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魂の継承者〜導く力は百万の前世〜  作者: 末野ユウ
第二章 少年の日の思い出
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『魔狼再来』

 日差し照りつける夏の日。

 虫や動物たち、草木も伸びやかに生力溢れるテーベ村の森。その森に、かつてオオカミたちを食い殺し恐怖を運んだ魔獣がいた。

 一角の魔狼、ガルゥ。

 その禍々(まがまが)しく恐ろしい獣が、再び森を蹂躙じゅうりんしようとしていた。


「貪り食らえ! ここに住むは弱きものばかりだ。近くにある人間の村も襲い、この地を我らの縄張りとする!」


 ボスの声に、群れのガルゥたちは嬉しそうに遠吠えを響かせた。

 率いるボスは、以前の個体よりも大きく強い。

 群れの数も四〇体と多く、危険を察した森の動物たちは皆怯えて逃げ出していた。


「おぉ、来た来た」


 森を進むガルゥたちは、突如開けた場所にたどり着いた。

 地面が不自然にえぐれ、草花がまばらに生えるのみ。


 その中心に、男がいた。

 頑強なバトル・アックスを担ぎ、不敵に笑っている。


「人間か。ちょうどいい、久しぶりの人肉だ。若い連中に食」

「アックス・ブーメラン!」


 男は担いでいた巨斧を大きく薙ぎ払うように構え、力の限りぶん投げた。

 斧は凄まじい勢いで回転しながら群れに飛び、触れた個体を次々に両断していった。


「なっ!」


 持ち主の手に戻った斧は、ガルゥの血に染まっていた。

 男は再び肩に担ぎ、不敵な笑みのまま吠えた。


「俺様の名はダン! さぁ、かかってこい! 犬っころぉ!」


 ダンの体は大きく、鎧の上からも鍛えられた筋肉が見て取れた。

 脅威などないはずの場所に突如現れた敵に、群れは動揺しつつ同族を殺された怒りをあらわにした。


「なめるな人間! いけ! 奴を噛み殺してしまえ!」


 ボスが吠え、牙を剥いたとき、彼らの耳を蜂のような羽音が包んだ。


 だが、頭上を飛ぶそれは蜂などではなく。

 激しく回転し、飛翔する刃の群れだった。


蜂殺飛刃(ほうさつひじん)


