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魂の継承者〜導く力は百万の前世〜  作者: 末野ユウ
第三部二章 西に行くもの
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『セキガ草原の戦い 意地』

「終わりですっ!」

「おらぁぁぁっ!」


 各所でしのぎを削っていた戦いも、勝敗が決しようとしていた。

 北の三英雄もシュウが冷静さを取り戻したことで立て直し、連合側の三人を圧倒する。


四妖精の光刃エレメンタリオ・ブレイド!」


 魔剣と合わせて五つの刃が、ダイスケの闘気を斬り裂いた。


「くっ!!」


 なんとか防ぐが衝撃を受け止めきれず、体勢を崩し地面を転がった。


「もう降参したらどうだ? そこの二人は強いが、洗脳状態だと八割ほどの実力しか出せていない。お前も三人相手じゃ荷が重いだろう?」


 シュウが切っ先を向けて睨む。

 ダイスケの両脇には軽くない傷を負いながらも、命令を実行しようと立ち上がるゴルロイとグリがいた。


「……なにも分かっていないですね。なぜ、この二人を選んだのかを」


 笑いもせず、ダイスケは懐から出したスイッチを押した。


「グアアアアアッ!!」

「オオオオオオッ!!」


 操られた二人の首輪が光り、苦しみの声が響いた。


「なにをした!?」 

「この二人は名高い戦士。その生命力は、いい爆弾になる」


 そんな爆弾に挟まれているにもかかわらず、巨駆の戦士は動かない。


「やめろ! お前も死ぬぞ!」

「自分がダーカメ様から命じられたのは、妖精剣士を無力化することなんで」


 初めてダイスケが小さく笑った。


「ダーカメ連合……万歳」


 ゴルロイとグリが苦悶の表情で叫ぶ。

 浮き出た血管と流れる血の涙が、起ころうとしている悲劇を物語っていた。


「「どりゃあああああ!!」」


 辺り一帯を吹き飛ばすエネルギーが凝縮された、洗脳の首輪。

 常人なら触れることすらできない稲妻の放出をものともせず、伸ばされた手。

 ガーラの両手が風のように素早く、諸悪の根源を奪い去った。


「「えぇいっ!」」


 投げ捨てた空に、蒼い閃光が光る。

 だが間一髪で間に合い、地上への被害はなかった。


「父ちゃん!」

「お父さん!」


 一人が二人に戻り、それぞれの親へ駆け寄る。

 ダイスケはガーラの襲来で蹴り飛ばされ、消された覚悟と目の前の光景に、ただ唖然としていた。


「ガオラン?」

「おぉ……アーリか」


 正気を取り戻した父は、痛みの残る体で優しく我が子を抱きしめた。


「父ちゃん! アタシ、アタシやったよ! 父ちゃんの分まで頑張ったんだ!!」

「あぁ、でかした。意識はあったんだけどな、体が言うこと聞かなくてよ。妖精剣士を前にしたら、なおさら暴れたい衝動が抑えられなくなっちまった」

「お父さん……ボク」

「よくやった、息子よ。シュウ・タキメノの子をお前が先に倒せば、我が国が連合に従わずに済むかと画策もしたが、エルフの援軍とは……お前は最悪の状況で想像以上の成果を残した。誇りに思うぞ、アーリ」


 横たわった父の胸で、子どもたちは喜びに震え、泣いた。


「ふざ……けるな……ふざけるなぁ!!」


 血を吐きながら、ダイスケは闘気を爆発させた。

 

「シュウ・タキメノぉぉぉぉ! お前だけは殺してやる! 絶対に! ダーカメ様のためにいぃぃぃぃぃ!!」


 武器を構えレゴルスとゴーシュを、シュウが無言で制止した。


「なんでそこまでするんだ? あの男の目的や、その過程になにを犠牲にするつもりなのか分かっているのか?」

「なんであろうと!!」


 大剣を手に、獣のように唸る。


「あの方は自分に生きる意味を与えてくれた! デクノボウと馬鹿にされ、騙され続けた自分を拾ってくれたんだ! 仲間から魔物の囮に、逃げ延びた先でも魔法の実験体になっていた自分を助けてくれた!」


 王国の騎士にも負けない鋼の忠誠心。

 ダーカメに出会い、生まれて初めて感じた幸福感。

 邪魔だと言われた体躯を「羨ましいわ」と笑い、恐れられた怪力を「すごい」と褒めてくれた。頭を下げたダーカメが口にした「ワイの力になってくれ」の一言は、一生忘れない。


