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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

ゲーム会社の友人と厨二病ゲームを作った時の話

作者: WhoamI

「おーい! 『RPGツクール』買ってきたら一緒にゲーム作ろうぜー!」


「お前、ゲーム作ったことあるのか?」


「無い。けど、お前ゲーム会社に勤めてんだろ? 俺が設定とかシナリオ考えるからさ、お前がデータとか打ち込んで作ってくれよ」


「面倒なところは人任せか? まぁ、いい。俺自身のステップアップに繋がるかもしれないからな」


「そゆこと、そゆこと。んじゃ、セットアップして!」


「……立ち上がったか? なるほど……スクリプト作成のクライアントツールみたいなインタフェースだな」


「日本語で話せ」


「ゲーム業界じゃ、当たり前の用語だ。まず主人公を作るみたいだぞ。案は出来てるのか?」


「そうだなー……名前はランスロットにするか!」


「ランスロット……一応、聞いておくがイメージしてるのはイギリス人か? それともフランス人か?」


「ん? 何か関係あるの?」


「ランスロットは英語読みの名前だ。同じ名前でもフランス語ではランスローになる。他のキャラクターを作る時、合わせた方がいいだろう?」


「それもそうか……じゃあ、英語のランスロットで。て言うか、ランスロットが出てくるのはイギリスのアーサー王物語なんだから英語でいいだろ?」


「ランスロットはアーサー王がフランスに侵攻した時に出会った現地の騎士だからフランス人だよ。ランスロットが主人公の『荷車の騎士』を書いたクレティアン・ド・トロワもフランス人だしな」


「ふーん、どっちでもいいけど武器はやっぱりアロンダイトだよな!」


「アーサー王物語には出て来ないけどな」


「えっ! マジで?」


「もっと後の時代に書かれた作品の中で、ランスロットの剣だとされたらしい。他にもフランスの『ローランの歌』に出てくるオートクレールが、アロンダイトと同じ剣だとされたりな」


「同じ剣なのに名前が違うとか、紛らわしいなー。アーサー王のエクスカリバーは、キャリバーンがパワーアップして名前が変わったんだろ?」


「そんな記述は無い。アーサー王物語は、成立時期の異なる複数の作品をマロリーがまとめた物だからな。同じ剣を指す名前でも、成立時期によって記述が変わったんだろ。エクスカリバーの原型はケルト神話のカラドボルグで、それがキャリバーンになりフランスに伝わった時にエクスカリバーとなったのが逆輸入されたってところか」


「ややこしいなぁ……日本語のカタカナだと翻訳者のニュアンスによって更に色んなパターンが出てくるしなぁ」


「あぁ。ルシファーとルシフェルも英語とスペイン語の違いでしかないのに、天使の時はルシフェルで悪魔の時の名前がルシファーだとかいう俗説まで出たりな。じゃあ『神曲』のルチフェロは何なんだ? イタリア語でそう呼ぶだけだろ」


「うーん……古典から引用する場合は、そういうところも押さえておかないとな。そう言えばアーサー王物語も俺、詳しいストーリーは知らないや」


「ローマ帝国に敗れて落ち目になっていた頃のイギリスでは、昔の栄光時代を懐かしむブームがあってな。その昔の栄光時代の妄想が膨れ上がって、アーサー王という架空のイギリス王を作り上げたんだ。

 アーサー王はイギリス全土を治め、アイルランドとノルウェーも支配下に置き、フランスに攻め入っていよいよ宿敵ローマ帝国を目の前にしたところで甥に国を乗っ取られて帰国を余儀なくされてしまう。アーサー王は甥と相討ちになるんだが死んではおらず、傷を癒すためにイギリスを離れていった。そしてイギリス人は今もアーサー王の帰還を待ち続けているそうだ」


