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魂の継承者〜導く力は百万の前世〜  作者: 末野ユウ
第三部一章 西から来るもの
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「来客」

「なんだあれは……」


 シュウが帰還した翌日の、王都セリアルタ。

 人々は二年もの間、南で国を守っていた右大将軍らの凱旋に湧いていた。

 だが、その興奮に水を差すように正門前の平野には、歴戦の兵士も見慣れぬ影が並んでいた。

 二階建ての建物程度の大きさから、時計台ほどまで様々な、二足歩行の鉄の塊。そして、彼らに囲まれて立つ六足の要塞が、陽気な音楽と色とりどりの光を輝かせていたのだ。


「どうも〜、ダーカメ連合ですぅ〜。ここで待ってるさかい、ワイらの処遇はゆっくり決めてや〜。なんやったら、子どもたちとか遊び来させてもかまへんで? なんもせんって約束する! アメちゃんもたくさんあるで〜!」


 シュウたちが聞いた男の声が、王都の隅々にまで響く。

 鉄の兵士たちに武装はなく、代わりに巨大な蝶ネクタイを着け、ハリセンで味方を叩いたりと、コミカルな動きを披露した。初めは警戒と恐怖を抱いていた人々も、次第に挙動のひとつひとつに笑顔を見せるようになっていた。


「……見ての通り、わけの分からない連中ですが敵意はないようです」


 城に着いたドドンは、真っ先に王へ現状を報告していた。


「うむ、シュウから概ねのことは聞いた。連合がタマガンやレッドと盟約を結んだことが、此度の介入の理由だそうだな」


 玉座に座るルイベンゼン王の隣では、アレクが顛末の書かれた書状に目を通している。


「はい。そして、我が国とも同盟関係を築きたいと。奴らがここまでついて来たのは、そのための会談を希望しているからでございます」

「にしても、ずいぶんと強引ですなぁ。あれでは、タダで帰すわけにはいかん」


 ドドンの傍らで、ガルフが苦笑しながら髭を触る。


「たしかに。だが、上手いやり方だ。あの要塞や鉄の兵士は、嫌でも興味を引く。少なくとも、話し合いの場は設けられる。というわけだな。しかし」


 王はニヤリと笑った。


「こちらには古代文明の叡智があることを、奴らは知らん」


 視線の先には、親子並んで膝をつくナミラの姿があった。


「おぉ、きみが例の!」


 ほとんど初対面であるドドンは豪快な笑みを浮かべつつ、興味深そうな視線を向ける。

 王都で起きた一連の出来事を聞きはしたものの、ナミラの力は戦場で培った自身の目で見定めるつもりでいた。


「そうだ、彼に聞くのが最も早い。ナミラくん、きみの意見を聞こう」

「はい。恐れながら、まずはあそこに並んだ兵器について」


 ナミラは立ち上がり、静かに口を開いた。


「やはり、あれは兵器なのか?」

「はい。人型のものは、搭乗型のゴーレムですね。ざっと見たところ、小型が四十五機、中型が三十機、大型が十機います」


 遠くで踊り出した機影を見つめながら、ルイベンゼン王は小さく唸った。


「ゴーレム……古いダンジョンに、たまに動いてるのがいるな。若い頃一度だけ出会ったことがある。冒険者の間では、不用意な接触は危険とされていたな」

「……で、アレの戦力はどうなんだ」


 ドドンが部下に聞くように言った。


「……【解析眼】で視たところ、対抗するには並の兵が三百人と、上級魔法使いが十人ほど必要になるでしょう。ですが、相手の武装次第で数は変わります」


 右大将軍が苦々しい表情を浮かべた。


「それに、驚異はむしろあの機動要塞です。解析眼でも詳細は分かりませんでしたし、砂の大結界を破ったとなれば、魔法耐性はかなりのものでしょう。攻撃手段もあるとなれば、かなり厄介な代物かと」

