8話 花火大会
7話までお読みいただけたでしょうか?
読んでいただけたらぜひコメントや評価をお願いします。
さて、今回は8話の『花火大会』です。
前回から話は進み、あっという間に夏休みに投入。
バイトばっかの咲太に香織から電話があり、修斗と香織と花火大会に行くことになった。そこには新たな刺客も。
「友達になってください」香織は修斗に告白の返事をした時最後に言った。
「え、え」修斗は幽体離脱したようにポカーンとしてる。徐々に体に魂が戻ってくると「俺って今まで友達とも思われてなかったの?」振られたことと友達だと思われていなかったことが相乗したのか声はかなり悲しそうだ。
「いや、私は友達だと思っていたというか、友達になりたかったというか」香織はなんと答えるのが正しいのか分からないようだった。まぁ無理もない。高校では俺としかまともに喋れないのだから他の人を【友達】と呼ぶのはそんなに簡単なことではないだろう。
「俺は友達だと思ってたよ」
「え、ほんと」修斗の言葉に香織は驚き、喜んでいるようだった。
「ほんと」修斗の言葉は先程とは違い、暖かい声だった。
こうして香織と修斗は友達になった。友達になったというより友達だと認識したというのが正しい表現かもしれない。修斗の『付き合う』という目的は達成できなかったが、香織と修斗の関係は1歩前へ進んだのだ。
次の日、香織はちゃんと修斗に言いたいことが言えたこと。修斗と友達になれたことを産まれたての子犬の鳴き声のような明るくてほんとに嬉しそうな声で報告してきた。
そのあとはただ普通で何もないが無味ではなく、たくさんの色がみんなのキャンパスを彩っていた。というよりみんながみんなのキャンパスにみんなの色を塗っているようだった。1人では絶対塗ることのできないくらいのたくさんの色を使って。
普通という今しか味わえない特別を過ごしていたのだ
期末テストも終わり、香織はちゃんとランキングに戻ってきた。もちろん1位は僕だが。そして終業式をして
夏休みが始まった。
夏休みの俺の生活はバイト、バイト、バイト、遊びというようなものだ。青春王者とは言い難いが俺にとってはいつも通りの夏休みだ。バイトがこんなに多いから遊ぶのが少ないのではない。ほかの人にも部活やバイトなどの予定がある。つまり毎日誰かと遊ぶのはおそらく無理だ。だからシフトをたくさん入れたのだ。
4日に1回ぐらい遊べば十分だろう。それが俺の計算だ。
こんなに毎日のようにバイトをしたのは去年な夏休み以来なので感じることが多かった。いつも10時に来て14時に帰るおばさん達や、3日に1回はお昼を食べに来るサラリーマン、たまにしか来ないものの俺がここでバイトを始めた頃から来ているパソコンで何かをしてる20代後半の男性。たまたま入った家族ずれなどお客さんは様々だった。
いろいろな人たちがいて、それぞれがそれぞれの生活スタイルや交友関係を持っている。その人たちは河原の石ような一見すると似ているがよく見ると全然違う感情や考え、大切なものをもっていて、いろいろな生活をしている。
そんな様々な形の当たり前をどこか羨む人もいたり、蔑む人もいる。だが自分で自分の当たり前を考える人はあまりいない。その当たり前で普通だと思っていた生活が壊れた時に初めてそれを特別だと理解出来る。人間は全くよく出来てない生き物だ。
そんなある日、香織から電話がかかってきた。
「もしもし、咲太」いつもの香織の声が機械を通している分少し違っていた。
「この携帯で咲太以外がでたらどうした?」
「それは冗談?それとも本気で聞いてる?」
「もちろん本気だよ」
「おもしろい冗談だね」
「お褒めいただき光栄です」
「褒めたつもりはないけどそうゆうことでいいよ」
ひと通りの意味のない会話をしたら、香織が言ってきた。
「今週の週末花火行かない?」
「まぁいいよ、バイトないし」
「そっか、よかった」
「ほかにだれか誘うのか?」
「私が誘えるのって、あと1人しかいないよ」
「修斗だけって言いたいの?」
「そうだよ」
「まぁそうかもしれないけど香織が誘えば学校の男子はほとんどみんな来ると思うよ」
「それってからかってる?」
「あくまで正論に限りなく近い予想論だね」
「はぁ、、まぁいいや、とりあえず週末は、桜岡駅に4時集合ね」ため息をついたのは、俺の冗談にはもうお腹いっぱいということを語っていたのだろう。
「りょーかい、それじゃ香織の浴衣を楽しみにしているよ」
「咲太って性格悪いよね」
「今さら知ってること言ってどうしたんだ?」
「はいはいまたね」