「そんな話だったんだ。ランスロットとはフランスで会ったんだっけ?」


「あぁ。ランスロットはアーサー王の妃ギネヴィアの愛人でな。さらわれた王妃を助けに行ったんだが、追い掛けるための馬が無い。そこへ犯罪者を護送する荷車が通り掛かり、ランスロットは王妃を救うために恥を忍んで荷車に乗って追いかけていったんだ。

 王妃は救出できたが不倫関係がアーサー王にバレたために二人は戦うことになったんだが、イギリスに帰した王妃が今度はアーサー王の甥と不倫してな……そいつに国を乗っ取られたため、ランスロットと和睦して帰国した後、甥と相討ちになるんだ」


「……あれ? さっきローマ帝国と戦ってる時に乗っ取られたとか言ってなかった?」


「初期のアーサー王物語ではな。クレティアン・ド・トロワがランスロットを登場させて以降、そういうストーリーに変わったんだよ」


「後付けってやつか? でもまぁ、より面白くなるんなら、色んなアイデアを入れた方がいいもんな! 俺のゲームも神シナリオにしてやるぜ!」


「それで、その神シナリオのオープニングは考えてあるのか? ゲーム開始時のマップも、それに合わせて作らなくちゃならないからな」


「そうだなー……最初は劣勢の状態で、そこから大逆転させることで主人公のスゴさをアピールしたいよなぁ。マップは毒の沼地……いや、毒の谷にするか!」


「毒の谷……作る上で参考となる画像があるといいが」


「教えてグーグル先生っ……あんまり良い画像が無いなー。英語とかで検索してみるか……英語だと何て言うんだ?」


「ポイズンドバレーか……そう言えば、アイルランドにポイズングレンという地名があったな」


「ポイズングレン?」


「そのままズバリ、毒の谷って意味だよ」


「おっ、それいいじゃん! 早速、検索……してみたけど普通に綺麗な谷じゃない?」


「毒の谷っていうのはイギリスが呼んでる地名で、アイルランド語では天国の谷と呼んでるからな。アイルランド語で天国を意味する単語と毒を意味する単語の発音が似ているせいで、聞き間違えたイギリス人が毒の谷と翻訳してしまったそうだ」


「全然、真逆のイメージなのにヒドい誤訳だな……」


「聞き間違えって奴は同じ言語でも起こるからな。ギリシア神話に出てくるゼウスの父クロノスが、時間を意味するギリシア語のクロノスと綴りは違うんだが発音が同じなせいで、当のギリシア人でさえ混同してしまうそうだ。そのせいでゼウスの父が時間を司る神だと思われたりもするが、正しくは農耕の神だからな」


「土星のサターンを悪魔って意味だと混同するみたいなもんか」


「あぁ。ちなみに土星(サターン)の由来になったローマ神話の神サトゥルヌスこそ、ギリシア神話におけるクロノスだぞ」


「そんな話している間に、もうマップ作り終えちゃったんだ! 早いね~。そんじゃ、主人公を配置して動かしてみようぜ~!」


「主人公の初期位置を選択……最初から画面に表示してたんじゃ芸が無いな。マップの外から歩いて登場する演出にするか……上手(かみて)下手(しもて)のどっちから登場させる?」


「ん? 上も下も塞がってんじゃん。谷間なんだから」


「そうか、職場では普通に通じるからな……上手、下手って言うのは舞台用語だ。舞台の上から見た時と客席から見た場合とで左右が逆転するからな。どっちから見ても意思の疎通が出来るよう、上手とか下手って言葉に置き換えるんだ」


「ふーん、それでどっちがどっちなの?」


「舞台から見て左が上手、右が下手だ。客席から見た場合は右が上手で左が下手になるから、俺たちから見て画面の右側が上手だ。ちなみにテレビの一カメ、二カメ、三カメは下手から順番に数えるからな」


