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魂の継承者〜導く力は百万の前世〜  作者: 末野ユウ
第一章 百万一回目の人生 幼年期
12/198

『森の主の力』

 襲おうとしていたガルゥたちは、弾かれたように跳び退いた。全員がガタガタと震え、子犬のような声で鳴き始めた。

 ボスもなにが起こったのか分からず、ただ威嚇の声を上げることしかできない。


 ダンとデルの背後にある、出会ったことのない脅威に向かって。


「グルルルル」


 ナミラは獣のように牙を剥いて唸った。

 眼光は人間のものより鋭く、声は少年のものとは思えなかった。


「……ナミラ?」


 アニが恐る恐る声をかけた。

 ダンとデルは震えたまま動けなかった。目の前のガルゥが引いた安堵よりも、背中に感じる得体のしれない恐怖のほうが強いのだ。


「大丈夫だよ、アニ。二人も本当にありがとう。もう大丈夫。あとは任せて、だんちょう、ふくだんちょう」


 ナミラの体から痛みが引いていく。

 ダンとデルの肩を叩き、ゆっくりと進み出た。


「お、おう」

「ま、まかせたよ」


 やっと出てきた声を発し、二人はその場に座り込んだ。


「なにをしている! 相手は死にぞこないの人間のガキだ! いけ! 噛み殺せ!」


 ナミラの頭にボスの声が響いた。

 今まではただの鳴き声にしか聞こえなかったが、ガルゥとしての前世を得たナミラにはその意味を理解することができた。


「手下にやらせず、お前が来たらどうだ?」


 ナミラが発した言葉に、ガルゥたちは目を見開いた。


「な、なぜ人間が、我らに意思を伝えられる?」

「そんなことより、貴様それでも群れの長か? ここまで数を減らしても、まだ自分の身がかわいいか」


 ナミラがフンッと鼻で笑った。


「……馬鹿にするなよ、小僧。見かけ倒しの威嚇を放ったところで、貴様が手負いなのはわかっている! いいだろう! 我が直々に殺してやる!」


 ボスは他の個体を下がらせ、ナミラと向き合った。

 そして大気が揺れ、黒い魔力の稲妻が角に宿る。

 先端に魔力の球が生じ、瞬く間に大きくなっていった。


「ふはははは! これぞ、ガルゥの長にのみ許された魔法。魔狼弾(ドン・ガルゥ)だ!」


 稲妻が周囲の土をえぐり、木々の枝を折った。

 しかしナミラは不敵に笑い、両の掌を向かい合わせた。


「小さいな」


 ガルゥのものと同じ、黒い稲妻がほとばしる。

 だが、宿る魔力は桁違いに強大で、大きさもボスのものを優に超えていた。


「な、なぜ貴様がそれを! いや、なんだその魔力は!」


 群れの長となった個体にのみ発現する魔法を、なぜか使うことができる人間。

 さらに、自分のものを凌駕りょうがする魔力量。


 もはや、一介の魔獣が理解できる現象ではない。

 ガルゥのボスは、幻覚を見ているようだった。


「お前のように手下に狩りを任せ、高みの見物をしていたやつと同じと思うな。我が生きたはエルフの森。強大な魔獣や魔物が蔓延はびこる聖域だ」


 ガルゥの耳に聞こえる声は、いつの間にか人間の少年ではなくなっていた。


「お前が見たこともない連中と、しのぎを削ってきたのだ。格が違うんだよ小僧」


 前世のガルゥは、過酷な環境に生きる群れのボスだった。

 二十年と言われる寿命を超えた四十八年の時を生き、そのほとんどをボスとして敵との戦いに捧げた。

 そして晩年は、エルフの狩人から『森の主』として恐れられる存在となっていた。


「さぁ、貴様の全力を喰ろうてやろう!」


 ガルゥたちには、ナミラが同族に見えていた。

 それも、ボスよりも遥かに大きく猛々《たけだけ》しい。

 本能で敗北を察する姿に。


「くそおおおおお!」

「はあああああ!」


 二つの黒球がぶつかりあう。

 しかし、決着は一瞬だった。


 ナミラの魔狼弾は相手も技もすべて飲み込み、爆発した。


「きゃあ!」

「うわあ!」

 

 あまりの爆風でアニたちは悲鳴を上げた。

 ナミラの背後で丸くなり、すべてが収まるのを待つことしかできなかった。


「……もう、大丈夫だよ」


 三人が恐る恐る目を開けると、ガルゥの姿はどこにもなかった。

 その代わり、巨大なクレーターと微笑むナミラの姿があった。


「ナミラ!」


 三人は涙を浮かべて抱きついた。

 ナミラは支えきれずに倒れ、下敷きになってしまった。


「ははは、みんな痛いよ……でも、よかった。ほん……と、う……に」


 意識が闇の中へ引きずりこまれる。

 賭けには勝ったが、最後の魔法は今のナミラには負担が大きかった。さらに、ガルゥの毒も全身に巡り、体の感覚が消えかかっていた。


「ナミラ? ねぇ、ナミラ!」

「お、おい! しっかりしろよ!」

「ナミラ! 死んじゃやだよぉ!」


 深い暗闇に沈みながら、微かに聞こえる三人の声にナミラの魂は喜びを感じていた。


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