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魂の継承者〜導く力は百万の前世〜  作者: 末野ユウ
第三部二章 西に行くもの
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『水界のミドラー』

「ターゲットは東商店街方面に移動。ゴーレム隊、迎撃用意!」


 建物の屋根を飛び越え、背を狙う銃弾を避ける。

 待ち構えていたエージェントを倒しながら進むと、小型と中型ゴーレムの連隊が待ち構えていた。


「撃てぇ!」


 エージェントのマシンガンよりも大きな弾が、横殴りの雨となって襲いかかる。

 中型からはミサイルも放たれた。


「ガオラン、アーリ!」

「よっしゃ!」

「うん!」


 ナミラたちはそれぞれ武器を構え、闘気を以て迎え撃つ。


「闘技 斬波!」

「爪獣紅閃!」

破状槌はじょうつい!」


 斬撃と紅の閃光と衝撃波が重なり、迫るすべてを消し飛ばした。


「こっちだ!」

「追え! ドラゴンチームからサンダーチームへ。そっちに向かったぞ! 挟撃準備!」


街中に三人を追う部隊が配備され、行く先々で戦闘を繰り広げざるを得ない状況だった。


「にゃははは! 楽しいな!」


 そんな中、ガオランだけは明るい笑い声を上げていた。


「そんなこと言ってる場合じゃないよ、ガオちゃん!」

「まぁ、たしかにこの三人なら迎撃は簡単だ。だが」


 飛び降りた先で、剣やナイフを使う白兵部隊に襲われた。

 一人一人倒しながら、ナミラは険しい顔で続ける。


「とにかく数が多い。それに、なにより地理的にこっちが不利だ。いろんな意味でな」

「どういうことだ?」

「いやあああ!」


 首をかしげるガオランの向こうで、野太い悲鳴が上がった。

 死角に入ろうとしたゴーレムが商店の看板を壊し、野次馬をしていた男に落下していた。


「こういうことだ!」


 風のように駆け抜け、男を脇に抱える。

 看板を避け、魔氷針アイス・ニードルの魔法でゴーレムを破壊した。


「ナ、ナミ坊……助かったで」


 男は毎朝冗談を交わす顔なじみだった。

 ため息をついて、ナミラは男を下した。


「なにしてんの、おっちゃん。地下にシェルターがあるんだから、はやく避難してって」

「そんなんする奴おらへんって。この街の連中は野次馬根性が座っとるんや!」


 なぜかドヤ顔で、おっちゃんは胸を張った。

 ふと目をやれば、物陰から戦いを覗く一般市民が何人も見える。

 どっちを応援しているのか分からない野次も、銃声に混ざって聞こえていた。


「あんたら巻き込むから大技使えないって言ってんの!」

「街中で使おうとすんなや、そんなもん。そや、お前らなにしたんや? ガオちゃんとアーリちゃんまでいっしょに暴れて……いや、ガオちゃんはべつにおかしないけど」

「……ごめん、ダーカメさんと揉めた。俺たちはアブダンティアを出ていく」


 ナミラの言葉に、おっちゃんは一瞬悲しそうな目をした。


「そか……あの人もいろいろ腹黒いからなぁ。ま、死なずにおったらまた会えるやろ。三人とも達者でな。捕まったら、待遇良くしてくれって騒いだるからな!」

「捕まる前提かよ」

「当たり前や! 連合の軍は強いんやでぇ? せやけど……逃げられたら、そんときも祝ったるわ」


 まるでいつもの朝のように、おっちゃんはナミラたちを見送った。

 その後、知り合いに片っ端から連絡を取り、多くの住民を地下へ避難させたことを、ナミラは知る由もない。


「ゴーレム部隊、援軍到着」

「狙撃班、配置についた。ポイントへ誘い込む」

「くそっ!」


 エージェントによる攻撃の手は緩まない。

 じわじわと、ナミラたちは袋のネズミと化していく。


「ナ、ナミラくん。僕を置いていってくれ。そうすれば、もっと速く動けるだろう?」


 背中に抱えたレイミが、泣きそうな声で囁いた。


「そんなことしたら、犯罪者として捕まってなにされるか分かりませんよ」

「しかし……」

「それにさっきの俺の姿、気になるでしょう? 聞きたかったら、このまま耐えてください」


 レイミはそれ以上なにも言わなかった。

 笑って返したナミラだったが、状況が悪いことも事実。

 ただ大技も最高位魔法も使えない状態では、いつかは連合の物量に負けてしまう。


「大型ゴーレムだ!」


 アーリの悲鳴が上がった。

 道を塞ぐように現れた巨兵は、すでに狙いを定めている。


「誘い込まれたか」

「にゃははは、すげぇい! こうなったら、全力で特攻を」

「ダメだよガオちゃん!」


 手から竜心に闘気が集まる。

 こうなったら、街の半壊覚悟で真・斬竜天衝波を放つしかない。


「投降しろ。きみたちは完全に包囲されて」

「『水縛の牢獄(アクア・プリズン)』」


 間延びする声が響いたかと思うと、ナミラたちを美しい水が囲み一気に縛り上げた。


「ぼがぁ!?」

「ごぼごぼごぼ!」


 全身を水で包まれ、呼吸ができない。

 そして、足元に穴が開いたかのように突如落下する感覚が襲った。


(これは水の中級魔法。だが、俺が知ってるものと違う。こんな効果はないはずだ!)

