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魂の継承者〜導く力は百万の前世〜  作者: 末野ユウ
第四部ー章 大罪
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『道筋』

「これは……」

 

 超天魔法の波動を感知し、エズトラ領へ飛んできたガルフは言葉を失った。


 発動するだけで周囲の環境に影響を与える最高位魔法。

 しかし、超天魔法の出現から改めて研究が行われ、その特性は魔力の分散によるものだと判明。現に聖具の結界などで防ぐことが可能であり、魔力循環が完璧でない証拠であった。

 だが、超天魔法はその問題点を解消した。

 最高位魔法を優に超える魔力量を誇りながら、凝縮された魔力は敵をせん滅するためだけに使われる。それ故、超天の名に相応しい威力を発揮するのだ。

 賢者たちによってまとめられた研究結果は、世界中に伝わった。

 しかし、その中で唯一。

 防がれた場合、相殺された場合の影響は『不明』と記されていた。


 そして今、ガルフの目の前には世にも奇妙な光景が広がっている。

 

「ミドラー! どこにいる、ミドラー!」


 この場で戦ったであろう、友の名を叫ぶ。

 炎天下の空の下、どこからともなく豪雨が降り視界が悪い。砂漠のど真ん中にこんこんと湧く湖の上では、ゆらゆらと火が躍っていた。

 

「これが超天魔法同士の戦いか……」


 顔に滴る雨水を拭い捜索を続ける。


「ガ……ルフ」


 湿った砂の中から声が聞こえた。

 懸命に砂を掻き出すと、息も絶え絶えなミドラーが姿を見せた。しかし、白い肌には火傷が広がり、自力では動くことができずにいる。


「無事かミドラー! まったく、なんて無茶を」

「アヴラは……逃げちゃった。でも、あの子もしばらくは……動けないでしょ……それ、より」

「大丈夫じゃ。お前のおかげで、ナミラくんは無事に到着した。少しは時間が稼げるじゃろう」


 モモに向けるのと似た笑顔を浮かべ、回復魔法を唱え始める。


「ははは……頑張った甲斐があったな……よし、祝杯をあげようじゃないか」

「こんなときくらい我慢せんか」


 笑い合っていると、途端に二人の顔が強張った。

 鎧の揺れる音と人の気配が近づいている。


「……待っておれ」


 ガルフは杖に力を込めた。

 口の中で呪文を唱え、先手を狙う。


「『雷光ライトニン』」

「ままままま待たれよ、雷迅のガルフ殿!」


 視界に入った男は慌てて両手を上げ、敵意がないことを示した。

 ガルフは杖に雷魔法を帯電させたまま、男を睨みつける。


「何者だ」

「私はこの国の第二王子、アテン・ファラオ・エズトラと申す者。争うつもりはありません。ガルフ殿、ナミラ・タキメノから貴方へ、伝えてほしいと頼まれたことがございます」


 恐怖に震えつつも、アテンは互いの顔が見える距離まで進んだ。

 帯剣もしていないことを確認すると、ガルフは空に向けて魔法を放った。


「……お聞きしよう」


 アテンは自身の身に起きたことを伝えた。

 話し終わる頃、目の前の老体は感激に震えていた。


「そうか、やはりそうか! ナミラくんの魂はまだ穢れきってはおらん!」

「あのときボクが見たのも、見間違いじゃ、なかった……んだねぇ」

「儂の勘もまだまだ捨てたもんじゃないの。仮説が正しければ、今いる場所はナミラくんにとって最良の場所のはずじゃ。うまくいけば、解決の糸口が見つかるやもしれん!」

 

 嬉しそうに笑う二人の様子を見ていた王子は、意を決したように口を開いた。


「お二方。もしよろしければ、ミドラー殿を我が王家で保護させていただけませんか? この場ではろくな治療もできないでしょう」


 誰よりも驚いたのはミドラーだったが、動けない彼女に代わりにガルフが疑問を投げかける。


「よいのか? この者は大罪人を逃がしたのだぞ? それにナミラくんは、チャトラを殺し貴殿の兵も殺したはずじゃ」

「ナミラ・タキメノは、たしかに我が国の宝を奪いました。しかし、それは彼の意思ではなかったのでしょう? 我が軍には彼を討ち取る力はない。ならば正気に戻って、あの力を償いに使ってほしいと思うのです」


 若く凛々しい瞳が、雨の中で輝きを放つ。


「兵たちは、剣を取ったその日から死を覚悟しております。命を奪おうとした者が、逆に奪われたからといって文句を言えましょうか」

「立派じゃの……ならば、そのご厚意に甘えまする。よいな、ミドラー」


 ナミラたちと出会ってから自身の老いを日々感じてきた雷迅の賢者だったが、この場でも若い世代に敬意を抱いた。


「身の安全は、我が名にかけて保障いたしますのでご安心ください」

「断る理由……ないよ~。それに、ボクのうしろにはダーカメ連合があるし……ね。貸しを作ったほうが得だって……王様たちも、わかるでしょ」


 ミドラーの笑いを聞きながら、ガルフは雨が降る晴天を見上げる。

 

 待ち受ける未来が、少しでも好転することを願って。

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