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魂の継承者〜導く力は百万の前世〜  作者: 末野ユウ
第二章 少年の日の思い出
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『日曜勉強会』

 日曜日はいつも、この広い草の上で子どもたちに読み書きや計算、前世を利用して村にいては知ることもない世界の話などをしている。


 子どもたちに前世の物語を聞かせてやるとき、ナミラの心に温かいものがじんっと広がっていく。これはきっと実在した人間としての前世たちが、時を経て語り継がれることに喜びを感じているのだろうとナミラは思っている。


「はいはい、みんな静かに。こら、モロ! 鼻ほじるのやめなさい!」


 アニはさらにしっかりした姉貴分として、子どもたちのしつけ役を買って出ていた。

 ナミラは親切心からだと思っていたが、アニがナミラと一緒にいたいだけだという本心を子どもたちは見抜いていた。 


「はい、じゃあ先週の続きから。魔素と魔力の違いについて……シロ。答えてみて」


 子どもたちが向かい合うように座ると、ナミラは咳ばらいをして勉強会を始めた。

 指名された少女が立ち上がり、空を見つめながら答えた。


「えっと、魔素は自然界にあるもので、魔力は生き物が持っているものです。魔獣や魔物が生まれるのにも、濃い魔素が必要になります。魔力は生き物が生きるのに必要で、魔法を使うときにも使用します。でも、魔素は魔法には使えません」

「うん、そうだね。でも、魔素を自分の力に変えられる存在もいるよね? なんだったかな?」

「精霊族です。精霊族は、自然の魔素が命を持った種族だから、魔素をそのまま使えます。でも、シルフは風、ウンディーネは水など自分が司る魔素でないと使えません」


 シロが答え終わると、周りの子どもたちから「おぉ!」と歓声と拍手が起こった。


「うん、上出来だね。すごいよ、シロ」


 褒められると、シロは嬉しそうに笑いその場に座った。


「ちなみに、精霊族と契約を結ぶことでその力を借りる精霊術ってのもあるんだ。エルフとか風の精霊術が得意だね。ま、人間は一番下の妖精と契約できるのも稀なんだけど。彼らの力が強すぎて、耐えられないから」


 ナミラが苦笑すると、何人かの男の子から「おれはけいやくする!」と強気な声が上がった。


「あははは。うん、この中から妖精と契約できる子が出てくれるといいな。人間でそんなことできれば、それだけで英雄だからな!」


 英雄という言葉が魅力的だったのか、子どもたちの目が輝いた。

 でも、この村での幸せもいいもんだぞ?

 口には出さなかったが、一瞬だけナミラは子どもたちを慈愛に満ちた大人の目で見つめた。


「じゃあ、そんな強くなりたいみんなのために、今日は闘気について学ぼう」


 気を取り直したナミラが杖を置き、腰の剣を抜いた。

 このショートソードは兵士リクのもので、五十八年前に死ぬときまで振るっていたものだ。

 武器屋で中古品として売っていたが、修繕をして新品同様の切れ味を取り戻している。


「闘気っていうのは、簡単に言えば戦う意思の力だ。戦うぞっていう覚悟や、相手に勝ちたいっていう気持ちがオーラになる。こんな風に」


 ナミラが剣を構えると、体から光が発し炎のように揺らめいた。


「すごーい!」

「おれも! おれもやる!」


 騒ぎ始めた子どもたちを、アニが「静かに!」と一喝した。


「この力の源は純粋な体力、精神力、生命力。それらを合わせた武力に比例する。だから、心と体を鍛えれば鍛えるほど強くなる。でも、魔力と同じで使いすぎると命の危険があるからな。会得できても注意が必要だぞ?」


 ナミラの言葉を、子どもたちは真剣な顔で聞いていた。

 戦闘系前世のアルファとリクは、それぞれ魔力と闘気の枯渇こかつによって命を絶っている。だからこそ、ナミラの言葉はこれ以上ない重みを感じさせた。


「でも、こんなこともできるようになる……闘技 斬波(ざんぱ)!」


 ナミラが剣を振るうと、剣に宿った闘気が斬撃となって放たれた。

 光の斬撃はまっすぐ飛び、近くにあった岩に大きな傷をつけた。


「おぉ!」

「すっげぇ!」

「かっこいい!」

「ナミラ素敵!」


 子どもたちから驚きと歓声が上がった。

 ついでにアニも黄色い声を上げ、年長の子どもからはやれやれと呆れられていた。


「どうだ、すごいだろ? 闘気を使う技は闘技って言うんだ。ちなみに、デルが使う影縫いも同じ闘技なんだぞ? 攻撃の威力を上げたり、特殊な効果を発生させるのが闘技の特徴だな」


 ふふんっ。と、ナミラはドヤ顔を浮かべた。


「ダン兄ちゃんのブーメランは?」

「あれは……単純な力技だ」


 気まずそうに目を逸らしながら、ナミラはもそもそと答えた。


「じゃあ、スーパー兜割りは?」

「あれも普通の技だ。闘気が使えなくても習得できるよ」

「なんで? なんでダン兄ちゃんの技には闘技がないの?」


 子どもたちの真っすぐな目が痛い。


「ダンは……なぜか闘気のコントロールが上手くいかないんだよ。素質はあるはずなのに」

「魔法も基礎魔法は覚えられたけど、からっきしダメだしねぇ」


 アニも続けてため息をついた。


「わかった! ダン兄ちゃんって、バカなんだね!」

「だぁれが馬鹿だってえぇぇぇ?」


 驚かそうとこっそり近づいていたダンとデルだったが、子どもの声にダンがたまらず飛び出し、背後で怖い顔をしていた。


「ダ、ダン!」

「ナミラぁ~、お前どんな勉強してんだ~? いいだろう、俺様の力を思い知らせてやる!」


 子どもたちは「キャー!」と笑いながら散り散りに逃げ、怒りの矛先が向けられたナミラは追いかけ回された。


「もう、勉強会がめちゃくちゃじゃない」


 アニが頬を膨らませる。


「あははは。まぁまぁ、いいじゃないの。あ、これ食べる?」

「ん、ありがと」


 アニは、デルに差し出された果物をかじった。

 目の前では飛行魔法で逃げようとしたナミラが、敵に回った子どもたちによって杖を取り上げられ、ダンに捕まったところだった。


「そういえば、ガルゥどうなった?」


 指についた果汁を舐めつつ、アニがデルに聞いた。


「うん、ナミラの予想通り。道具屋のおっちゃんに引き取ってはもらえたけど、査定は待ってくれって。僕らと入れ違いで、シュウさんとガイさんが来たからさ。たぶん、そういうことだと思う」

「そう……」


 暗い顔になったアニに、デルが手品で一輪の花を出して渡した。


「大丈夫だよ。きっとナミラがなんとかしてくれるさ。もちろん、僕やダンちゃんもね」

「……うん、ありがとう」

 

 微笑みに元気が戻ったのを感じると、幼馴染の道化師は嬉しそうに笑った。

 草の上では、ダンがナミラにオリジナルの関節技をキメていた。


「うわぁ、あれ痛いんだよね。さっき僕もやられたんだけど」

「ふふふっ」


 故郷の平和な時間。


 こんな幸せがいつまでも続いてほしい。


 アニは静かに祈り、ナミラはどの人生でもなったことのない体勢でありえない箇所に痛みを感じ、悲鳴を上げた。

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