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魂の継承者〜導く力は百万の前世〜  作者: 末野ユウ
第三部二章 西に行くもの
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『勧誘』

「ナミラくん。おはようさん」

「ナミ坊、今日はうちの手伝いできるか?」


 アブダンティアに着いて一ヶ月。

 ナミラはガオランとアーリはもちろん、街の人々とも積極的に交流を深めていた。

 商店の手伝いや強盗などから人々を助けた結果、噂は街中に広がり、ちょっとした有名人となっている。


「ごめん。これからダーカメ様に会うんだ」

「あー、ならしゃあないな。ってか、やっとお会いできるんやなぁ。失礼のないようにな」

「おっちゃんじゃないから、大丈夫だよ」

「どういう意味や!」


 街の人たちは冗談を言いながら笑顔で声をかけ、手を振ってくれた。


 目指す連合本部は、街のどこにいても見ることができる。そういう意味で張り合えるのは、街はずれにある西の賢者塔くらいなものだが、こちらは厳かで暗い印象だ。しかし、奇抜なデザインの本部は、良くも悪くも街のシンボルと化している。

 路面電車に乗り、最寄りの駅で降りると、建物からの圧がすごい。


「セリア王国派遣学徒。ナミラ・タキメノです」

「……うん、ようこそ連合本部へ。ダーカメ様がお待ちだ。係の案内に従いなさい」


 正面玄関の警備兵に声をかけると、顔と首からかけた身分証の確認を受けた。

 身分証には特殊な魔法陣が刻まれていて、ガオラン、アーリとの一夜が明けた日に届けられた。解析してみると、警備兵のアイガード越しに視認したとき、ナミラの個人情報が読み取れる仕組みになっていた。


「お待ちしていました、ナミラ様。では、こちらに」


 受付にいた女性が微笑み、ナミラを先導して歩く。

 さすが本部と言うだけあって、内部は広く清潔感もある。また、古代文明の技術が使われていて、監視カメラや武装したエージェントたちが徘徊していた。


(……なるほど。あのときの強盗が持っていた銃は、ここから盗んだものだったか。なら、警備にも穴がありそうだ)


 少年の顔で冷静に周囲を観察するナミラ。

 やがて最上階に到着すると、アブダンティアを一望できる広い部屋に通された。


「ナーミーラーくーん! 会いたかったでぇ!」


 陽気で明るい男の声。

 ド派手な金ぴかの服に身を包んだ連合のトップ、ダーカメであった。


「ごめんなぁ、なかなか会えんで。いろいろ忙しかってん。あ、この二人はもう知っとるな。サニーちゃんとレイイチはんや!」


 早口に、同席する者たちを紹介していく。

 その中に見慣れぬ男の姿があった。


「んで、こっちは連合の頭脳! プレラーティ博士や!」

「ふひっ、よ、よろしく」

「……よろしくお願いします」


 よれよれの白衣に、紫の髪。

 笑いながら視点が定まらず、どこか落ち着かない様子である。


(この男が古代文明を再現したってことか……いや、それよりも)


 ナミラは部屋を見渡した。

 大きな円卓があるのは、セリア王国の会談時と変わらない。しかし、ダイスケがプレラーティに変わったものの、連合側は主要な幹部が揃っている。息を潜めてはいるが、部屋の外には多数のエージェントが待機していることも察していた。


(気を引き締めたほうがいいな)


 悟られぬようひっそりと、ナミラは警戒を強めた。


「ま、立ち話もなんやから、座って座って!」


 席に着くと、間髪入れずにダーカメの質問が飛んだ。


「どや、アブダンティアは?」

「はい、すごい街ですね。毎日驚きっぱなしです」

「せやろぉ? 初めて来たもんの半分は腰抜かすからなぁ!」


 愉快に笑うダーカメだが、他の三人は嫌に静かだった。


「きみの噂も聞いとるで? まだ一か月やのに、街のもんとエラい仲良ぉなったみたいやん。ホンマ大人気やん、グッズでも売ったろうかな? あ、そうや。王国の人らとは、連絡取りよるか?」

「はい。昨日も手紙を送りました。友人たちからは、自分たちも行きたいって言われてますよ」

「おぉ! そりゃええなぁ。はよぉ、本格的に国交開始せなあかんな。ご家族は元気か?」


 やることがないからか、レイイチが目の前のお茶を口に運んだ。


「はい、変わりなく」

「そかそか、また妖精剣士に会いたいのぉ。あ、そやナミラくんに相談なんやけど」

「なんでしょう」

「きみ、連合に付かんか?」


 人懐っこい笑顔のまま、ダーカメは軽く言い放った。

 しかし、言葉の内容は重い。


「どういう意味ですか?」

「そのままの意味や。セリア王国裏切って、うちの人間にならんかってこと。衣食住、全部保障するし家族やお友達も受け入れる」

「なぜ、そんなことを? 父は偉大ですが、自分は一介の学生なのに」

「きみがギフト・ホルダーやからや」


 ダーカメに目立った変化はない。

 しかしナミラには、纏う空気が変わったように感じられた。


「きみの活躍は知っとんねん。斬竜団、魔喰、魔王。数々の強敵相手に、アホみたいな力で戦っとるらしいやん。話聞いてピンときたわ。こりゃ、ギフト以外にあり得へん」

「根拠は?」

「ワイの勘や。こういうとき、外れたことがない」


 周りのエージェントたちに、息苦しい緊張が満ちていく。


「誰からなにを聞いたのか知りませんが、少なくとも王国を裏切ることはないですよ」

「うんうん、今はそれでええよ。頭の隅にでも置いといてくれ。ワイは、きみみたいな優秀な子ぉが、連合にいてくれることが嬉しいんや。もっと仲良ぉなって、贈り物の中身も教えてくれたら、なお嬉しいんやけどな?」

