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魂の継承者〜導く力は百万の前世〜  作者: 末野ユウ
第三部二章 西に行くもの
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『セキガ草原の戦い 決闘の鎖』

「よっしゃああああああ!」


 最前線のダンをはじめ、王国軍は歓喜に沸いた。

 開戦から驚異的な力を見せていた新型装備のゴーレムは倒され、当主ダーカメの誇る機動要塞は半壊。全体を見ていたシュラからシュウや火縄銃部隊の活躍を聞き、すでに勝利を確信していた。


「に、にげろおおおお!」


 一方で、連合軍の兵たちには絶望が広がる。

 元々高い給料に釣られた者や他国からの派遣であった者は逃げ惑い、武器を捨てて降伏を始めていた。


「まだだ! ダーカメ様のため、連合の未来のために! 最後の一人になっても戦うぞ!!」


 しかし、それでも剣を取る戦士たちがいる。

 数万の中のたった三百人ほどだったが、誰よりも確固たる忠義を抱いていた。

 心を燃やし、理想と主のために殉ずる覚悟。

 どんな戦士よりも恐ろしく手強い相手がまだ、戦意を向けて立ち向かってくる。


「……あぁいう者が一番厄介だ。だが、こちらも敬意を忘れるわけにはいかない」


 歴戦の右大将軍ドドンが、静かに突撃槍を構えた。

 ダンたちもそれに倣い、流れに逆らって走る戦士たちに剣を向ける。


「ちょい待ちー!」


 最後の衝突を遮る巨大な機影。

 突如飛来したゴーレムからは、ダーカメの声が響いていた。


「なっ!」

「大将のお出ましってわけか!」

「そや! このダーカメ・ゴルドと最強のゴーレム、ジル・ド・レェが相手になるでぇ!」


 大型ゴーレムよりも大きく、多種多様な装備が垣間見える。

 黒光りする機体はダーカメ本人のように踊り、味方の人影を振り返った。


「おう、逃げたい奴は逃げたらえぇ。けどな、約束するで?」


 スピーカーから聞こえる声が低くなる。


「ワイが勝ったら、みんな腹いっぱい食べてあったかい布団で寝られる世界にしたる! くだらん身分なんぞ、くそくらえや! どんなにきったない身なりでも、実力ある奴は上にいけるようにする! どんな奴でも金稼げるようにしたるわ! そんな世界見たないんか? 見たいんはこの三百人だけかぃ?」


 敗戦の気配が一掃され、連合に熱が戻る。

 奮い立つ気持ちは逃げる足の踵を返し、再び手に武器を握らせた。


「……ええで、何人でもついてこい! 連合のど根性、見せたるでええええええ!!」

「「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」」


 最終局面とも言える戦況で、最も士気が上がる連合軍。

 鬼気迫る勢いに乗り、方々に突撃を開始した。


「くそっ! マジかよ!」


 動揺する王国軍だったが、有無を言わせず戦闘が始まった。


「お前らはワイが相手や!」


 見下ろすゴーレムが、笑ったようにも見える。


「なああああああらばああああああ! くらえええええええい!!」


 レオナルドから無数の刃が射出され、ダーカメの操る機体に襲い掛かった。

 しかし、猿のような機敏な動きでこれを躱し、逆に拳を振り下ろした。


「なばあああああああああっ!?」

「レオナルド! おのれええええ!」


 戦車の装甲もたやすく破るドドンの槍。

 しかし、ジル・ド・レェの体には弾かれ、傷ひとつ付くことはなかった。


「まさか! オリハルコンだと!?」

「そやで? 連合の変態科学者プレラーティがシコシコ造った秘蔵っ子や。安い材料使うとるわけないやろ」


 追撃に背中のハッチが開き、マルチミサイルが発射された。

 しかし、地上に降下を始めると同時に八本の腕によって撃ち落された。


「脅威レベル最大。全力で排除します」

「上等や。どっちが最強のゴーレムか、勝負といこかい」


 シュラの腕からは魔法陣と共に光線を放ち、鉄拳を飛ばす。

 一方ジル・ド・レェもレーザー砲やアンカーパンチなど様々な装備を駆使し、激しい攻防を繰り広げた。

 戦いながら、シュラは初めて目にする機体の解析を進めていた。ナミラのスキルには少々及ばないながらも、機体の詳細を知ることはできる。


「これは……ダーカメ・ゴルド、それは危険です。今すぐ降りてください」


 感情表現の乏しいシュラの顔が強張る。

 対して、声をかけられたダーカメは笑った。


「なんや、優しいやんけ。ワイの専属メイドにしたろか?」

「冗談はやめてください。あなた、その機体の生体ユニットになっていますね?」


 操縦席のダーカメがニヤリと笑った。

 しかしそこは、席とは言い難い空間。ダーカメは全身に配線を繋げられ、ジル・ド・レェとひとつになっていた。


「そうや。こいつが人喰いと言われる所以やで。古代文明の遺産から復元した機能や」

「それがなんと呼ばれていたか教えてあげましょう。『愚かな兵器』です。たしかに複雑な動きが可能になりますが、パイロットの生命エネルギーを動力にしているんです。鍛え上げた当時のドワーフでも、半日と経たず命を落としました」

「んなこと分かっとるがな。ワイみたいなチビなら、あと一時間くらいやろな」

「でしたら」

「そんくらいあれば十分や。この戦いに勝てればええねん」


 距離を詰め、シュラは呟く。


「愚かな」


 コックピットを狙った一撃。

 装甲を破るに必要な威力は十分にあり、シュラの計算では勝利は確実だった。


「きゃあ!」


 しかし突如ハッチが開き、中から触手のような配線がシュラを縛り上げた。


「なんや、かわいらしい反応するやんけ。ワイのことが心配なら、このままこいつの動力になれや!」

「『四妖精の聖光線エレメンタリオ・ブラスト!』」


 四色の閃光が触手を断ち、シュラを救出した。


「シュウ様!」


 三英雄とゴルロイ、グリの親子と共に戦場を駆けてきたシュウは、落下してきたメイドを抱きかかえた。


「ありがとうございます」

「メイドを守るのはご主人様の務め……かな? だよね?」

「見せつけてくれるのぉ~、さすが妖精剣士やで!」


 笑いながら見下ろすダーカメを、シュウは憐れみを込めて見つめ返した。


「ダーカメ殿、もうやめましょう。そちらの兵も優秀な人たちばかり。その才能を失っていいのか? いろんな種族を巻き込んで、この戦の先にある未来が本当に明るいと思うのか!?」

「やかましい! 美人な嫁さんと子どもに恵まれ、メイドに囲まれて暮らすお前になにが分かんねん!」


 怒りと共に振り下ろされる巨大な拳。

 仲間たちは周囲の敵を相手にし、誰も助けには来られない。


「そうですか……なら、仕方ない。あとは」

「任せて、父さん!」


 ただ一人。

 空から降り立つナミラ・タキメノを除いて。


決闘血契鎖デュエル・エンド・チェーン!」


 光の鎖が首と両手足を結んだ。

 ゴーレムと人が向かい合い、ダーカメととナミラが睨み合う。


「さぁ、最後の戦いといこうか!!」

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