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魂の継承者〜導く力は百万の前世〜  作者: 末野ユウ
第三部一章 西から来るもの
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『東西会談』

「お初にお目にかかります、セリア王国の皆様。レイイチ・ベアと申します」


 丁寧なお辞儀をすると、レイイチは座席の前に進んだ。

 中央に置かれた円卓に人数分の椅子が置かれており、東側とは向かい合うようになっている。


「以上が、こちらの代表でございます」

「うむ。では、こちらも挨拶を」


 一呼吸置くだけで、場を飲み込む獅子王の威圧。

 レイイチに意識を向けていたナミラも、ハッと集中力を取り戻した。


「余はセリア王国第二十五代目国王、ルイベンゼン・フォン・キングス・セリア。会えて嬉しく思う、ダーカメ連合の者たちよ」


 続いてガルフ、シュウと名乗ると、ダーカメはその都度嬉しそうな声を上げた。

 特にシュウのことは少年のように瞳を輝かせ「ホンマもんの英雄様や!」と、べた褒めであった。


 そして、ナミラの番が回ってきた。


「儂はヴェヒタ。この国で技術顧問をしとるドワーフだ」


 顎に生えた立派な髭を触りながら、ぶっきらぼうに言った。

 ナミラは今、真似衣ネマネの魔法でヴェヒタに姿を変えている。少年のまま参加するわけにもいかず、なおかつ古代文明の知識をフルに活かせすための偽装であった。


「……へぇ。よろしゅう頼んます」


 ダーカメがニコリと笑うと、八人は席についた。


「さ! 早速やけど、こちらが来たわけはセリア王国と仲良ぉしたいなぁ〜と思いまして」


 人懐っこい笑顔のダーカメに、王国側は見定める視線を送った。


「……連合はすでに、大陸の西で多くの国々が加盟しておると聞く。南西のタマガンとレッドとも手を結んだとなった今、我が国に声をかける理由はなんですかな?」


 ガルフが低い声を発する。


「そりゃあ、セリア王国は人間の国として最古の国ですやん! 伝説の人聖国じんせいこくアンスロポスからの流れをくむ唯一の国! そんなとことお近づきになりたいっちゅうのは、人族として当たり前ですよぉ〜!」


 愉快な笑いが響いたが、王の「世辞はいい」という言葉に、空気は落ち着きを取り戻した。


「ホンマですよ? そんじゃ、まずはこれを見てください」


 短い目配せののち、レイイチが大陸の地図を広げた。


「赤く塗り潰したところが、ダーカメ連合加盟国でございます」


 淡々としたレイイチの言葉。

 地図を目にした東側の四人は、一瞬で血相を変えた。


「馬鹿な!」


 声を上げたのはルイベンゼン王だった。


「我が国と同盟関係にある、エシアとバルキン王国までもか!? 聞いとらんぞ!」


 連合との境に位置している二つの国を、王は睨んだ。


「まぁまぁ。そこの二つは、経済的な支援だけや。せやから、なにも言わへんやったんとちゃいます?」

「……それだけではありませぬ」


 ガルフが口を開いたが、かすかに声が震えている。


「王よ、ご覧ください。領地だけならば、北を支配したバーサ帝国と変わりませぬ」


 広がる赤は、まるで大陸の真ん中を両断するようだった。

 その進行を抑えているのは、西端の海に面した国々と南の砂漠地帯。黒く塗り潰された北の大地と、東のセリア王国のみであった。


「勘違いせんでほしいんは、ウチはドンパチやる気も、ましてや支配する気もあらしません。どこも主な繋がりは、貿易やらの経済的なもんです。せやけど、こんだけたくさんの国が手ぇ繋いどるんや。()()()()大変やったおたくには、魅力的ちゃうかなぁと思いまして」


 王、ガルフ、ナミラの眉がピクリと動いた。


「……どういうことですかな?」

「噂で聞いたのよぉ〜」


 艷やかな唇で、サニーが口を開いた。


「そちら、レオナルド左大将軍が瀕死みたいじゃなぁ〜い。それに、数日の間に二回も王都が襲われたんでしょう?」


 深い水底のような瞳。

 人の懐に入るダーカメとは違い、こちらを見透かす妖しさがあった。


「……どこでそれを?」

「噂よ、う・わ・さ! 連合に入ると、国中商人が行き来するからねぇ〜。ちょっとお洋服買いに行くだけで、いろいろ聞こえてきちゃうのぉ〜」


 ガルフの問いかけに微塵も怯まず、サニーは微笑み返した。


(情報戦は完敗だな)


 ヴェヒタの姿で、ナミラはまた髭を触った。

 レオナルドやルーベリアの件はともかく、目撃されぬよう一般人を避難させ、公には天災としていた魔王戦の存在を知られている。それはつまり、密偵の可能性を意味していた。


「そんなセリア王国に、ええ儲け話や!」


 ダーカメが金歯を光らせ、手を叩いた。


「連合から経済的・技術的な支援をお約束します! 王都の改修費用はもちろん、南の戦で消費した諸々も補填しましょ! そんで、技術的なもんは例えば……こちら!」


 パンパンッと景気のいい手拍子を合図に、連合の兵が長い包みを持って現れた。

 古くからのしきたりを守り、上半身裸で下着のみの格好で敵意の皆無を示している。


「我々は()と呼んでいる武器でございます」


 レイイチが手際よく包みを解いた。

 しかし同時に、ガルフが眉をひそめた。


「……会談の場に武器を?」

「ご心配なく。これは今、ただの鉄の塊に過ぎません。こちらが、使い方の映像でございます」


 懐から水晶玉を取り出し、円卓の上に置いた。

 すると銃を持った男が浮かび上がった。


(……大昔の火縄銃マッチ・ロック・ガンに似ているが、少し違うな。面白い)


