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魂の継承者〜導く力は百万の前世〜  作者: 末野ユウ
第二部四章 復讐のとき来たり
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『宇と大地に満ちる星』【第二部完結】

 魔王ルクスディアとの激闘から三日後。

 ナミラたちはゲルトの商団を隠れ蓑に魔族たちを連れ、北の大地へ出発することになった。

 魔王討伐という功績の報奨を、ナミラが魔族独立の支援に当てるようルイベンゼン王と交渉したからであった。


「魔族は少なからず、他種族に虐げられてきたからな。点在していては争いも起きよう」


 王は快く了承し、手筈を整えてくれた。


「だが、しばらくは表立った支援はできん。我らの繋がりを良く思わぬ者もいるからな。しかし建国の際には同盟国として、できる限りのことをさせてもらおう。これは、その第一歩だと思ってほしい」


 仮の代表として言葉を交わしたヴラドとマーラは、深々と頭を下げ感謝の意を示した。


 そして出発から二週間以上が経ったこの日。

 テレパシーによる情報共有が行われ、世界中の魔族たちがバーサ帝国の領地に集まることになっていた。

 魔族以外生きられぬ大地に国を興すという夢のような偉業。

 数百年存在しなかった魔族の国が、生まれたばかりの魔王に続いて産声を上げようとしていた。


「なんだあれ……」


 マーラを自分の馬車へ帰し、すべてうやむやにしたまま降りる準備を始めたナミラたち。

 故郷の匂いが濃くなり、再びテーベ村へ視線をやると『歓迎! ゲルト商会御一行!』と書かれた垂れ幕が風に揺れていた。


「歓迎するであーる、幼き魔王と魔族の者らよ! 我が名はブルボノ・ツッカーノ。北の大貴族なのであーる!」


 懐かしい声に笑いを堪えながら、到着した馬車から降りていった。


「おぉ! ナミラ・タキメノ! 少し背が伸びたであーるか? テーベ村きしだんのみんなも、元気そうでなによりであーる!」


 久しぶりに会った親戚のような顔で、ブルボノはナミラたちを歓迎した。


「魔族が来ることは極秘って言ってたでしょう。そんな声高らかに」

「だから垂れ幕はゲルト商会としたであーる! テーベ村にとって最も近い隣国となるのだ。より良い関係を築きたいのであーる!」


 自慢の髭を触りながら、ブルボノはシャラクや棺桶に籠もるヴラドに挨拶をした。


「あら、いい男ん」

「手ぇ出すなよマーラ?」


 子ども楽団や冒険者のゴーシュなど、馴染みの顔ぶれに歓迎されていると突然怒気を孕んだ声が上がった。


「ダン!」

「デル!」

「アニぃぃぃぃぃ!」


 笑い合う村人たちをかき分けて、ガイを先頭に騎士団の親たちが我が子の前に躍り出た。


「げっ」

「やばっ」

「ご、ごめんなさい!」


 案の定音沙汰のなかったことを責め立てられ、ダンたちは小さくなってしまった。


「はっはっはっはっは! ここがきみたちの故郷か。いいところじゃないか」


 殿を務めていた四勇士たちがテーベ村を見て回り、説教を受けているダンたちに寄ってきた。


「……おい、こちらのどう見ても高貴な方々はどちら様だ?」


 ガイが頭をキラリと光らせて言った。


「学院トップの四勇士で、こちらはアレキサンダー王子ですよ」

「「王子ぃぃぃい!?」」


 親たちは青ざめ、慌てて平伏した。


「いや、俺はたしかに王子ですが、そんなに畏まらなくても」

「そうだぜ! 俺様たちはダチなんだからよ!」

「馬鹿言うな! どうせお前たちのことだ、模擬戦とかで空気読まず勝ったりして失礼働いてんだろ!」


 図星を突かれた五人は気まずく視線を逸した。


 ナミラたちが王都へ向かったときには村の復興が始まったばかりだったが、今は七割ほどが完了している。建物などもこれを機にほとんどが一新され、見慣れぬ故郷に少し寂しさを感じた。


