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魂の継承者〜導く力は百万の前世〜  作者: 末野ユウ
第三部二章 西に行くもの
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『エルフの隠れ里』

 タキメノの屋敷を朝日が照らし始めた頃。

 ミドラーの私室に置かれた水晶に、セリア王国にいるガルフの顔が映った。


「おぉ! ナミラくん! 無事だったか!」

「えぇ、水界のミドラーに助けてもらいました。ガルフ様の手土産のおかげです」

「やっほー、ガルフ元気〜?」


 わざとらしくナミラの腕にしがみつき、ミドラーが赤らんだ顔で手を振る。


「相変わらずじゃの、お前は」

「ガルフ様、状況をお伝えします」

「うむ、頼む」


 ナミラは自身の置かれた状況を話した。

 ガオラン、アーリ、レイミも顔を出し軽いお辞儀の自己紹介を終えると、今度はガルフが口を開いた。


「そちらで確認しておる通り、すでに我が国はタマガン、レッド、ダーカメの連合軍に宣戦布告を受けた。戦の準備をしておるが、如何せん戦力が足らん。シュウ殿はもちろんじゃが、モモやテーベ村騎士団にも出てもらわざるを得ない……すまん」

「いえ、ガルフ様のせいではありませんよ」


 出かけた言葉を、ナミラは飲み込んだ。

 本人はノリノリだろうが、ダンたちが戦場に立つことには抵抗があった。しかし、疲弊したセリア王国の戦力を考えると、文句は言えない。


「周辺の同盟国は?」

「こちらの書簡にはだんまりじゃ。連合が裏で糸を引いとるんじゃろう。王子らも結界のために残すし、どうやっても数がな……」

「あ、あの、雷迅のガルフ様が出られれば良いのでは?」


 レイミがおずおずと手を上げた。


「それはダメなんだよ〜」


 ミドラーのゆったりとした声が否定する。


「賢者にも制約と誓約があってね〜。やっちゃダメなことがあるんだよ〜。戦争に参加するなんて、一番の御法度だからね〜」

「うむ……申し訳ない」


 悔しさと罪悪感が、顔の皺を深く刻む。


「まだ賢者ではないモモは戦える。じゃが賢者塔に籍を置く以上、超天魔法は秘匿のために使用を許可されん。誰かしらの使い魔に妨害を受けるはずじゃ」

「そうですか……魔族たちに救援は送りましたか?」


 ガルフは苦笑いで首を振った。


「ルイベンゼン王が頑としてやらんでの。恩につけこむようなマネは、絶対にせんと」

「陛下らしいですね」


 ナミラも苦笑する。

 魔族たちは声をかければ喜んで力を貸すだろう。しかし、今は建国に反対する国々を相手にしており、内政も整っていない。今後を考えれば、自国の問題に集中するべきである。そのことを王は理解し、尊重した。ナミラの中の魔族たちが、獅子王の器に感謝の念を抱いた。


「……あと可能性があるとすれば、エルフですね」


 出てきた自分の種族に、ミドラーが首を振った。


「うーん、それは難しいんじゃないかなぁ? 帝国のエルフたちが、北の防衛戦で力を貸したのは聞いてるよ? でも、今はボクみたいなハグレ者以外、隠れ里に籠もってるんだよ」

