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魂の継承者〜導く力は百万の前世〜  作者: 末野ユウ
第二部四章 復讐のとき来たり
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『朝日昇るまで』

「逃がすかぁ!」


 闘竜鎧気を纏ったナミラが、すでに上空で待ち構えていた。

 サタンの前世は身を潜め、行動のすべてをナミラに委ねている。


 縛るものはなにもない。

 全身全霊で、ルクスディアを討ち取るのみ。


「ミギャア!」


 追い詰められた魔王の最後の技は、姿くらましの魔法だった。

 自らを透明にし気配も消す。さらにこの場を逃げ延びるため、小さくも速さに特化した姿へと変化した。瞬時に間合いの外へ逃れ、王都の外を目指して飛ぶ。


「撃て撃て! とにかく撃ちまくれぇ!」


 だが、意識を取り戻したダンたちやウルミ、学生たちが四方八方に攻撃を撃ちまくる。

 乱れ撃ちの弾幕は追い立てられる魔王の進路を妨害した。


「ナミラくん!」

「使って!」


 さらに、突進した雷と風の最高位魔法が、ナミラの闘気と重なり新たな力へと変貌する。


雷冠らいかんの装、風牙ふうがの装・重魔闘衣じゅうまとうい!」


 稲妻の冠と風の毛皮を身に纏い、ナミラは破壊の権化と化した。


風雷暴ふうらいぼう!」


 落雷と暴風を撒き散らしながら、ナミラはルクスディアを探した。


「キャハハハハハ!」


 しかし、魔王は笑う。

 誰もに憎まれ恨まれる小鳥はすべての攻撃を掻い潜り、北の城壁に迫っていた。


「キャハハハハハハハハ! ザマァミロ!」

「……これを見逃せるはずがあろうか」


 そのとき、ルクスディアの姿が夜空に晒された。

 光に照らされ、姿くらましの魔法が打ち消された。


「ナ、ナニガッ!」


 魔王は忘れていた。

 力を奪い、餌と馬鹿にした者の能力を。

 魔王は侮っていた。

 命を賭けて復讐を誓う者の覚悟を。

 魔王は知らなかった。

 恩義に報いようとする者の底力を!


「我らを辱め、陥れ、奪い、蔑んだ者が醜く堕ちていく様を。この目で見らねば末代までの恥!」


 魔法を暴いた男が吠えた。

 ルクスディアが睨むと、その先にはタキメノの屋敷。

 そして屋根の上に、三つの目から血の涙を流すシャラクの姿があった。


「我が主は貴様に非ず! この命はナミラ様のために! 我が忠義に懸けて、その醜悪な様を晒し続けてやろうぞ!」

「コノクソジジイィィィィィ!」


 唾を吐きながら、ルクスディアはハッと後ろを振り返った。

 ナミラはすでに凄まじい速さで迫ってきていたが、まだ距離がある。そして、結界の外まではあと僅かだった。


「キャハハハハハハハハハハハ! コノママニゲレル! ムダナコトヲシタナ!」


 勝ち誇り高らかに笑う。

 しかし次の瞬間、腹部に熱い痛みが走った。見ると姿なき獣に噛み千切られたように、肉が消し飛んでいた。


「俺だってキレてんだ。あれで終わるわけねぇだろう」


 城の窓から戦いを見守っていたルイベンゼン王が、素の言葉を呟く。

 ルクスディアを襲ったのは、先程の一合で放った『威光獅子王剣レオン・バシレウス』による時間差の攻撃だった。


「マダダアアア!」


 しかし、それでも止まらない。

 持てるすべてを注ぎ、必死の逃走劇を繰り広げる。そしてついに、血を吐く首が結界の外に出た。


「キャハハハハハハハハハハハハハハ! アタシノカチブファ!」


 なにが起きたか分からない。

 ただ確かなことは、頭部に強い衝撃が走ったこと。それが後ろではなく城壁の外からもたらされ、結界の中に押し戻されたということ。


 ルクスディアは、自身の逃避行を妨げたものを見た。

 

「ア……アアアアア!」


 この出来事をある者は運命と言った。

 ある者は偶然、ある者は必然、ある者は当然の報い、ある者は奇跡と言った。

 そしてナミラは、強い意思を感じたという。


 魔王に一撃を与え押し止めたのは、魔力尽きるまで彷徨っていたルーベリアの箒だった。


「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアクソガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」


 止まった時間はものの数秒。

 刃を振り下ろすには十分過ぎる時間だ。


轟雷滅風刃ごうらいめっぷうじん!」

 

 光り輝く刀身が荒れ狂う稲妻と竜巻を纏い、無慈悲な力を解き放つ。


「マダッッッ!」


 短く汚い断末魔。

 最強の結界に守られたはずの城壁に大きな亀裂が入り、ルクスディアはその一撃を全身で受けた。


 その後。

 朝日が昇るまで王都中の捜索が続けられたが、ついに分裂体の姿を見つけることはなかった。


「やったぞおおおおお!」

「勝ったー!」

「先生の仇を取ったんだあああ!」


 学生たちを中心に、喜びの声が上がる。

 ガルフとモモは魔力の尽きた箒を拾い上げ、涙を流してルーベリアの名を呼んだ。


「あれ?」


 王都が歓喜に包まれる中、アニが周囲を見回し呟いた。


「ナミラは?」

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