「あの方が進む道が自分の生きる道。この体も命もすべて、ダーカメ様のためにある! あのとき飲んだ温かいスープ、包んでくれた毛布、いただいた幸福のすべてに報いる!!」

「……そうか」


 鬼気迫るダイスケの正面で、シュウは静かに構えた。


「なら、全部乗せて来い! こっちにも意地があるんでな!」


 一瞬の静寂。

 二人は同時に動いた。


「うおおおおおおおお!!」


 大木のような闘気の剣が、一直線に振り下ろされる。


「『四妖精の聖光線エレメンタリオ・ブラスト!』」


 迎え撃つ、四色の光線。

 

 拮抗した意地と力は衝撃波を生み、周囲からの横やりを許さない。


「ダーカメ様あああああ!!」


 崇拝する主の名を叫び、ダイスケは閃光の中に消えた。

 再びシュウたちが目にした彼は、抉れた大地の真ん中で横たわり気を失っていた。


「これで分かったろ? 親父の強さが」


 フンッと鼻を鳴らし、妖精剣士は周囲の戦況に意識を向けた。


――――


「どらああああ!」

「はあっ!」

「えやあああああ!」


 ガオラン、アーリと別れたダンたちも戦場のど真ん中で奮戦していた。

 ナミラの戦いを視界の端で見ていた王国側は息を吹き返し、逆に連合側の勢いは弱まっている。


「プルルルルルゥゥゥゥハアアアッ!」

「どけどけどけぇい!!」


 そこにオリハルコンと鎧の左右大将軍が合流した。


「びっくりした! え、レオナルド将軍?」

「その通りだお嬢さんんんん! ここまでの戦いっぷりぃぃぃぃ、左大将軍が褒めて遣わすぅぅぅぅぅ!」

「テーベ村騎士団と学院生だな? ここまでよくやった。こいつのことは気にせず、一気に攻め込むぞ!」


 レオナルドをあしらいながら、突撃槍を構えたドドンが敵陣に目をやる。


「くそっ、来たか!」


 苦々しい視線の先には、不穏に並んだ大型ゴーレム。

 冷却が完了した新型装備の部隊だった。


「ダンちゃん、豪衝波撃てない?」

「……すまねぇ、もうそんな力残ってねぇよ」

「おい、レオナルド。お前のびっくり箱であいつらやれんか?」

「無理いぃぃぃぃぃぃぃ! 飛距離が足らんし数が多いわぁぁぁぁぁ!」


 溜まっていくエネルギーを目の当たりにしながら成す術のない状況に、ダンたちに悔しさが広がっていく。


「心配ありません」


 そのとき、頭上で淡々とした声が流れた。


「家事全般から荒事までなんでもお任せっ! 超絶美少女型自立思考万能メイドゴーレムっ! シュラっ、ちゃんっ、ですっ!」 


 スカートを翻したシュラが、例のキメポーズで着地した。


「おぉぉぉぉぉぉぉ母よぉぉぉぉぉぉぉ!」

「レオナルド、ここはワタシが。あなたは衝撃や飛んでくる石などから、皆さんを守りなさい」

「イエス、マム!」

「この人こんなキャラだったか?」


 ダンが首をかしげている間に、充填は完了してしまった。

 東軍はシュラの背後に回り一縷の望みを託したが、巻き込まれることが分かった西軍は戦いを放棄し逃げまどっていた。


「脅威レベル高。多腕ワンズ展開」


 赤い瞳と呟いた声に反応し、背中から六本の腕が射出され、両腕が切り離された。

 それぞれが飛行し拳を握る。すると魔法陣が浮かび上がり、グローブのように手を覆った。


「来るぞ!!」


 ドドンの叫びとほぼ同時に、百門の砲台から光線が放たれた。

 狙いは小さな体のメイド。

 ぶつかるのは浮遊する八本の細腕。


百腕拳ヘカトンケイル・ラッシュ


 ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド!!


