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魂の継承者〜導く力は百万の前世〜  作者: 末野ユウ
第三部二章 西に行くもの
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『セキガ草原の戦い 援軍』

「ナミラ!」

「ナミラぁ〜」


 デルとアニが涙を浮かべて名前を呼ぶ。

 安堵と喜びが、全身に満ちている。


「遅いんだよ、てめぇ」


 しかしダンは震えながら、その背中を睨みつけていた。


「覚悟はいいんだろうな?」


 なにも知らない者が見れば、怒りに震えたダンが今すぐにでも襲いかかると思うだろう。

 だがナミラは振り返り、笑った。


「もちろんだよ、団長」

「言ったな? なら」


 止まない攻撃に、大型ゴーレムが加わった。

 砲弾の影が太陽を遮る。


「速攻で合わせやがれ!」

「応!」


二つの闘気が重なり、荒ぶる竜の力を顕現させる。


「「双竜豪天衝!!」」


 二頭を持つ闘気の竜が、浴びせられる攻撃の一切を消し飛ばす。

 周囲の敵を蹴散らし、数万の軍を蹂躙し始めた。


「これでいいか? 団長」

「おうよ。ま、助かったぜ」


 二人は熱い握手を交わし、笑顔を見せた。


「申し訳ないけど、俺は他のところにも行かなくちゃいけない。たぶん、豪天衝もじきに破られる。まだ三人には戦ってもらいたいんだ……」

「当たり前だろ、そのために来たんだから」

「まぁ、休んでいいなら遠慮なく休むんだけど」

「ここからが本番でしょ!」


 ナミラの心配をよそに、幼馴染の三人は頼りがいのある言葉を口にする。

 心に沸いた感謝と感動に涙腺を刺激されながら、ナミラは三人をまとめて抱きしめた。


「ありがとう。でも、ちゃんと援軍は残しておく。ちょっとクセがあるかもだけど、仲良くしてくれ」

 

 体を離すと、背後に二つの人影が立っていた。


「ここは頼んだぞ、二人とも!」


 手甲を鳴らす白虎の獣人少女と、槌を構えたドワーフの男の娘。

 ガオランとアーリが、滾る戦意を燃やしていた。


「おう! 任せろ!」

「頑張るよ!」


 二人は敵を見据え、強者の佇まいを見せる。


「ガルフ様が言ってた、連合でいっしょだった二人ね。よろしく」


 アニが歩み寄り、笑いかけた。


「おう、よろしくな! お前ら三人も強そうだなぁ、さすがナミラの幼馴染!」

「み、みなさんのこともナミラくんから聞いてます。いっしょに戦いましょう」

「なぁなぁ、お前らこの戦いが終わったらアタシと一発ヤんねぇか?」

「「は?」」


 さも当たり前のように、ガオランは明るい笑顔で言った。

 テーベ村騎士団の三人はポカンと口を開けて固まり、ナミラは顔を引き攣らせた。


「ちょ、ちょっとガオちゃん!」

「大丈夫だよ、アタシの本命はアーリだからさ! なんならお前もいっしょにヤるか?」

「そ、そういう問題じゃ」

「なんだよ。ナミラとは三人でヤッたじゃんか!」


 三つの視線が、飛行魔法で飛び立とうとしていたナミラに集まった。


「ナ~ミ~ラ~?」


 そして今までのどの戦闘よりも素早く、アニの双剣が股間に突き付けられる。


「はっや!! ちょ、待ってくれアニ。今は急いで行かないと」

「いいのよ行って。ただ、お股のそれを置いていきなさい」

「死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ!」


 ダンとデルにもなだめられ、アニはしぶしぶ解放した。


「帰ったら……いや、終わったらちゃんと話してもらうから。モモちゃんもいっしょに」

「はい……えっと、みんな気をつけてな」


 げっそりとしたナミラはなんとか奮い立ち、自軍の援護に飛び立った。


「なんだ、お前ナミラのことが好きなのか?」


 すでに影すら見えなくなった空を見つめるアニに、ガオランが人懐っこく聞いた。


「えぇ!? い、いや、その……」


 昔からその恋心を知っているダンとデルは、今さらなにを恥ずかしがるかと冷めた視線を送っていた。


「ちゃんと伝えたほうがいいぜ。ナミラは強くていい雄だから、ライバルも多いだろうし。あとたぶん……あいつは一生戦いから逃れられない。獣人族最強の前世があるんだからな。だから、いつなにが起きても不思議じゃない」


