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魂の継承者〜導く力は百万の前世〜  作者: 末野ユウ
第三部二章 西に行くもの
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『ナミラVS獣人&ドワーフ』

 薄い砂塵が周囲を包み、晴れ渡る空を陰らせる。

 隠す気のない敵意の塊が、ナミラに向けて放たれていた。


「決闘ね……」


 苦笑する瞳には、警戒の色が滲んでいる。

 解析眼で見るまでもなく、二人の実力は並のものではなかった。


「そうだ! お前、妖精剣士シュウ・タキメノの息子だろ? アタシらの父ちゃんが決着着けられなかったから、代わりに勝負だっ!」


 ガオランと名乗った獣人の少女は、牙を煌めかせて言い放つ。

 獣人は二足歩行と手の形が人間に近いというだけで、肉体のほとんどは獣と酷似している。肉食草食問わず生まれ、ガオランの姿は白毛の虎を思わせた。


「え、えっと、ボクも勝負……だ!」


 遅れて声を上げたアーリは、ポニーテールの黒髪を揺らした。

 黒曜石のようにキラキラとし大きな目は、心なしか潤んでいる。見るからに恐怖が伺える表情だが、戦意は持ち合わせているようだ。


「そんな急に言われてもなぁ」

「問・答・無・用!」


 言い終わるや否や、ガオランが飛び出した。

 その速さはまるで風。

 一瞬のうちに、ナミラとの間合いを詰めた。


(武器はガントレットか)


 繰り出される拳を躱しながら、ナミラは冷静に敵を観察する。

 ガオランの両腕には鈍く光る手甲があり、破壊力を増しながら反撃に転じた竜心の刃を防いでいた。


「おらぁぁぁ!」


 鋭く速い拳と多彩な体術。

 しかし、ナミラを捉えるまでには至らない。


「ガオちゃん、どいてぇ〜!」


 突然、太陽の光が遮られた。

 黒く大きな影と共に聞こえた声に、ナミラはハッと頭上を見上げる。


「おいおい……」


 視線の先には落下中のアーリ。

 そして、棍棒のように振り上げられた巨木であった。


(あの森から引き抜いて来たってのか!?)


 動揺した一瞬の間に、ガオランは射線から退いた。


「ええい!」

千刃撃せんじんげき!」


 迫り来る幹に対し、音速の刃の壁が迎え撃つ。

 巨木は振り下ろされ大地に衝撃が伝わったが、ナミラがいた場所は粉微塵に斬り裂かれ、ダメージはなかった。


「やあぁぁぁ!」


 追撃に走るアーリ。

 その手にはどこから出したのか、長柄の槌が握られていた。


「ちっ」


 木の中から抜け出したナミラだったが、一瞬できた隙を逃さず、脳天を砕く一撃が迫っていた。


 ギイイイイイイインッ

 

 鈍い音を立て、刀と槌がぶつかり合う。

 

「な、にぃ!」


 続けてナミラの悲痛な声が響き、膝を折った。

 

(嘘……だろ? ドワーフの膂力があるのは知っていたが、こんな子どもがここまであるか? テネシー先輩……いや、もしかしたらダンよりも)