 目にも止まらぬ鉄拳の壁。

 拳が光と衝突し、押し返す異様な光景。


「懐かしい……」


 シュラの脳裏に浮かぶ、かつての記録。

 自分と出会わなければ英雄とされたかもしれない実力者たちを、ことごとく討ち取ってきた戦いの日々。

 そんなダンジョンの守護者アーシュラのことを、人々は恐れを込めてこう呼んだ。

 

 八本腕の怪物、と。


「お掃除やお料理はまだまだ未熟ですが……やはり、ワタシは戦いが一番得意なようです。これが最もナミラ様のお役に立てる」


 顔に薄っすら現れた恍惚。

 本人すら気づかない感情は、対峙するゴーレムとの性能の違いを物語っていた。


「はあああああっ!」


 誰もが恐れ警戒していた光の帯が霧散した。

 そして少しも勢いを落とさない腕がミサイルのように飛び、百機のゴーレムを鉄くずへと変える。


「お掃除……完っ、了っ、ですっ!」


 振り返り、身をかがめていたダンたちにキメポーズをする。

 可憐なメイドの背後で、破壊された大型ゴーレムたちが爆炎を上げた。


――――


「……ふざけんなよボケぇ」


 機動要塞の上で、戦況を見つめていたダーカメが震えた。

 サニーは消え、ダイスケも敗れ、新型装備を搭載したゴーレムも散った。

 あとに残った兵たちは、方々からかき集めた雑兵。数がなければ大した戦力にならず、従わせる力がなければその数も意味はない。

 

「レイイチぃ!」

「準備はできています!」


 背後で計器を確認したレイイチが叫ぶ。

 ダーカメの前には、物々しいスイッチが佇んでいた。


「このまま終われるかい。こうなったら、本丸潰して終いや!」


 乱暴にスイッチが押され、砦が振動を始める。


「この砦に備えた唯一の装備や! 一日一発の超長距離レーザー、たんと食らいやルイベンゼン王!」


 狙いは本陣、王の命。


通天砲つうてんほう発射ぁぁぁ!」


 屋根から突き出した巨大な砲身から、金色の光線が放たれた。

 照準は狂うことなく、戦場を飛び越えていった。


「『威光獅子王剣レオン・バシレウス怒爆閃エクリクシス!』


 次の瞬間、同じく金色の獅子が立ち向かい牙を剥いた。

 獅子王から放たれた神々しくも荒々しい技。剣を振るった王も、憤怒を露わにしていた。


「兵たちに任せて高みの見物など、これ以上我慢できるかぁ! このまま噛み殺してくれる!!」


 呼応するように金獅子が吠える。

 しかし、文明の力は次第に獅子の喉元へ迫っていく。


「よっしゃあ、このまま押し切れ! 一発逆転やぁ!」


 手に汗握りながら、ダーカメが叫んだ。


「くっ……情け……ない」


 こちらは額に汗を流したルイベンゼン王が、歯を食いしばりながら声を漏らした。


「こんな状況でまた、きみの力を借りるとは」


 ゆっくりと刀を構え、王のそばに立つ人影。

 サン・ジェルマンとの戦いを終え、ガーラによって運ばれたナミラ・タキメノである。


「お気になさらず。モモや白魔法部隊のおかげで、だいぶ回復できましたし」

「このくらい、一人でなんとかしたかったのだがな。帰ったら鍛えなおすか」


 疲労が隠せないながらも笑いかける少年に、王は笑顔を返した。


「では助太刀を……真・斬竜天衝波!」


 獅子と共に牙を剥く闘気の竜。

 その姿に、ダーカメはすべてを理解した。


「あんの糞餓鬼があああああああああ!!」

「ダーカメ様!」


 一瞬のうちに通天砲はかき消され、砦は上半分を消失した。

 咄嗟に小型ゴーレムで脱出したレイイチの判断で、ダーカメは無事だった。しかし、勝敗は誰が見ても明らか。腹心であるレイイチでさえ、言葉を選ぶのに時間を要している。


「まだやで……まだ終わっとらん」


 ダーカメを見ていた者たちの背筋が凍り付く。

 怒りと狂気が混ざり合った男からは、戦の終結は感じられない。


「プレラーティー!!」


 怒号に似た声に、白衣の男が慌てて近づいた。


「な、なんでございましょう?」

「お前のじゃじゃ馬、準備できとるやろな?」

「も、もちろんでございますが……」


 目の前のやり取りに、レイイチの顔は青ざめた。


「まさか、ダーカメ様! なりません!」

「アホぬかすな! ここまでやられて黙ってられるかい!」

「なら私が!」

「あかん! ワイがやるんや、ワイが世界を取ったるんや。よぉ見とけ!!」


 プレラーティ博士の首根っこを掴み、砦のさらに後方へ向かう。


「ダーカメ・ゴルド! 人喰いのジル・ド・レェで出撃や!」

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