「じゃあ週末に」電話がきれた。
週末といってもそれはもう3日後だ。あと2日は今まで通りバイトだ。そして2日間はあっという間に過ぎていった。
花火大会当日になった。
桜岡駅の前に集合時間よりも5分くらい早く着いたが、香織と修斗はもうそこにいた。
「遅かったな、咲太」
「これは俺が遅いんじゃなくて、2人が早いんだよ」
「ま、そうともいうな」香織と修斗はもう緊張しないでお互い喋れるようになった。
「2人はいつからいちゃいちゃしてたの?」
俺の言葉に修斗は照れて何も言えなくなっていたが
香織は「それは無い」と冷めきった声で言ってた。
その言葉に修斗は大きなダメージを受けたように悲しんでいた。
「じゃあ行くか」花火が始まるまではまだ時間がある
だから出店をぶらぶら回る予定だ。それを考慮して、集合時間もこんなに早いのだ。
「なに買う?」修斗がたこ焼き屋を左手の人差し指で指しながら言った
「たこ焼き以外ならなんでもいいかな」
「おなじく」香織も乗ってくれた
「やっぱり香織って咲太と話しだしてから性格悪くなったよな」もちろん修斗も香織のことを加藤さんから香織へと呼び方を変えていた。
「たしかに悪くなった」
「まぁ咲太よりはましでしょ?」
「俺よりやばかったら1回病院行くことをおすすめするぞ」
「あ、りんご飴だ」話を遮るように言うと香織が目を輝かせていた。
「俺に毒りんごでも食べさせるつもりか?」
「まず食べさせてあげないから安心して」
こんだけ冗談を上手く言えるようになったと思うと
なんだか泣けてくる。初めて会った時はタメ口で話していいよって言っただけで嬉しいと言ってたあの香織が俺の冗談に切れ味抜群のカウンターを交わしながら
りんご飴を食べているのだから。
そんなこんなで出店で色々食べていると当たりはすっかり提灯のあかりに照らされるようになり、花火が始まるまであと15分になった。
その時「あれ、咲太?」と後ろから声をかけられた。
振り向くとそこにはピンクを基調とした花柄の浴衣に身を包んだ綺麗な女の子がいた。
「くるみ」彼女の名前は國光くるみ。香織と同じくヒロインズの1人だ。またそのヒロインズの中でも1番人気が高いといわれている。
「咲太も来てたんだ」
「その言葉そのままお返しするよ」
修斗も香織もさすがにくるみの事は知っているようだった。それはヒロインズで1番人気が高いって言ったらうちの学年で1番人気があるってことになるから当たり前だろう。俺は去年クラスが同じでそれなりに仲良かった。
「えっと、加藤香織さんでしたっけ?」くるみは念の為なのか皮肉なのか分からないが一応聞いたようだった。
「はい、加藤香織です」
「まぁ、花火大会に男を2人も連れてくるなんて、今年ようやく人と話せるようになったとかなのにさすがですね」アニメに出てくる中世の意地汚い貴族のご令嬢のような声と言葉だった。そしてさっき名前を聞いたのは皮肉だったと誰もが分かった。
「なにか問題があるとでも」香織もそれに対抗するようだ。
「いえ、何も問題はないですよ。ただしあなたが男2人も連れて歩いてたら、学校の人たちはどう思うですかね」不気味な笑い方をしながら言っていた。
これには香織も何も言えないようだった。
「いっそ、咲太は私と一緒に来た方があなたの見栄えはいいかもしれませんね」
「たしかにそしたら2人は美女と野獣カップルに見えるもんな」俺の言葉で香織がいつもの冗談の感覚を取り戻してくれるといいんだが、そんな気配はなかった。
「それより、くるみさんも1人なんですか?」修斗が言った。
「あぁ、あなたまず誰よ、それに勝手に下の名前で呼ばないでちょうだい」さっきまでの話し方とは違ってどっかの超怖いムチを持った教官のような話し方だった。
「それはないだろうー」
「黙りなさい」くるみは本当に悪役令嬢に見えた。
「まぁ今日はいいわまた会ったらね、加藤香織さん」
くるみがいなくなると俺らは一気に静かになった。
香織はくるみに言われたことを少し気にしているのか先ほどまでとは様子が違う。
「そろそろ花火始まるぞ」俺は話を変えたかったからこう言った。
「だな、もう始まるな、移動しようぜ」修斗も上手く乗ってきてくれた。
「行くぞ香織」そうして花火が見えやすそうなところに俺らは移動した。夏独特の湿気が重く感じられる。
夕方によく雨が降る時期だが、今日は運よく降らなそうだと先ほど話していたが今は雨が降るよりも気が重い。そんな気がした。
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