 鍔迫り合いから抜け出すこともできず、額に冷や汗が流れた。


「ぐぬぬぬぬぬ、このままぁ〜!」

「させるかよ!」


 ナミラの体から闘気の光が放たれ、その身を包んだ。


「闘竜鎧気!」


 溢れる力でアーリを押し返す。

 負けじとアーリも闘気を練ったが及ばず、そのまま後方へ吹き飛ばされた。


「そ、そんなぁ〜」


 倒れ込んだアーリが、力の抜けた声を出した。


「今度はアタシだぁ!」


 視線を向けると、野生の笑みを浮かべたガオランがいた。

 荒々しい闘気の稲妻が走り、両手の爪が光を発する。

 咄嗟にナミラも身構え、闘気を練った。


爪獣紅閃そうじゅうこうせん!」

「真・斬竜天衝波!」


 五対の紅刃と光の竜。

 衝突した二つの力は爆発を起こし、一帯に闘気の波動を広げた。


「くっ……」


 爆煙を睨みながら、ナミラは再び身構えた。

 煙の先には、未だに動く影が二つある。


「にゃははははは! お前強いなぁ!」


 高笑いを響かせて、ガオランが姿を現した。


「ごほっ、ごほっ。無茶しすぎだよ、ガオたゃ〜ん」


 傍らにはアーリの姿もある。

 二人ともダメージはあるものの、まだまだ平気な顔をしていた。


「よぉし! アーリ! 次はさ」

「ボ、ボクはもういいよぉ〜! ガオちゃんのアレでも倒せないんじゃ、ボクが敵うはずいもん!」


 たぶんそんなことないぞ? という言葉を、ナミラは飲み込んだ。


「えぇー! もう、アーリったら根性ないなぁ……よし、ならこうしよう!」


 ガオランは不敵に笑うと、アーリになにか耳打ちした。

 しぶしぶ了承したアーリが立ち上がると、ガオランはナミラに向かって両手を突き出す。


決闘血契鎖デュエル・エンド・チェーン!」


 次の瞬間、両手・両足・首に光の輪が現れ、同時に鎖が放たれた。

 

「なっ!」

「ごめんね?」


 躱そうとしたナミラだったが、突進してきたアーリに羽交い締めにされ、反応が遅れてしまった。


 その結果、ナミラにも光の輪が現れ、ガオランのものと鎖で繋がれた。


「こ、これは……ぐわっ!」


 激痛と共に、懐の道具や竜心も落としてしまった。

 拾おうと手を伸ばしても、謎の力に遮られてしまう。


「拾おうとしても無理だぞ? もうお前は武器や道具を使えない。ついでに魔法も使えない。自分の肉体と闘気だけで、アタシと闘うのだ!」


 ガオランも手甲を外し、爪を見せて笑った。


「……そういう制約の技、か。獣人特有のものなのか」

「うん! 獣人の、なんか知らないけど一部のやつにしか使えないみたいだぞ! どっちかが倒れるまで、絶対に消えないからな!」


 肉球の足で大地を踏みしめ、ガオランは堂々と近づく。


「そこまでして戦いたいのか?」

「もちろん! 獣人は強さがすべてだ! お前とアタシ、どっちが強いかハッキリさせないと、父ちゃんみたいに気になって肉が食えなくなっちまう!」


 ガオランは立ち止まり、全身に力を込めた。


「ガアアアアアッ!」


 むせ返るような獣の臭いを伴って、ガオランを闘気が包み込む。

 まるで、ダンが使う狂化バーサークの魔法のようだと、ナミラは思った。


「えへへへ。さぁ、やろう!」

「……しかたねぇ、か。来い!」


 初撃はガオラン。

 勢いをつけた飛び蹴りを繰り出す。

 上手く防いだナミラだったが、動きが止まり反撃に転じることができなかった。


「どりゃあああああ!」


 その隙を逃さず、ガオランが畳み掛ける。

 拳の弾幕と脚撃の嵐。

 腹部に入った一撃でナミラの体が後方へ飛んだが、鎖の射程以上離れることはなく、すぐさま追撃の獣人が襲いかかった。


「……青い」


 圧倒的有利のガオラン。

 しかし、不意に見えたナミラの目に全身の毛が逆立ち、思わず距離を取った。

 幼い頃の記憶が蘇る。

 父に連れられて登った冬のゼノ山脈。そこで飲まれた大雪崩。

 生まれてはじめて感じた、抗えられない死の恐怖。それと同じ感覚が、体の隅々に広がっていた。


「な、なん、だ?」


 止まらぬ震えに苛立ちながら、ナミラを睨む。

 先程までとはまるで別人。しかもあろうことか、《《同じ獣人の威圧》》を放っていた。


「青い青い、まだまだ青いのぉ。どれ、わっちが引導を渡してやろうか」


 体格が変わる。

 体毛が生え、頑強な爪と牙が伸びる。風が揺らす金色の毛は、陽光を受けて神々しく輝いた。


「その、姿……まるで」


 好戦的だったガオランの勢いが、初めてくすぶりを見せる。


 物語の中でしか語られぬ最強の女戦士。

 歴史上、雌雄一対しか生まれていない金獅子の獣人。

 物心ついた頃からの憧れが、目の前に立っていた。


「伝説の大戦士、レオニダス?」

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