「そうなんだ。じゃ、上手から登場させて……そこで下手で待ち構えていたスライムを出現させる!」


「……モンスターのデータは作ってなかったな。最初の敵はスライムでいいのか?」


「ありきたり過ぎるかな? 一番のザコはウーズ……いや、ローパーだろ……それからショゴス、アティアグ、ダイアノーガって順に強くしよう!」


「世界観を統一しろ」


「触手モンスターが好きなんだよ! て言うか、名前って付けるのムズかしいなー……いっそキャラクターは聖書から引っ張ってくるか」


「聖書の人名はヘブライ語だかギリシア語だか知らんが、使うんなら英語に直せよ。ダビデはデビッド、ヨナタンはジョナサン、ラケルはレイチェル、エリヤはイライジャみたいにな」


「へー、そう考えると現代にも残ってる名前なんだな」


「そうだな。英語圏でよく見る名前のジョンもヨハネが元だし、フランス語ならジャン、イタリア語ならジョバンニに変わる。ロシア語ならイワンだし、ドイツ語ならヨハンだ」


「他にも無いかググってみるか。えっと、ペテロは英語でピーター……フランス語でピエール……」


「ジャンもピエールもフランスではポピュラーな名前でな。ジャンだけだと誰を呼んでるか分からないから、ファーストネームを二つ付けたりするそうだ。ジャン・ピエールとかリュカ・フランソワみたいにな」


「なるほどー。ランスロットもフランス人なら、二つ目のファーストネームも欲しいけど……まぁ、とりあえずはヒロインから決めるか。さっき出てきたレイチェルって響きが可愛いなぁ」


「ふむ、名前はレイチェルっと……見た目や性格の設定は?」


「そりゃヒロインにするんなら、超乳ボテ腹ふたなり子宮脱アヘ顔ヤンデレ幼女しかないっしょ!」


「歪んだ性癖の欲張りセットやめろ」


「ヒロインは実は天から遣わされた聖女でさー。罪深き人類の業の深さを目の当たりにして、それでもなお人を(ゆる)せるかどうかを神から試されてるんだよ」


「お前が一番罪深いだろ……しかし、レイチェル――ラケルは子羊という意味。(ほふ)られた子羊という解釈で行けば、それほど悪くないか。さっき挙げた変態属性もちょうど七つで、屠られた子羊にちなんだ数だしな」


「主人公は途中で民衆に殺されるんだけど、ヒロインは愛する主人公を殺した人間さえも赦したことで救世主を産むことになる。その救世主こそが、生まれ変わった主人公な訳だ!」


「それでボテ腹だったのか……主人公の子ではないんだな?」


「もちろん処女懐胎だろ! ヒロインの子宮こそ神の血を受け止める原罪なき聖杯だからな!」


「なるほど……ランスロットの子供は聖杯伝説で名高いギャラハッド……ここで主人公の名前が繋がったな」


「二つ目のファーストネームはキリスト……じゃなく、あえてエマニュエルにでもするか!」


「処女から生まれた、神は我らと共に(インマヌエル)という名前を持つ救世主……そうなると、ラスボスも聖書関連か?」


「うーん……味方キャラクターが実はラスボスだったっていう展開にしたいけど、ユダだと名前でバレバレだしなー……」


「そうだな……ユダの死体が埋められた血の畑(アケルダマ)とかから取って、分かる人にだけ分かるようにするか? それで『駈込み訴え』みたいにラストでバラすのも面白い」


「はぇ~、しっかし物知りだなお前?」


「あぁ。ゲーム会社の本棚にはプログラミングの技術書とかと一緒に、そういった資料集も置かれているからな」


「おかげで大作が出来そうだぜ! ここまでのデータでテストプレイって出来る?」


「じゃあファイルを保存して……ゲームのタイトルを決める必要があるみたいだぞ。何にする?」


「タイトルは『ヌンク・ディミティス~十三番目のプロトコール~』ね。これは面白くなるぞ!」


「中身の出来は良くても、意味不明なタイトルのせいでブラバ率100%だな」

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