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魂の継承者〜導く力は百万の前世〜  作者: 末野ユウ
第三部二章 西に行くもの
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『セキガ草原の戦い その名は』

「くそっ、年は取りたくないもんだのぉ」


 セリア王国が誇る戦人、右大将軍ドドンがぼやく。

 目にも止まらぬ銃弾は、鎧の上からでも無視できない衝撃を与える。体が思うように動かず、痛みが毒のように思えてきた。


「まだ数ではあちらが有利。こちらにまで援軍が届くのはいつになることやら」


 ネガティブな言葉とは裏腹に、老練な口元は笑みを浮かべる。

 

 生涯現役を王に誓い、この歳まで戦場を駆けてきた。高い金を払って買った家には、ほとんど滞在した記憶がない。しかし、愛する妻はいつも帰りを待ってくれている。寂しい思いと苦労ばかりをかけたことが、戦いに人生を捧げた男の唯一の後悔だった。


「……すまんなぁ、馬鹿な旦那で」


 指揮は自分よりも相応しい副官に任せた。

 最前線にて血を流す自分にできることは、限られている。共に戦場を生きた、この突撃槍を構えるのみ。

 まとまった援軍が来るまで待っていては、右舷は突破され王の命が危うくなってしまう。どれだけ傷を増やそうと、どれだけ味方の屍を越えようと、右大将軍である自分に進む以外の道はない。


「ここまでの大戦で死ねるなら、戦士としての本望よ。我が死地、愛する妻の腕でなければ、倒し積み重ねた敵の上と決めておる!!」


 遠くに見えるダーカメの機動砦。

 派手なセンスの金色が、これ見よがしに目に映る。


「ちょうどいい。アレを目指して走るとするか」


 体を低くし、敵を見据える。

 

 もはや命尽きるまで止まるつもりはない。

 左大将軍が馬鹿をやらかした今、王国の柱は我一人。

 祖国のため、誇りと繁栄を背負い。

 いざ、血と死に塗れた最期の花道へ!


「ぐっ!?」


 覚悟を決めた、大将軍の決死の特攻。

 しかし、突如走った古傷の痛みに顔が歪み、体勢が崩れた。


「しまっ」


 一瞬あれば、銃を構えた敵陣への突撃は可能だった。

 だがそれは、放たれる銃弾にも同じことが言える。


「よーいしょ」


 胸に広がる言い尽くせない無念を感じていると、頭上で可憐な声が聞こえた。

 同時に、全身を貫こうとしていた弾丸たちは盾のように立ち塞がる棺桶によって防がれた。


「右大将軍ドドン様、お届け物でございます」


 棺桶の上で、シュラは器用に頭を下げた。

 敵はどよめき、攻撃の手が止まる。突如棺桶を担いだメイドが降ってくれば、当然の反応ではあるが。


「おぉ、タキメノのメイドか! ならば完成したのだな!」

「はい。お待たせしました」

「なにがなんだか分からんが、とにかく撃てぇ!」


 指揮官の声に反応して、再び銃口が向けられた。


「プゥルルルルルルルルルルゥゥゥゥハアァァァァッ!!」


 巻き舌全開の叫びと共に、ボロボロになった棺桶の蓋が内側から破られた。

 無数のブーメランのような刃が飛び立ち、瞬く間に銃を両断すると、外界へ踏み出した主の元へ帰っていった。


「聞けえぇぇぇぇぇぇぇい! 有象無象の者たちよおぉぉぉぉぉ!」


 声と刃の主は男。

 有無を言わさず注目を集めると、シュラと共に腰に手を当て踊り始めた。


「我こそは罪を犯しながらも偉大なる王のご慈悲をいただきぃぃぃぃ、親愛なるシュウ・タキメノの支援を得ぇぇぇぇ、ナァァミラ様とシュゥゥラ様という新たな父母によって復活し、生まれ変わった王国の剣んんんんんんんッ! そう! 我が名はあぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


 ピースサインを斜めに構え、キメ顔を作る。


「セリア王国左大将軍んんんんん! レオナルド! フィン! ディオナ! ですっ!」


 キラキラとハートのエフェクトに包まれた二人は、やりきった充実感に満ちていた。

 周りの反応がどれだけ冷めていようと、関係ない。


「おま……本当にレオナルドか?」


 ドドンは、かつてのライバルの変貌っぷりに唖然としていた。


「如何にもぉ! 久しいなぁ、ドドンよ!」

「改造手術受けとるとは聞いていたが……なんだそのテンションは」

「なぁに、生まれ変わっただけであるぅ! もはや罪を悔いることなく死ぬしかないと思えた私に、王は寛大なお心で再び剣として立つ力を与えてくださったのだ! 二度と不遜な考えを起こさぬよう、自分自身で考えた結果がこれよ! 陰気くさいかつての私は死んだのだあぁぁぁぁぁぁ!」

