『アフタートーク ウエストサイド』
「みんなお疲れさーん! ほな、カンパーイ!」
王都をあとにする移動要塞の中に、ダーカメの明るい声が響き渡る。
共にグラスを掲げるのは、会談に参加した三人であった。
「いやぁ〜、緊張しましたね」
「アホダイスケ! お前なんもしとらんやないか! ガチガチになりよって、戦場おるときと別人やんけ!」
特注のハリセンで、ダーカメは自分の倍近くあるダイスケの頭を叩いた。
「だ、だって本物の獅子王を前にしたら……」
「このアホ! ちょっとはサニーちゃんを見習わんかい! ずっと妖精剣士としのぎを削っとったんやで? ホンマお疲れさん」
当主自ら空いたグラスに酒を注ぎ、手の甲にキスをした。
「ありがとうございます。この働きの報酬は、ダスマニアへ宝石類の取引優先権で」
「分かっとる分かっとる。で、どやった? 噂の妖精剣士様は」
「強いわねぇ〜」
微笑みながら、サニーはつまみを口にした。
「あの場じゃ妖精の力なんて半分も使えないから、戦ったらどうなるか。そのへんの大型ゴーレムじゃ、相手にならないと思うわよ?」
「マ、マジかいな」
引きつる笑みのダーカメの頬に、サニーは軽くキスをした。
「ま、それでも私は勝っちゃうから」
一見、戦いなど無縁の美しい女。
しかし、その体の隅々から得体の知れぬ力が迸っていた。
「ひょー! これは頼りになるでぇ! どっかの筋肉と違うて」
「ダーカメ様、あのドワーフですが」
再びダイスケに冷ややかな視線が送られたところで、酒の進まないレイイチが口を開いた。
「あぁ、あのダンジョンと同じ名前のオッサンな。ワイらからしたら、一番厄介なんはあいつや。おかげで時代遅れの銃も、下手な粗悪品押し付けられんくなったわ」
ダーカメはイラつきを発散するように、勢いよく酒を飲んだ。
「そうですね。しかも、構造を熟知していたばかりか、丁という単位まで口にしていました。銃という存在を知っていたとしか思えません」
「何者やねん。事前の情報ではおらんかったやろ」
手酌をしようとするダーカメをサニーが制し、注ぎ直した。
「調べます。少々お時間をいただければ」
「おう、頼んだで。にしても、獅子王もただの武闘派やなかったな。魔族について、まだまだ隠しとることぎょうさんあるやろうに。ま、ウチ相手に長期戦挑んだこと、後悔させたるでぇ!」
小さな体で息巻きながら、窓の景色に目をやった。
「さて……タマガンとレッドは相変わらずやな?」
「はい。こちらの要求通り、子どもを差し出すようです」
「欲深い馬鹿は扱いやすくてええな。セリア王国からは誰が来ると思う? ワイはアレキサンダー王子やと睨んどるんやけど」
ダーカメの予想に、ダイスケとサニーも同意した。
しかし、レイイチだけは違った。
「ナミラ・タキメノ」
出てきた名に、三人は腑に落ちない顔をした。
「たしか、妖精剣士のめちゃくちゃ強い息子やろ? まぁ、たしかに可能性はあるし来てもええ人選やけど、そこまで言い切る根拠はなんやねん?」
「……勘、でございます」
普段から冗談を一切言わぬ男の意外な言葉に、ダーカメは思わず吹き出した。
「勘か! お前が珍しいこと言うやんけ! ならその勘が当たったら、タマガンに別荘買うたるわ!」
愉快な笑いは、夜が明けるまで止むことはなかった。
そして、数カ月後。
タマガンに一際目立つ別荘が建てられた。