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魂の継承者〜導く力は百万の前世〜  作者: 末野ユウ
第二部四章 復讐のとき来たり
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『秋の車窓から』

 肌寒く感じる風が黄金色の小麦を揺らし、さわさわと心地よい音を奏でている。

 空にも金の光が広がり、連なって進む馬車の御者たちは美しさに感嘆しつつ目を細めた。


「すっかり秋だねぇ」


 ひときわ広い馬車の中で、ナミラの右に陣取ったアニが小窓から外を眺めて呟いた。

 

「そうだな。冬は平和であってほしいもんだ」


 ため息をつくナミラに、アニは「親父くさ〜い」と笑った。


「で、でも、ほんとに、色々あったもんね」


 左で腕を抱きしめるモモが、そのまま体を預けて言った。


「そうだな……」

「ねぇ、モモちゃん? ちょっと近くないかな?」


 怖い笑みを浮かべながら、アニは自分の方へナミラを引き寄せ腕を抱いた。


「そ、そんなことないよ。ね、ナミラくん?」

「えっと、あの、その」

「なら、こちらに来ますか? 坊ちゃま」


 言葉に詰まったナミラの真上で天井が空き、屋根の上にいたウルミが声をかけた。


「風が気持ちいいですよ? 私がギュッとお支えしますので、揺れも心配ございません」

「いや、なんでそんなとこいるの!」

「警備です」


 メイド服をはためかせ、ウルミは大真面目な顔で言い放った。


「あはあぁ〜ん!」

「今度はなんだ! いや分かるけど!」


 妖艶な声と共に、ナミラの足下から肌艶の良くなったマーラが出現した。

 新たな魔王が生まれたことで戻った能力のひとつ、影渡りの力をこれみよがしに使ったのだ。


「なんだか大好物な修羅場の気配を感じて、サキュバスクイーン・マーラ参上しましたわぁ〜!」

「余計カオスになったわ! っていうか、魔王はどうしたんだよ?」

「ハーピィの羽が気持ちよかったらしくて、可愛らしく寝ていますわぁ〜ん。それこそ、隣の馬車で激しく致しても起きないくらいグッスリと!」

「やかましいわ!」


 上下左右を女性陣に囲まれ、ナミラは必死で最適解の行動を考えた。


「だーめーでーすー!」


 そのとき、背後から声がしたかと思うと抱きしめられ、引きつっていた顔は柔らかなものに包まれた。


「母親として見過ごせません!」


 二列に並んだ座席の背後にいたファラが、頬を膨らませて息子を守った。

 すっかり失念していた四人は、おろおろと慌てながらも主張を曲げなかった。


「ファ、ファラさんもそろそろ子離れしたらどうですか?」


 一番付き合いの長いアニが先んじて発した言葉に、他の三人も頷いた。

 ついでにナミラも頷いた。


「それとこれとは話がべつ! ナミくんにハーレムは早すぎます! モテモテは嬉しいけど、一番はお母さんだもん!」


 ファラは抱きしめる力を強めた。


「私だって幼馴染みだもん!」

「わ、わたしも! 手作りの杖もらったもん!」

「呪い解いてもらったもん!」

「あんなことやこんなことしたもん!」

「なに言ってんのあんたら」 


 ファラの抱擁から逃れ、ナミラは扉を開けて体を乗り出した。


「助けて団長、副団長! 魔喰戦よりシビアな修羅場がってあぶねぇ!」


 先頭を進むダンたちに助けを求めたが、豪速球で投げられたりんごが頬をかすめていった。

 投手は嫉妬を込めまくったダンと、同じ感情を糸での軌道変化に乗せたデルだった。


「なにすんだこらぁ! かすってんだけど? 下手したら死ぬ勢いのりんごが当たってんだけど!」

「「当ててんのよ」」

「うるせえぇぇ!」


 ナミラの怒号が夕焼けの秋空に響き渡った。


「はっはっは。本当に仲がよろしいですな」

「……そうですか?」


 ナミラたちの馬車で御者を務めるシャラクが、心から愉快そうに笑った。


「えぇ、もちろん。ほら、ご覧ください。見えてきましたよ」


 言われて目をやると、街道の向こうに人家の明かりが見えていた。


「あれが……」

「あぁ」


 ナミラの様子でダンたちも気づき、振り返って声を上げていた。

 アニたちも窓から顔を出し、喜びに顔を染める。


「テーベ村だ」

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