 放たれる音と光、そして銃弾の威力に王たちが驚愕する中、ヴェヒタの知識に照らし合わせたナミラはほくそ笑んだ。


「どうでっか? これは引き金引くだけやさかい、弓みたいな技術もいらん。そして火球ファイアボールにも負けん威力。極端な話、女や子どもも戦えるようになりまっせ? 興味おありなら、お近づきの印に三百ほど差し上げましょ。もちろんタダで!」


 手を擦り合わせながら、ダーカメが笑う。


「……技術顧問の意見を聞こう」


 王の言葉で、一人のドワーフに視線が集まる。


「……少し見せてもらおう」


 ヴェヒタは銃を手に取ると、素早く解体してみせた。


「ちょちょちょー! なにすんねん!」

「なるほど、作りはなかなか精巧なようだ」


 ダーカメの叫びを聞き流し、一通り眺めたヴェヒタは元通りに組み立てた。


「……やるやんけ」

「そちらこそ、なかなか面白いものを作る。着火に芽痰メタンの粒子を使うとは。あれなら、火種がなくとも衝撃で爆発してくれるな。そっちの生成法は秘密か?」


 今度は西側の者たちが目を丸くした。


「……なんで分かったん?」

「あの橙がかった爆炎は芽痰の特徴だ。王よ、()()()であれば受け取ってよろしいかと。ただし、臭いには注意が必要ですがな!」


 ヴェヒタは生前の通り「ガハハ!」と笑ってみせた。


「そうか。ダーカメ殿、その銃とやら有り難く受け取るとしよう」

「あ、あぁ、おおきに。しかし、とんでもないお人がおったもんやなぁ。魔法の粉言うて紹介しよう思ってたんに」


 会談が始まってから常に余裕を見せていた西側が、明らかに動揺している。

 好機とばかりに、ルイベンゼン王は続けて口を開いた。


「それで、こちらに得な話ばかりだが、見返りになにを求める?」


 獅子王の視線に、ダーカメの肌がピリピリと痛み出した。


「ほな、包み隠さず。北の魔族共の情報や」


 部屋に、胸を握る緊張が訪れた。


「そちら、なんか知っとるんやろ? 魔喰やったっけ? あんときの話無視したアホ共が塵になってもうてから、みんな手ぇ出せんかったんや。ところがその土地に、急に魔族が国を作って独立を宣言しよった。許さん言うてちょっかいかけた奴らは、噂では女の魔族一人に蹂躪されたって話や。最弱の種族が、何故かめっちゃ強なっとる」


 ナミラたちの脳裏に、サキュバスクイーンのマーラが浮かんだ。

 先程までの軽いノリから一変、ダーカメの声には厚みが増している。


「奴らはあくまで平和的な関係をって言いよるが、そんなこんなで多くの国は様子見しよる。でも、セリア王国は平和国家ピースフルに続いて独立を容認しよったな? 本来なら、誰よりも北の所有権を主張できるあんたらが。なんか裏があるとしか思えへん。そこんとこ、教えてもらおか?」


 この場で最も小柄な男が、誰よりも堂々と言葉を紡ぐ。

 黙って聞いていた王は、ふっと笑って口を開いた。


「いいだろう。どのみち、魔王との一件も知られているようだしな。こちらで言えることは教えよう」


 静かに語りだした王を、ヴェヒタの緑色の瞳が見つめる。

 淡々と語られたのは、魔喰の土地では魔族しか生きられぬことと、新たな魔王誕生の経緯のみ。魔族たちに不利益を与える内容は、上手く伏せられていた。


「……と、いうわけだ。古き魔王討伐に我らが協力し、友好的な関係となった。それに、彼の地との国境を有する国として、下手に刺激するわけにもいかない。だから独立を支持した」


 ダーカメは険しい顔をしていたが、また例の人懐っこい笑顔を浮かべた。


「そうでっか! なら安心しましたわ! ほんなら、交易開始の際にはワイらも一枚噛ましてもらいたいもんやなぁ〜」

「無論、良い関係であればな」


 その後。

 ダーカメの陽気な喋りを中心に、会談は和やかに進んだ。細かな取り決めを行い、正式な書状を交わすと、西側の者たちは席を立った。


「ほな、みんな連れて帰りますわ。今日はええ時間をホンマおおきに! これからよろしゅう頼んます!」


 満足気な笑顔の振り撒き、ダーカメらは退出した。


「……シュウ殿」


 しかし、レイイチは立ち止まるとシュウの名を呼んだ。


「は、はい」

()()()()()()()()


 主であるダーカメと違い、冷静を貫く男。

 表情からは、一切の思考を読むことはできなかった。


(……変わったな)


 遠ざかる背を見つめながら、ナミラの心に僅かな寂しさが滲んだ。

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