「黙って来なさ〜い、ガルフの友よ」


 耳元で不機嫌な声がしたかと思うと、四人の視界は荒れる海のように歪んだ。

 何事かと発砲したエージェントたち。

 しかし着弾前にナミラたちは消え、あとには大きな水たまりだけが残っていた。


「ほっ!」

「うわぁ!」

「ぐへぇ!」


 辿り着いた先は薄暗く、床や壁は石造りになっていた。

 疲れ果てているレイミを下ろしてやり、ナミラは周囲を観察する。図書館のように書物が積まれているかと思えば、そこらの酒場より充実した種類の酒瓶が並んでいる。

 初めて訪れた場所。だがナミラには、この部屋の主に心当たりがあった。


「おぉ~、全員来たね〜」


 先ほど聞こえた声がした。

 見ると、本と酒が転がる部屋の隅に人影があった。


「水界のミドラー。西の賢者か」


 他の三人が驚いて人影を見る。

 無理もない。第一印象はただの酔っ払いだ。


「はぁ~い、ボクがミドラーさんですよぉ。そしてここは、西の賢者塔のボクの部屋〜。はい、賢者様に拍手~命の恩人に感謝~」


 立ち上がったミドラーは、千鳥足で近づいてきた。

 よれよれのローブに、大きな丸眼鏡。薄緑色の髪は光石に照らされてキラキラと光っている。

 そして、特徴的な尖った耳。


「エルフか、あんた」

「そだよ~。お酒の魅力に憑りつかれたエルフとは、そう、ボクのことぉ!」


 うへへへと笑いながらよろけたミドラーを、咄嗟にアーリが支えた。


「あ! ご、ごめんなさい。ドワーフが、エルフに触って」

「うみゃ? べつに気にしないよそんなことぉ~。きみかわいいし」


 離れようとした華奢な体に、酒臭い女が抱きつく。


「こいつ酒臭い! 鼻が曲がりそうだ~!」


 近くにいたガオランが涙目で唸った。


「ミ、ミドラー、様。いつも酒のご注文ありがとうございます。ベアズ商会のレイミ・ベアと申します。えっと、普段はお弟子さんが窓口になってますので、お会いするのは初めてですね」


 商人の癖なのか、顔色の悪いまま背筋を伸ばしたレイミが頭を下げた。

  

「はいはい~、こちらこそいつもお世話になってたりします~」

「……酒の探求のために水魔法を極めた変人ってのは、本当だったんだな」


 呆れて言ったナミラだったが、さきほどの魔法には関心していた。

 ただの拘束魔法に強制転移の効果を追加し、しかも複数人を移動させた。並々ならぬ研究と才能がなければ、できることではない。


「あははは、そう言われてるみたいだねぇ。きみはナミラ・タキメノくんだよね? はい、出して」


 ぶるんっと巨乳を揺らし、ミドラーが手を出して物欲しそうな瞳を向けた。


「え、なにを?」

「お酒だよお酒! ガルフから預かってるんでしょ?」


 腰を振って期待の視線を送る。

 気まずい気持ちになったナミラは、さっと顔を逸らして答えた。


「あ、あの……すいません。部屋に置きっぱなしです」


 体にヒビでも入ったのか、ミドラーは膝から崩れ落ちて泣き叫んだ。


「そんなひどいよぉー! お酒もらうために助けたのにー!」

「そのためだけかよ!」


 思わずツッコんだが、部屋中に転がる酒瓶を見ればその理由に納得してしまう。


「もういい! 怒った! ダーカメのところに送ってやる!」


 ミドラーが胸の谷間から杖を取り出し、魔力を込め始めた。


「いやいやいやいや待って待ってくれ! そうだ、あんたが知らない美味い酒の飲み方を教えてやるよ」


 酒で赤くなった耳がピクリと動き、魔力の光が消えた。


「……それ、本当かなぁ? この百年、世界中のお酒を飲み歩いたボクに向かってそんなこと言うなんて〜。嘘だったら承知しないよ?」


 バボン王の前世が、ナミラの顔をニヤリと笑わせた。


「ま、楽しみにしてくれや」

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