「連合がこれほどの力を持っていたとは……」


 賢者として魔法の道を進むガルフは、自らが思いもしなかった力の姿に驚愕していた。


「ナミラ、古代文明と比べてどうなんだ?」

「ドワーフ古代文明を十とすると、あれは三くらいだ。独自の開発体系のようだが」


 ナミラの返答に、アレクはホッと胸を撫でおろした。

 しかし、続く言葉が現実を突きつける。


「だが対して、こちらは一だ。さらに、主戦力は南の戦いで疲弊し、左大将軍もいない。戦力差は明らかだ」


 重い空気が漂う。

 王などは自らの決断を再度思案していた。


 しかし実際のところ、ナミラは状況を少し大袈裟に伝えていた。

 王都に来ている戦力ならば、ナミラ一人で殲滅せんめつすることができる。しかし、その事実はあえて伝えない。必要以上に力を誇示しては、国がナミラに依存してしまう。


 助言や前世の因縁であれば力を貸すが、国同士の駆け引きなどは違う。当事者たちが考え、努力しなければならない。

 その末にどうしようもなければ、助太刀をしよう。ナミラにしかできないことは、引き受けよう。それが、王家の先祖である剣王ルクスを含めた、魂の総意であった。


「……よし、決めた」


 王の一言によって、分厚い沈黙は破られた。

 王笏を握り、覚悟を目に灯す。


「ダーカメ連合との会談を受ける。同席する者は、賢者ガルフ。大臣は他の仕事で手が離せん。代役を任せる」


 名を呼ばれたガルフは跪き、王命を賜った。


「妖精剣士シュウ。連合はお前を指名している。慣れぬ場であろうが、来てもらうぞ」

「え! あ、は、はい!」


 空気と化していたシュウが、慌てて頭を下げた。


「むこうは四人で来るらしい。こちらも同数で迎えるとする……あと一人は」


 逆らえぬ王の視線は、まっすぐにナミラを捉えていた。



 話し合いから二日後。

 東のセリア王国と、西のダーカメ連合の会談が執り行われた。場所は、セリアルタの王城である。


「いやぁ〜、ごっつ綺麗なお城ですなぁ〜! めっちゃ広くて、案内おらんかったら迷子になってまうわ!」


 セリア王の待ち構える部屋へ一人入ると、要塞のてっぺんにいた小柄の男が、陽気な声を上げた。


「……いや、これは失礼。この度はウチのわがまま聞いてもろて、ホンマにありがとうございます。ワイは一応、ダーカメ連合の当主やらせてもろてます、ダーカメ・ゴルドいいます。以後、お見知りおきを。会えて光栄です、ルイベンゼン王」


 ころりと態度を変え、改まって頭を下げる。

 第一印象は、とにかく掴みどころのない男だというものだった。


「そう堅苦しくならずともよい。今日は互いに、建設的な話がしたいと思っている。言葉遣いも、話しやすいものにするといい」

「あ、ホンマですか? これはおおきに!」


 王からの言葉に、西の当主は人懐っこい笑顔を向けた。

 警備をする兵はヒヤヒヤしていたが、ルイベンゼンはダーカメの変わり身を面白がっていた。


「ほな、こちらのお供を紹介します。ほら、行儀よくお邪魔しぃや〜!」


 元気のよい声に導かれ、西の代表たちが入室した。


「まずはウチの将軍の一人。気は優しくて力持ち、ダイスケ・マトゥーキ!」

「失礼致します」


 頬に傷のある巨体の男が、のっそりと入りお辞儀をした。


「続いては連合に入っとる国のひとつ、ダスマニアの美しき超権力者! サニー・ジュエル!」

「ハァ〜イ」


 細身で優雅な出で立ちの女性が、ウインクをしながら入ってきた。


「そして最後は、連合の頭脳にしてワイの頼れる右腕! なのに愛想のないイケメンの持ち腐れ男! さらに……って、まだ途中やんかぁ!」


 放置すれば、紹介だけで延々とイジられるのだろう。

 名を呼ばれる前に、長髪の男が姿を現した。


 同時に、ナミラは言葉を失った。


「えーさらに、ベアズ商会の長にして、商業ギルドを束ねる天才! レイイチ・ベア!」


 かつて生きた百万回目の人生である、レイジ・ベア。

 その実兄が、目の前にいた。

 

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