表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魂の継承者〜導く力は百万の前世〜  作者: 末野ユウ
第二部四章 復讐のとき来たり
110/198

『みぃつけた』

「畳み掛けろ! 今なら討ち取れる!」


 ルクスディアを狙うすべての者たちが、消えぬ怒りの矛先を向ける。


「聴け、糞共が!」


 四面楚歌の魔王はしわがれた声で吐き捨てた。

 だが次の瞬間、その口から奏でられたのは世にも美しい歌声だった。


「これはっ!」


 見上げる者たちの中で、アレクだけが顔をしかめた。

 流れる声は、皇女サタナシアのものに他ならなかったのだ。


「あ……あぁ……」

「ルクス……ディア……さま」


 復讐の炎に燃えていた者たちは、惚けた顔で立ち尽くし武器を手放した。

 ダン、デル、アニ、ウルミも同じく、その効果は王都中に広がっていた。


「なんてことだ……奴は建国祭でこれをしようとしていたのか」


 力が弱まった今でさえ、広範囲の戦意喪失をもたらした。

 ルーベリアにより混乱した民衆が聞けば、その効果は計り知れないものとなっていただろう。もしナミラが真実に辿り着き王たちに協力を仰がなければ、慰問の意味を込めた歌声の披露も検討されていたのだ。

 アレクは可能性のあった最悪の事態を想像し、冷や汗を流した。


「あら……その忌々しい剣を掴んでいるからか、お前には効果がないようだね?」


 アレクの眼前に現れたルクスディアが、裂けた口で笑みを浮かべた。


「貴様……」

「歌を聴いた連中はしばらく起きない。アタシはこのまま逃げるけど、どうする? 結界を解いて戦う? 勝てるかな? 王子様! キャハハハハハハハハ!」


 怒りを煽る笑い声を響かせ、ルクスディアはひらひらと舞った。

 結界を解き、多くの友に続こうと意を決したアレクだったが、視界に入ったものに笑みを浮かべて掲げる剣に力を込めた。


「どうやら俺の出番はなさそうだ。逃げれるもんなら逃げてみろ」

「あ?」


 止んだはずの雷鳴が轟き、暴風が吹き荒れる。

 慌てて振り返ったルクスディアが見たものは、最高位魔法を詠唱するガルフとモモの姿だった。


「馬鹿な! 歌は届いたはず!」

「そのときには詠唱を始めてたんだろう」

「詠唱障壁でも防げないはずだ!」

「俺たちは教わったぞ? 風と雷の魔法はうるさくて、周りの音が聞こえなくなるから注意しろと。他でもないルーベリア先生にな!」


 今度はアレクの嘲笑が煽り返す。


「それに、さっきまでは建物に被害が出ないよう手加減していたはずだ。だが今は、貴様以外のすべてが結界に守られている。この意味が分かるな?」


 結界に阻まれ絶対に届かないと知りながら、唾を吐いて飛び去る魔王がアレクには心から哀れに見えた。


「我が友曰く」


 ルクスディアに杖を向けるガルフが呟く。

 その脳裏には、雷の最高位魔法の発現を共に喜んだルーベリアの姿があった。


「黒魔法にはそれぞれ司る化身が在り、最高位魔法ではその大いなる者を呼ぶ。その中でも雷の厳父と風の王虎には関係性が伺え、同時に放てば相乗効果が期待できるだろう、と」


 頬を伝う涙を隠す雨は、もう止んでいる。


「ルーおばさまの論文、信じた仮説。今、証明してみせる!」


 モモの声に応え、杖から音声と魔法陣が生まれた。


 属性タイプ:風

 出力:一〇〇%

 術式コード:最高位魔法

 オーダー受諾しました。


「『雷父推参トール・ハンマー!』」

「『風王虎推参ストーム・タイガー!』」


 逃げ回る影に狙いを定め、熱い涙を流した親子が魔法を放つ。

 放たれた二つの化身は、術者も想像しない行動をとった。雷の厳父が風王虎に跨がると、魔力が共鳴し互いの力を高め合ったのだ。


「おぉ……」


 戦いの最中でありながら、ガルフは感動の声を発した。


「チクショオオオオオオオオ!」


 もはや普通の魔族と同等レベルに堕ちたルクスディアだったが、速さだけは健在だった。

 しかし、相手が悪い。

 雷の破壊力と風の疾さを併せ持つ最高位魔法から、逃げる術などどこにもない。


「「くらえええええええええええ!」」


 危険はないと知る四勇士たちも鳥肌が立つ光景だった。


 憤怒に染まった雷と風がただ一つの命を奪うため、夜の王都を駆け抜けた。


「ギィッ」


 撃ち落とされた野鳥のような声が上がる。

 その肉体は雷光により一瞬で炭と化し、暴風が攫い一切を消し飛ばした。


「まだ魔法を解くでないぞモモ。分裂体を探すのじゃ」

「はい!」


 油断も隙もない捜索が続けられる。

 それはルクスディアの絶命が確認されるまで、決して終わることはない。

 

 そんな状況下で、狭く暗い路地を低空で飛ぶ小さな影。

 まるでふくろうのような姿になった、魔王その人である。


「クソォ……クソォ……アタシハ、こんなところで終わらなイ! ずっとずっと、誰よりも美しくいるンダ!」


 痕跡を残さぬよう悔し涙を堪え、ルクスディアは西を目指した。

 城壁の外へ出られれば、弱体化の効果から逃れることができる。聖なる力には物理的な拘束力がないため、隙さえ突けばなんとかなるはずだった。


「とにかく外にッ! 肉体が戻ルにハ時間がかかるだろうケド、ここにいてハそれすら望めナイッ!」


 降り注ぐ雷と吹き荒ぶ風を掻い潜り、ルクスディアは西の城壁に立つバーバラを視認できるまでに接近した。

 そのとき、声が聞こえた。


「はやくしろ! このままじゃこっちが死ぬぞ!」

「分かってるわよ!」


 石畳を剥ぎ、地下へ続く隠し通路に入ろうとする人影。

 ナミラのおかげで一時的に力を取り戻した吸血鬼と、サキュバスクイーンのマーラだった。


「イイトコロニイタァァァァァァ」


 最悪の魔王に浮かんだ非道な考え。

 二人を見つけたルクスディアは、よだれを垂らし残虐な笑みを浮かべた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