「さ、行こうか」


 ひとしきり歓迎を受けたあと一行は子ども楽団を伴って、頑強になった北の門から砦を目指して出発した。

 北の砦に着いた頃には、もうすっかり夜も更けていた。砦もまだ建設途中であったが、砦長を中心に魔喰戦の戦友たちは快く迎え入れてくれた。


「ぐへへへへへ!」

「この変態ジジイ!」


 夜になり元気になったヴラドが、子ども楽団の少女たちと遊んでいた。

 だが、イヤらしい笑顔が隠れようともしておらず、マーラが飛び蹴りを入れた。


「なにすんじゃボケぇ!」

「いたいけな娘たちになにしてんのよ!」

「こんな質のいい生娘なんて、数百年会ってなかったんだ! 吾輩とやるのか? いいだろう! 復活した我が力見せてやる……力を、見……せて」


 マーラと睨み合い高らかに力を解放しようとしたヴラドだったが、唐突に涙が溢れて止まらなくなった。


「復活……したんだよな? 夢では……ないのだよな?」

「そうよ……だから、しゃんとしないと……」


 二人の涙は他の魔族にも移り、夜の闇の中に感涙の音が囁かれた。


「見て!」


 サキュバスの少女が指差した先には、魔喰の暗黒の大地が広がっていた。

 そしてその中に点々と松明の光が現れ、ゆらゆらと揺らめきながら向かってくる。


「同志たちっ!」


 第三の目で姿を見たシャラクが、思わず両手を広げた。


「きれいじゃのう。儂も行きたかったのう」


 モモが持った通信用の水晶玉から、ガルフの声が流れた。

 見ると、悔しそうな賢者の顔が映っている。


「こんだけ事後処理があるのに行かせるわけないだろう。左大臣は自分で計算した復興予算見て、泡吹いて倒れたぞ。ええい、どけっ! 余にも見せろ!」


 背後からルイベンゼン王が現れ、ガルフの髭を引っ張った。

 その様子をマーラは笑っていたが、水晶の前に立つと頭を下げた。


「経済面でも、必ずご恩はお返しします。国として確立した暁には、貿易においてもどこより優先させていただきます」

「そのためにうちが来たのでございます。これから話題の中心になるであろう新興国に、他よりも先に縁が持てるなんて逃す手はねぇ……です」


 浮かれた様子のゲルトが言葉を挟んだが、酒に酔っていたためアニに引きずられ王の御前から退場させられた。


「……ナミラ様、皆様。本当に」

「もう何度も聞いたって」


 暗闇との境に並んだ魔族たちは改めて頭を下げたが、ナミラが笑って制した。


「さて、マーラとヴラドには教えたが……見せてあげよう」


 初代魔王サタンの力を使い、ナミラが魔喰に侵された大地に手をかざした。

 すると、漆黒が空中へと浮かび複雑に絡み合い、重厚な輝きを放つ巨大な石が生み出された。


「こ、これが瘴石……」

「ひとまず、これだけあれば3年は食えなくても生きられるはずだ。作るための術式はある程度の実力者にしか使えないけど、惜しみなく広めてくれよ?」


 ナミラの言葉に、マーラとヴラドは深く頭を下げた。

 マーラから渡され、スヤスヤと眠る魔王を抱いたナミラは頭を撫でながら言った。


「魔王もいて瘴石もあるなんて、魔族の歴史上初めてのことだ。どの時代よりも栄え、力のある魔族の時代が来る。誇っていい。そんなこれからを生きられる、お前たちの人生を!」


 無意識に、ナミラの目からも涙が流れていた。


「……さぁ! 湿っぽい別れは嫌って言ってたのはどこの誰だった?」


 アニの明るい声に振り向くと、仕事の装いに着替えた子ども楽団やテーベ村騎士団。

 巻き込まれた四勇士や、ふざけた化粧の兵士たちがいた。


「うん……そうだったわねぇん! 建国祭で披露できなかった踊り! 見せてあげますわぁん!」

 

 マーラの声を合図に音楽が鳴り響き、魔族たちは一斉に魔喰の地へ足を踏み入れた。


「マーラ!」


 懐かしい声に呼ばれ、マーラが振り返る。

 目の前には愛しい憧れだった人の姿。

 かつて自分のために命を落とした、アルーナが立っていた。


「生きて!」


 あのとき、幼いマーラに言った最期の言葉。

 彼女を縛り、地獄の苦しみを生き抜かせた一言。しかし今は、穏やかで温かな想いを乗せている。

 死を覚悟した目ではなく、涙を流したまま美しい笑顔を向けていた。


「……はいっ! お姉様たちの分まで! 幸せに生きてみせます!!」


 クイーンは少女のように泣きながら、音楽に合わせて踊り舞う。

 立派になった姿を見せ、心配をかけまいとするように。


 人と魔族が歌い踊る北の砦に向けて、松明の明かりが集まっていく。それは徐々に数を増やし、闇に染まった大地を埋め尽くした。

 まるで満天の星空が地上にも降りてきたかのように神秘的で、八〇〇年の苦難の末に訪れた魔族の今を象徴していた。


 ナミラは歌う。

 ナミラは踊る。

 ナミラは笑い、涙を流し続ける。

 

 過去から解き放たれた、彼らの未来を想って。

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