 木の上に隠れていたデルが呟くと、回転していた刃は敵を見つけた蜂のように降り注いだ。

 鋭い刃が突き刺さり肉を断ち、ガルゥたちは次々に倒れた。


「へへへっ、どんなもんだ!」

「やるじゃねぇか」


 樹上から降りたデルはダンの元へ走り、戦果を称えるように互いの手を叩き合った。


「あの人間共……殺す、殺すぞ! 咆哮弾(ハウリング・バレット)を使え! こうなったら我も」


 混乱する群れに檄を飛ばしたボスは、自らも進み出た。

 他の個体も、殺意を込めて口に魔力を集中させる。

 しかし、ガルゥたちは再び不可解なものを目の当たりにする。


 どこからともなく、少女が降ってきた。


 実際は、ダンたちの背後にある杉の木のてっぺんから飛び降りたのだが、あまりに身軽で優雅なため、鳥が着地したかのようだった。


「アニ、やっちまえ」


 ダンが笑って声をかけた。

 アニは振り返ることなく微笑み、両腕を広げて頭を下げた。

 両手には細身の剣が握られており、日の光をギラりと反射させる。


鳥爛舞闘(ちょうらんぶとう)いちの舞。百雀跳閃ひゃくじゃくちょうせん


 少女の目に殺気を感じ取り、ガルゥたちは一斉に咆哮弾を放った。


 アニの目には、襲いかかる音の弾丸は見えていない。

 音速に迫る弾道は、常人には予測も不可能。だからこそ、ガルゥたちの必殺の技とされている。


 しかし、アニは咆哮弾が持つ魔力やわずかな空気の流れを読み、すべてを避けた。

 まるで視線を向けられただけで飛び立つすずめのようなその動きは、完全にガルゥたちを翻弄した。

 そして、気づいたときには眼前まで間合いを詰められており、一閃の下に沈んだ。


「おらぁ!」

「ぼくたちも忘れないでね」


 さらに、怪力無双のダンと無数のナイフを操るデルも加わり、群れはみるみるうちに数を減らした。


「ふ……ふざけるなぁ! 我が直々に噛み殺して」


 飛びかかろうとしたボスだったが、足が地面に張り付いたように動かない。

 慌てて見下ろすと、いつの間にか影に撃ち込まれていたデルのナイフを見つけた。


闘技(とうぎ) 影縫(かげぬ)い。いくらボスでも、もうちょっとの間は動けないよ」


 デルが得意げに口笛を吹いた。


「よっしゃ! アニ、頼む!」

「了解!」


 アニはふわりとダンの背後に舞い降り、大きな背中に手をかざした。


「『駆けろ 跳べ 掴め 守れ 高まり 咲け! 身体能力強化ライズ・アップ!』」


 ダンの体が金色の光を帯びていく。

 アニのかけた魔法は対象の身体能力を一時的に上げるもので、自慢の筋肉がさらに膨らんだ。


「よっしゃあ! いっくぜぇ!」


 雄叫びと共に、ダンは地面を蹴って空高く跳んだ。


「くらえ! ダン・スペシャル兜割りぃぃ!」


 縦方向に激しく回転しながら落下し、ボスに斧を振り下ろした。


「がっ……はっ……」


 脳天への直撃は避けたボスのガルゥだったが、体を真っ二つに両断され、力なく左右に倒れた。


「これで……最後!」


 そして、最後の一体をアニが討伐すると、三人は喜びの声を上げた。


「っしゃああああ!」

「いえーい!」

「やったね! あの魔法使われる前に倒せたし、目標達成!」


 三人は嬉しそうに飛び跳ね、抱き合った。

 周囲の草木に隠れていた動物たちも喜び、森全体が危機が去ったことを祝った。


 そんな彼らを恨みを込めて見つめる者。

 もはやしっぽも動かせなくなった、ガルゥのボスである。


「なめ……るなよ……小童こわっぱ共!」


 最期の力を振り絞り、ボスは角の先に魔狼弾(ドン・ガルゥ)を生じさせた。


「げぇ!」

「ちょっと、ダンちゃん! 仕留めてないじゃん!」

「う、うるせぇよ!」

「喧嘩してないで構えて!」


 慌ててダンとアニが斬りかかり、デルがナイフを投げつけた。

 しかし、黒球が放つ稲妻の前に近づくことが出来ず、ナイフも弾かれてしまう。


「死ねぇ!」


 そのとき、大木の上から涼やかな少年の声が聞こえた。


「『轟く怒り 断罪の光り 罪ごと滅ぼす父の愛 命握りし神の拳よ 眼前の愚者に鉄槌を! 轟雷の鉄拳(ボルテック・フィスト)!』」


 次の瞬間、放たれた魔狼弾を杉の樹上から巨大な雷の拳が襲った。


 二つはぶつかり合い、激しい雷鳴を轟かせる。

 しかし、魔狼弾の勢いはすぐになくなり押し込まれ、ボス諸共雷の鉄拳に潰された。


「ぎゃあああああ!」


 断末魔の叫びを上げ、ボスの体は消し炭と化した。


「た、助かった……」


 デルが腰を抜かして、大きなため息をついた。


「みんな、お疲れ。ちょっと詰めが甘かったね」


 飛行魔法でゆっくりと着地した少年は、身の丈よりも長い杖を持ち、腰にはショートソードを下げている。

 身に纏うローブは灰を被ったような色をしていた。


「そうだよ! ダンちゃんがちゃんとしてないから!」

「わ、悪い……」

「なんにせよ、助けてくれてありがとう。でも、またナミラに助けられたのは悔しいなぁ」


 三人の危機を救った少年は、新たな前世を獲得したナミラに他ならない。

 旅の魔法使いアルファと兵士リクの前世を得たナミラは、強力な魔法と基本的な剣術を身に着けていた。

 背も伸び体つきも良くなり、もう異性に間違えられることはない。しかし、村に寄った女性たちからの求愛や見合いの相談など、新たな悩みが増えていた。


「ダンちゃんが自信満々に、今度は俺たちだけでやる! って言うから、無駄に恥かいたじゃないか! せっかく、ナミラが動物からガルゥのこと聞いて、待ち伏せできたっていうのに!」

「なんだと! お前もノリノリだったじゃねぇか! それに、ほとんど倒したも同然だったろうが!」

「あははは、そうだね。数も強さも倍はあったし、少なくとも四年前のリベンジはできたんじゃない?」


 ナミラの言葉に三人の顔はパッと明るくなり、再び喜びの声を上げた。


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