 ガオラン真剣な表情に、憎らしく思っていたはずのアニはなにも言い返せなかった。


「あ、ありがとう……」

「おう! こっちもごめんな、人族はそういうの気にするの忘れてたよ。でも心配すんな! アタシの旦那はアーリだからさ! こいつもナミラに負けない強い雄だ!」

「そうなのね。なら頼りに……って雄!?」


 驚きの自己紹介を済ませた五人は、攻撃の手も止まった阿鼻叫喚の敵陣に、さらなる混乱を与えるため走り始めた。


「モモ!」


 開戦から休むことなく魔法を放ち続ける少女は、立っているのもやっとだった。

 一瞬も緩むことのない緊張の中、ギリギリを保ち続けていたモモは、上空から聞こえた声に思わず涙を流した。


「ナミラくん!」


 足がもつれて倒れた体を、ナミラがそっと支える。

 国と世界の命運をかけた戦いを支えていたとは思えないほど、小さくて軽い。


「遅くなってごめん。今、豪天衝が敵をかき乱してる。少し休むんだ」

「大丈夫だよ……ナミラくんが来てくれたから、嬉しくて安心しちゃっただけ。まだやれるよ、えへへ」

「モモ……」


 健気な献身が儚く痛々しく映る。

 汗で張り付いた前髪をかき上げてやり、ナミラは優しく抱きしめた。


「ナ、ナミラくん?」

「ありがとう、モモ。回復魔法をかけるから、少しじっとしてるんだ」

「……うん」


 こうでもしないと、モモはすぐに呪文を唱えてしまうだろう。

 しかし今は、特別な想いを抱く腕の中で穏やかな表情を見せていた。


「……もう大丈夫。さ、ナミラくん。他の人も助けてあげて」


 体を離し、ニッコリと笑う少女。

 幾分顔色は良くなったが、普段を知る者からすれば弱々しい笑顔だった。


「……分かった。でも無理はするなよ? 俺もいるし、エルフも強い仲間も連れてきた。だから」

「うん、ありがとう」


 モモがいなければ、この戦いは早々に決着が着いていた。

 背負わせてしまった責任と役目に、ナミラはずっと罪悪感を感じていた。


「あ……そうだ。じゃあ、ひとつだけお願い聞いてもらってもいい?」


 両目を隠す前髪を元に戻しながら、モモは頬を赤らめた。


「おう、なんでも」

「勇気と元気……もらうね」


 熱く柔らかい唇が重なる。

 小さな膨らみは恥ずかし気に震えながら、名残惜しそうに離れていった。


「な!?」

「えへへ……これでがんばれる」


 二人が交わしたのは短いキス。

 しかしそれは、極限状態の中で自分の気持ちを知り、愛に満たされた少女の内に力を与えた。


「……気をつけてな」

「うん。ナミラくんも」


 束の間訪れた温かな時間は、かすかな余韻を残して消えた。

 だが、もたらした効果は唯一無二のもの。

 草原の東から、再び激しい魔法の照射が始まった。


――――


「ヒャッハーッ!」


 雄叫びを上げ、ルイベンゼン王のいる本陣へ攻め入る敵影。

 鉄騎馬と呼ばれるバイクに乗り、戦場を高速で駆ける。別動隊として後方から走り出した彼らは、気づかれないよう迂回したにも関わらず、戦いを終わらせる可能性を秘めていた。


「う、撃てぇ!」


 王を守る兵の中から、炸裂音と銃弾が飛んだ。

 連合から与えられた、骨董品と変わらぬ火縄銃。

 ナミラが残した教練書を頼りに訓練し、これが初めての実戦。どうにか撃てるようにはなったが、まだ命中精度は低い。辛うじて当たりかけた弾も、素早い機動力に躱されてしまった。


「ヒャッハー! 本当にあんな古臭いもん使ってるのか! あれは連射できねぇ、このまま突っ込むぜぇ! ヒャッバァガァ!」


 まっすぐに疾走る機影が、乗り手の血を散らせて倒れた。

 まだ来るはずのない次弾が発射され、敵を撃ち抜いたのだ。


「な、なんだぁ!?」

「なんでこんな早く!?」


 進路が乱れ速度が落ちる。

 そんな鉄騎馬部隊を、さらに次の掃射が襲った。


「見たか、我が三段撃ちの妙技」


 火縄銃部隊の中で、ニヤリと笑う魔族が一人。

 別動隊の存在を察知し、部隊を指揮するために駆けつけ、この武器と縁のある前世の姿をしたナミラであった。


「第六代目、天魔王ノブナガ。初代だけが魔王の前世ではないのだよ」


 口髭を撫で、不敵な笑みを強める。 

 底知れないオーラに、そばで見ている味方の兵も恐怖を感じた。


「さらに魔力で弾薬を強化し、貫通力と安定性を上げておる。現代の人族の王、獅子王もやるではないか……くそっ、これを生きているときに思いつけばっ!」


 苦々しい思いを噛みしめる背に、棺桶を担いだ一人のメイドが降り立った。


「お待たせしました」

「シュラか。準備はできたか?」

「はい。時間がかかり、申し訳ございません」


 スカートを持ち上げ、メイドの礼をしたままシュラが答えた。


「よい。元々、ヴェヒタの前世がやるものを無理矢理引き継いだのだ。本来戦闘用のお前に家事全般と合わせてやらせようとした、こちらの落ち度だ……と、ナミラも言っておる」


 メイドを励ますなど前世では考えられなかった行動に、ノブナガは面白さを感じていた。


「シュラ、お前は右舷にそいつを届けろ。その後、戦況を見極め全体の援護に努めるのだ。そして、新型の相手を任せる。あれは古代文明中期にも並ぶ代物。再び動くようならば破壊しろ」

「承知しました……ナミラ様は?」

「……あそこだろうなぁ」


 細い目をして空を見上げる。

 

 暴れ回る双頭の竜。

 なにかと戦いながら、雲の中に消えていった。


「……ファラ様が待っています。ご武運を」

「安心しろ。余がいるかぎり、キンカン頭以外には負けん」 


 ペコリと頭を下げ、シュラは前線へ向かった。


「さて、ここは任せるぞ」


 天を仰いだまま、魔王ノブナガからナミラの姿に戻った。


 闘気の光が雷鳴のように轟く雲を目指す。

 その瞳には、魔喰のときと変わらぬ警戒が宿っていた。


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