「……そうですね」

 

 お互いに含みのある笑顔を交わすと、ダーカメが腕時計に目をやった。


「お、もうこんな時間や! 悪いな、ナミラくん。ワイ、次の仕事があんねん」


 わざとらしいと思いながら、ナミラは「残念です」と返した。


「じゃ、気をつけて帰ってな? ガオランちゃんとアーリちゃんにも会ったら、よろしゅう伝えとってや」

「えぇ。今日はありがとうございました」


 お辞儀をし、ナミラは部屋をあとにした。

 

「やってくれたな……」


 ごくごく小さく呟いた声は、誰にも届かなかった。


 そして扉が閉まるとすぐ、サニーとエージェントたちが血を吐いて倒れた。


「どないしたんや!? みんな大丈夫か?」


 一斉に倒れたエージェントたちは、一様に苦しむ声を上げている。

 ただ一人、こぼれた自身の血を見つめるサニーだけは、不気味な笑みを浮かべていた。


「なにあの餓鬼……面白いじゃない」

「サニー女史。なにがあったか説明していただけますか? プレラーティ博士、下に救護の要請を」


 淡々とした口調のレイイチが、ハンカチを手渡しながらサニーに問うた。


「……いつものことよ。魂に干渉して操ってやろうと思ったの。そしたら、なんて言うのかしらね。個人ではあり得ないほど大きくて深かったのよ、魂が。まるで……そう、まるで大勢の魂が一つになっているような。覗き見た途端、私のほうが壊されそうになったから、周りの子を盾にしたのよ」


 口を拭うと、赤く染まったハンカチを悪びれもせずに返した。


「……全員ですか。彼らは皆、優秀なエージェントたちですよ?」

「ちょっと血を吐いて錯乱してるだけよ。明日には治るわ。なに? 自分がなりたかった?」


 仲間であるはずの二人だが、相性は悪いらしい。


「ま、なんにせよや!」


 パンッと手を叩き、ダーカメが注目を集めた。


「博士、測定器見してもらえます?」


 話を振られて、プレラーティが白衣に隠していた端末を手渡した。


「……なんやこれ、数値めちゃくちゃやんけ。これ、魔力やら闘気やら潜在能力計るもんですやろ? 災害並みのバケモンから、そのへんの虫レベルまでブレっブレやんか」


 いっしょに覗いていたプレラーティは、呆れるダーカメと違い思案する表情を見せた。


「い、いや。もしかすると、これが彼のギフトなのかもしれない」

「どういうこっちゃ?」

「サニーの話と合わせると、恐らく彼の魂に関係する能力でしょう。そしてこの数値……わたしの推測ですが、彼は様々な生命体になれるのでは? 例えば……魂に刻まれた前世の姿とか」


 ダーカメはハッと目を見開いたかと思うと、納得したように頷いた。


「それや! そんなら会談のときのドワーフも説明がつく! ヴェヒタいう名前でピンときたで! あれがあの子の前世なんや!」

「ということは……」

「あぁ、ヤバいなんてもんやない。こっちの技術全部まるっとお見通しっちゅうことや」


 ダーカメの苦笑いと対象的に、プレラーティは知的好奇心に溢れ身をよじらせた。


「はあぁっ! それならぜひ、古代文明の知己を教えてもらいたい!」

「そうなればええけどな、博士。すんなり協力してくれると思うか?」

「それなら、せざるを得ない状況を作ればいい。ワタクシは彼と意思疎通ができれば、体がどうなっていようと構いませんよ?」


 さも当たり前の如く、プレラーティは微笑んだ。


「……せやな。さすが連合一の変態や。んで、そんなんはワイらの十八番やんな。のぉ、レイイチはん?」


 怪しく、闇に浮かぶような笑み。

 連合のトップにまで上り詰めた、ダーカメ・ゴルドの本性が垣間見えた瞬間であった。


「はっ。すぐに手配を」

「うん、よろしゅう。タマガンに行っとるダイスケにも、連絡しとってな」

「私は少し休ませてもらうわ。でも、このままで終わる気はないわよ~?」

「ワタクシはゴーレムの整備を行いましょうか。あぁ、最新装備の試運転にもちょうどいい相手ですねぇ!」


 幹部たちの目に、冷たく燃える光が宿った。

 これこそ、派手さに隠れた連合発展の礎。

 人情を謳いながら情け容赦のない、闇の側面である。


「さぁ、ワイら敵に回したこと、後悔させてやろうや」


 その後。

 救護班が到着したときには、ダーカメはいつもの笑顔を振りまいていた。

 

 しかしすでに、連合の魔の手はナミラに狙いを定めている。

 そして、それに気づかないナミラではなかった。

最新話を読んでいただき、ありがとうございます。

よろしければ、評価や感想、ブクマなど反応いただけると嬉しいですm(_ _)m

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