竜。不揃いな牙を剥き、ダーカメたちの要塞へ襲いかかる。


「よう我慢したなぁ。もうええで、行ってこいや!!」


 主人の声に飛び出した猛犬。

 連合一の戦士ダイスケが、憤怒に顔を染めて剣を抜いた。


「よくも妖精剣士を、シュウ・タキメノを! あいつは俺が倒すはずだった。貴様許さん!!」

「その妖精剣士より弱いお前たちが、このワタシを倒せる言うの?」


 あざけりが囁かれ、黒竜がダイスケに迫る。


「倒せるわけないやろ」

「天地がひっくり返っても無理ですな」


 危機的状況にもかかわらず、背後の二人は切れ味鋭い言葉を返した。


「せやけどなぁ。チビにはチビの、雑魚には雑魚の戦い方ってのがあんねん」


 磨かれた金歯が、男の笑顔を派手に彩る。


「ぶちかましたれ、ダイスケ!」


 抜き放たれた刃がみるみるうちに姿を変える。

 複雑に絡み合った鉱物が解け、長さを形を大きさを変え、現れたのは機械仕掛けの獣。黒竜を丸ごと飲み込む歪な口が、貪欲な産声を上げた。


「グオアアアアア!!」

欲望堂羅(デス・イーター)!」


 怨念に染まったとはいえ、破壊力は本家にも劣らない闘気。

 そんな力に、生まれたばかりの獣はガブリと噛み付いた。


「無駄なことを!!」

「キモチワルイ!」


 二人の少女が奇声を発し、拒絶に反応した竜が暴れ出す。

 しかし、その体は次第に小さくなっていった。

 まるで、消化されるように。


「なっ!?」


 驚きを隠せず、半面の狂気は上空へ逃れた。

 ナミラであれば、足下の敵へ警戒を残して飛ぶだろう。しかし、オンラとジルはただただ恐怖と不快感を投げつけ、脱兎の如く空を駆けた。


「どんなもんや! そいつの腹ん中には『神の涙』の模倣品仕込んどんねん!」

「出力はかなり下がりましたが、闘気だろうとエネルギーであれば食い尽くす。そして変形に伴う激痛に耐えられるのは、連合一頑丈なお前しかいない。ダイスケ、頼んだぞ!」

「ウス!」

「グオッ!」


 不恰好ながらダイスケに人懐っこい笑みを見せ、デス・イーターは太い首を伸ばした。

 作られて間もないながら、主従に近い関係を得ているらしい。過剰なまでに距離を取った餌を、一目散に追いかける。


「なんだか似てる」

「そうね。欲まみれのとこが、あいつらに……」


 見下す視線に殺意が宿ると、濃密な魔力が周辺の景色を歪ませた。


「あかん! 逃げ」

「『我万象王也ゼノ』」


 凝縮された魔力が禍々しい球体を作り出し、デス・イーターの顔面を包んだ。

 伸ばした牙は触れることができず、悔しげに震えている。


「「消えろぉぉぉぉぉぉぉ!」」

「舐めるなあああああああ!」


 初めて見たはずの顔に、積年の恨みが向けられた。

 ダイスケは正面から迎え撃ち、構わず進む。。


「グオ」


 しかし握られた柄が伸び、主人を突き飛ばした。

 プログラムにない、デス・イーターの行動。

 ダイスケの体は、移動要塞に向かって落ちていく。


「イーター!!」


 悲痛な叫びのあと、全方位からの重圧が鉄の体を押し潰す。

 許容量を超えた魔法兵器にも亀裂が入り、瞬く間に消滅した。

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