「モルドー泣くぞ」

「すでに泣かれたわぁぁぁぁぁ! でも子はカッコイイと言ってくれたあぁぁぁぁぁ!」


 黒光りする金属の体は、一見強固な鎧に見える。

 しかしそれ自体がレオナルドの新たな肉体であり、左目や斬り落とされた右腕、両耳に至っては、シュラと並ぶ性能のものが取り付けられている。


「では、ワタシは行きます。レオナルド、なにかあれば声をかけます」

「レオナルドイヤーは地獄耳ぃぃぃぃ! 絶対に聞き逃しません!」

「じゃ、お勤めを果たしなさい」

「イエス、マム!」

「マムってお前……」


 飛んでいくシュラに手を振るレオナルド。

 外も中も変貌した馴染みの行動に、歴戦の猛者も言葉が見つからなかった。


「いけ! そのうるさい奴を潰せ!」


 中型ゴーレムが飛来し、レオナルドに鉄の拳を叩きつけた。


「レオナルド!」


 風圧に耐えながら、ドドンが叫ぶ。


「そんなものでぇぇぇぇ、このボディに傷が付くかぁぁぁぁ」


 鋼鉄さえも形を変える一撃を、レオナルドは指一本で止めていた。


「生まれ変わったこの体は、七割がオリハルコン。貴様らのような玩具に、父と母の最高傑作である私がやられるわけないだろうがあぁぁぁぁ!」


 体の各所から刃が顔を出し、左大将軍はニヤリと笑った。


「そして喰らえぇぇぇぇ新たな王国の剣をぉぉぉぉ! 誉れの花びら(マーベラス・ショット)!」


 先ほどの倍はある刃の襲撃。

 本体と同様にオリハルコンで作られており、ゴーレムをいともたやすくバラバラにし、その先にいた敵兵すら切り裂いた。


「……無茶苦茶な体になったな」

「ふんっ! これが私の強さよぉぉぉぉ! 貴様はどうなんだドドン。生涯現役と吠えていた成り上がりの力は、そんなものかぁぁぁぁ?」

「舐めるな。このびっくり箱人間が」


 荒くも研ぎ澄まされた闘気が、ドドンの体に溢れていった。

 一人で決めた決死の覚悟も、尊いものには違いない。だが、どんな形であれ終生のライバルと認めた男と、背を預けて戦う状況には胸が躍る。


「連合の愚者共よ」

「我らセリア王国の左右大将軍を前にぃぃぃぃ」

「「生きて帰れると思うなあああああああ!」」


 二人の大将軍を中心に、右舷でも東からの猛攻が始まる。


 その様子を見下ろしながら、空に上がるナミラは少しの安堵を感じていた。


「これで戦局を左右するところには、全部援軍がいったか。なら、こっちに集中できるな」


 雲を突き抜け、大空に至る。

 

 ひときわ大きな太陽にの下では、双竜豪天衝が真っ二つに引き裂かれているところだった。


「あら、早かったわね」


 闘気の竜が消え去った場所から、香水の匂いと女の声が流れてくる。


「サニー・ジュエル」


 戦場の音も遠く、ただ風だけだ耳を撫でる。

 二人は距離を保ったまま向かい合っていた。


「あなたの相手は私よぉ~ん。どう? 嬉しいかしら?」


 とぼけた表情で笑うサニーだったが、漂うオーラは異次元の強者を思わせた。


「そうだな、嬉しいよ。貸したものも返してもらってないしな」


 だが、ナミラも引けを取らない。

 両者の間では、すでに見えない力のせめぎ合いが始まっていた。


「なんのことかしらん? 私、あなたになにも借りてないわよ?」

「貸したさ。まだビピンでの酒代を返してもらってない」


 ナミラの言葉に、サニーは目を細めて笑った。


「……あぁ、気づいたの」

「もっとはやく気づくべきだった。俺はお前を知っている。いや、俺の前世は()()()お前と会っている!」


 サニーが纏うオーラが不気味に変異する。

 シルフや風の妖精すら逃げ出し、空は無風の静寂に包まれた。


「あるときは敵として戦い、あるときは友として過ごした。そしてお前は、必ず歴史の転換点に現れる。ジュエル家はただの隠れ蓑だろう。当主はずっと、お前ひとりだ!」


 竜心の切っ先を向けたナミラの声が、高い空に響き渡る。


「時の干渉者、サン・ジェルマン! それがお前の本当の名だ!!」

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