表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魂の継承者〜導く力は百万の前世〜  作者: 末野ユウ
第二部四章 復讐のとき来たり
107/198

『八岐大龍神』

「はあぁ!」

魔王剣グラディウス・マギクス


 臆することなくナミラが斬りかかる。

 しかし、ルクスディアの両手に現れた黒いオーラの剣で防がれた。火花散る鍔迫り合いののち、体勢を崩される。


雷父らいふよ!」


 すかさずガルフが魔法を操り、雷の鉄拳を繰り出す。


「邪魔よ」


 ルクスディアは軽く弾き返し、距離を取ったナミラに視線をやった。


「真・斬竜天衝波ぁ!」


 一瞬の隙を突いて、両翼を携えた闘気の竜が襲いかかる。


魔王竜爆波(ドラコー・フラゴル)!」


 多眼の黒竜が現れ、ナミラの天衝波とぶつかった。

 

「おおおおおおおお!」

「キャハハハハハハハ!」


 二体の竜は絡み合い、空へ昇っていく。

 やがて黒竜が自ら爆発し、天衝波ごと消し飛んだ。強烈な爆風が王都を襲い、古い建物は脆くも崩れ去った。


「キャハハハハハハハ! その程度なの? ほら、お仲間を呼んでもいいのよ?」


 二人を見下す魔王ルクスディア。

 そのとき、雨音の向こうから聞き覚えのある声が流れた。


 属性タイプ:水

 出力:一〇〇%

 術式コード:最高位魔法

 オーダー受諾しました。


「いいのか? なら、お言葉に甘えるぜ」


 ナミラはニヤリと笑い、眼下に向けて叫んだ。


「やれ! モモ!」

「『天昇瀑水竜ドラグ・フォール!』」


 魔法陣の光に照らされたモモが、水の最高位魔法を天に放つ。

 しかし、素早い動きで躱されてしまった。


「危ない危ない……って、どこに撃ってるのぉ~?」


 笑いながら見上げる先には、雲の中に姿を消す水竜がいた。


「アホだけど、魔力はすごいわねぇ。おやつ代わりに食べちゃおう!」


 モモに狙いを定めたルクスディアを、ナミラとガルフが妨害する。


「あら、先に死にたいの?」

「死ぬのはお前だろうよ。人の怒りを思い知れ!」


 言葉の真意が分からず首をかしげた魔王だったが、すぐにその理由を悟ることになる。


「よくも……よくもルーおばさまを!」


 数多の魔法陣が少女を囲み、膨大な魔力を制御する。

 それは魔喰戦で見せた奇跡の光景。

 超天魔法の発現を意味していた。


「そうか……あの小娘!」

「させるかぁ!」


 ガルフが操る最高位魔法が行く手を阻む。

 ナミラも絶えず攻撃を続け、モモを守った。


 雨を降らせる黒雲の中で、水竜が暴れている。


「『天より来りて地より還る! 生命いのちの根源! 命奪めいだつあるじ! この世に在りし万象を! つ首の怒りが滅する! 我、絶望を知る者! 我、闇を見た者! 我、希望を知る者! 我、光に触れた者! 終焉の空より来たれ、水天すいてんの覇者!』」


 出力:一二〇%

 術式:超天魔法ちょうてんまほう

 オーダー受諾しました。


 王都の隅々まで届く巨大な魔法陣が、黒雲に映し出された。


「『八岐大龍神ヤマタノカミオロシ!』」


 雲の中で山脈を思わせる巨大な水の尾がうねり、同時に八対の眼光が光る。


 そして怒り狂う竜の首が八つ、ルクスディアに牙を剥き襲いかかった。

 どれも最高位魔法とは比べ物にならないほど大きく、膨大な水の魔力を有していた。


「なによこれええええええええええ!」


 ルクスディアはナミラたちとの戦いを放棄し、超天魔法から逃げ出した。

 しかし、八頭の牙は滅する敵を決して逃がさない。


「ルーおばさま……」


 長い前髪と涙越しに、モモは憎い仇を睨む。

 この魔法は、ナミラとダンの双竜豪天衝そうりゅうごうてんしょうから着想を得て完成した。

 入学時のルーベリアの行動を責める声は少なからず存在していた。だが、この魔法の発現に一役買ったとなれば、中傷も止むだろうとモモは期待した。それになにより、新しい超天魔法に貢献できたことをルーベリアが喜んでくれると思っていた。


 しかし、その願いは奪われた。

 目の前を飛ぶ身勝手な女の手によって。

 親の愛を知らぬ自分に母性を教え、強い女性の姿を示してくれた存在。

 いつか母と呼びたかった憧れを、最大の侮辱の下で奪われたのだ。


「ぜったいに! ゆるさない!」


 古代の技術で作られた杖が、膨大な魔力に震えだす。

 そしてついに、復讐の牙が憎き体に届く。


魔王の根源サタナス・ナートゥーラ!」


 ルクスディアは雄叫びを上げ、足に噛みついた水の竜を弾き返した。

 純粋な魔王のオーラが体を覆い、何人たりとも触れることを許さない。


 しかし、八つ首の牙はそれすら貫く力を持つ。


「このアタシが! こんなもので!」


 飛び回り、斬りつけ、蹴り上げ、力の放出で撃ち払う。

 奇跡と称される魔法を相手に、最強の魔王は引けを取らぬ戦いを見せる。

 だが、モモの怒りを体現した水の化身は、獲物を滅するまで消えることはない。


「このおぉぉぉぉぉぉぉ!」


 悲鳴を上げるルクスディア。

 その一瞬、力が弱まった隙を竜眼は見逃さない。

 欲深き愚か者に、罰を与えるときがきた。


「ぎゃあああああああああああああ!」


 すべての頭が喰らいつく。

 決して尽きぬ水に自由を奪われ、終わりなき苦しみの中引き裂かれ、潰され、跡形もなく消える。

 それが水の超天魔法を受けた者に待つ、絶対の末路。魔王ルクスディアも決して例外ではない。


 瞬く間に肉体は消え失せ、緊張の解けたモモはひどい疲れを感じ超天魔法を解いた。


「……終わったよ、ルーベリア……おかあさん」


 天を仰ぎ、亡き恩人に想いを馳せる。


「なにが終わったの~?」


 背後であり得ぬ声がした。


 滅したはずのルクスディアが、オーラの剣を構えている。


「なにぃ!」

「モモ!」


 ナミラとガルフは素早く反応したが、巻き添えを避けるため避難していたことが仇となった。

 二人の距離では間に合わず、疲弊したモモでは逃げることもできない。


「まずは一人」


 惨くも鮮やかな血飛沫が、夜の王都に散った。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