「隠れ里?」


 アーリが首をかしげた。

 となりのガオランは腕を組んで立ってはいるが、難しい話について行けずにそわそわしている。


「北の森が消滅しちゃったからね〜。今後のことを、百年くらいかけて話し合うみたいだよ?」

「ひゃ、百年?」

「そりゃ都合がいい。老齢なエルフがいたほうが話しやすいからな」


 素っ頓狂な声を上げたレイミとは反対に、ナミラは不敵な笑みを浮かべた。


「どういうことじゃ?」

「かつて古代文明に最後まで抵抗したのは、エルフ族だったんです。今のダーカメ連合を知れば、思うところはあるかと。隠れ里の場所も、なんとかなると思います」

「えぇ! ボクですら具体的なとこ知らないんだよ!? さすがお師匠〜!」

「お、お師匠じゃと?」


 抱きつくミドラーに、ガルフが困惑した視線を向けた。


「と、とにかく! 援軍はこっちに任せてください!」

「承知した。恐らく、決戦の地はセキガの草原になるじゃろう。開戦は……長くても半月後には」

「分かりました。それと、そろそろシュラに引き継いだものが出来てるはずです。いっしょに連れて行ってください。かなりの戦力になるかと」

「あー、あれか。いや、儂も見たし性能は素晴らしいとは思うが……どうにかならんかったんか?」

「あの変化は《《本人》》の意思ですよ。途中からあんなんでしたもん」


 少しばかりの笑顔を交わし、二人は向き合った。


「では、また会おう。必ず、セリア王国で」

「はい。みんなによろしく伝えてください」


 通信が途切れると、ナミラは早速これからのことを四人に話した。


「話に出たように、俺はエルフの隠れ里に行く。レイミさんはここに残ってください。ミドラー、あとを頼んでいいかな?」

「もちろんさ、お師匠。きみたちの魔力の波長は解析済みだからね。連合のれーだー? っても、ここにいるように誤魔化せると思うよ〜」


 ただの酔っぱらいではないところを見せ、ミドラーはたわわな胸を張った。


「僕は……行っても足手まといだろう。言う通りにする。でも、約束してくれ。必ず帰って、レイジ兄さんについて教えてくれるって」

「あぁ……約束するよ」


 ナミラと同時に、魂の中で兄であるレイジ・ベアが頷いた。


「ガオランとアーリは」

「いっしょに行くぞ!」

「行くよ!」


 続く言葉を遮って、二人はまっすぐな視線を向けた。


「本当にいいんだな? 特にアーリは、エルフの里にドワーフが行くことがどんな意味を持つのか、分かっているんだよな?」


 胸を突くようなナミラ言葉。

 しかし、アーリの決意は確固たるものだった。


「分かってる。ドワーフは先祖代々エルフと仲が悪い。隠れ里なんかに姿を見せたら、その瞬間に襲われてもおかしくないよ。でも……お父さんの想いを無駄にはしない。ぼくは、大戦士グリの息子なんだから!」


 儚げな美少年の印象を覆す、強く熱い瞳。

 アーリの覚悟が、その場にいた全員に伝わった。


「アタシも! 父ちゃんの分までやってやる!」


 牙を剥き出し尻尾を立てて、ガオランも高らかに吠えた。


「分かった。二人共、いっしょに来てくれ」

「「応!」」


 気合いの入った声に賢者塔が部屋が震え、何冊かの本が落ちた。


「それじゃあ、善は急げだね〜。魔法で出してあげるよ。ダーカメには秘密だけど、アブダンティアの外ならギリギリ届くから。あ、そこの旅人の服使っていいよ〜」

「助かる。なら、南西の方角に。小国ビピンに続く街道、いけるか?」

「いけますよ〜。お師匠、また美味しいお酒、教えてくださいね〜?」


 ミドラーが胸を押し付け、頬にキスマークを付けた。


「わ、分かったよ。じゃ、よろしく頼む」

「三人共、気をつけて。レイイチ……兄さんのことは、僕が見張っておく」


 レイミに親指を立て、三人は部屋の中央に並んだ。


「『改造術式展開 座標指定 障害なし 水縛の牢獄(アクア・プリズン)』」


 ナミラたちを、再び水の牢獄が包む。


「では、いってらっしゃ~い。じゃ、レイミくん。お師匠の作ってくれたお酒、ボクが再現してみせるから味見してよ」

「え、全部ですか!?」


 最後に聞こえた声は、レイミの悲痛な叫びだった。

 吸い込まれる感覚と息苦しさのあと、三人は朝日の眩しさに目を細めた。


「すげぇ! 本当に外に」

「しっ! 静かに! どうやら街道脇の雑木林みたいだ。だが、警戒を怠るなよ。連合は俺たちを探してるんだ」


 ガオランの元気な声をナミラが制止し、アーリが口を塞いだ。


「わ、悪い」

「そ、それでこれからどうするの?」


 身を潜め小声で話す。


「このままビピンに向かう。今は首都だけの小さな国だから、抜けるのは簡単だ。その先に広がる、オレへインの森が目的地だ」


 枝葉の間から、そっと先を伺う。

 人気はなく、ゴーレムや遠隔の監視も見当たらない。


「よし。このまま雑木林を進んで、途切れたところで街道に出よう。そこからは、旅人のフリをして行く」

「了解」

「なぁなぁ、二人共!」


 神妙な面持ちのナミラとアーリ。

 しかし、ガオランは声こそ小さいものの、興奮を隠せない様子だった。


「冒険みたいで、ちょっとわくわくするな!」


 明るい少女の笑顔に、ナミラたちの緊張もほぐれていった。


 三人は思わず始まった冒険の旅路を進む。


 遥か彼方の背後では、戦火を孕んだ黒雲が広がりつつあった。

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