7話 返事
6話までお読みいただけたでしょうか?
読んでいただけたら、ぜひ感想や評価をお願いします。
さて今回は7話『返事』です。
無事に紗季の問題を解決した次の日に修斗に香織からまだ告白の返事をされていないことを聞かされます。そんな時にふと咲太の脳裏に浮かんだのは、体育祭での自分の言葉だった。
さぁどうなっていくのでしょうか?
今巻は咲太の過去の伏線もいくつか登場します。
少しそれを頭にいれて読んでいただけると幸いです
「咲太、香織から返事が来ないんだ」
「そんなの待ってたら言ってくるだろ」
「とはいえ今日で五日目だぞ」
「そんなに気になるなら自分から聞けばいいじゃん」
「そんなことができるか」
「じゃあ俺に何して欲しいんだ」
「出来れば香織に返事にさせるように暗に言ってもらえれば」
「そしたら俺は修斗が香織に告白したことを知ってるってことになるけどいいのか?」
「だって、現に知ってるじゃん」
「そうじゃなくて」言いかけたが言葉が喉を通らなかった。よく考えてみれば体育祭が終わってから香織と1回も話していない。告白の返事をしないのが体育祭で俺があんな事言ったことを気にしているのも原因のひとつだとしれない。つまり俺のせいかもしれない。そう思ったから「わかった、どうにかやってみる」口は頭よりはやく動いていた。おそらくこれは修斗の為じゃなくて自分のもやもやを解決するためだと心のどこかで思っていたのだろう。
少し気がみいるが恐る恐る香織に話しかけた。
「あのさ香織、体育祭で俺が言ったことまだ気にしてる?」体育祭でもたくさんの事を話したが、俺がどの話のことを指しているのか何も言わずに理解してくれた。というよりそれしかないと俺も香織も分かっているから。
「うんう、もう気にしてないよ」こっちを見て少し微笑んで言ってくれた。香織の綺麗な顔がより一層際立つ。
「そうか、よかった」香織の心が読めなかった。
前までは何かがあったら必ず顔や表情、行動に出てきて簡単に読み取れていたのに今は仮面を被って本物の姿を見せないようにしているようだった。
「うん、だけどどうしたの急に」こんなに意味の無い質問を香織がするとは思えない。あれからまともに話してないのだからそれについて聞いてもなんにも不思議では無いはずなのに。おそらく香織は久しぶりに話したからここのチャンスを逃すとこれからは前みたいに砕けた会話ができなくなると思ったのか話を続けてきてくれた。そう思った。というよりそう思うことしか出来なかった。
「いや、特に意味はないんだけど、一応聞いておきたくて」
「そっか、でも私は大丈夫だよ、ありがとね。心配してくれて」
「いや別にいいんだけど、香織今ちゃんと考えないといけないこと他にもあるでしょ?それの邪魔になってたら嫌だと思って」修斗が告白したことを知ってる前提で話したがこれで香織がどう反応してくるかは未知数だった。
「え、、、なんの話」かなり驚いているようだった。
仮面を被っているとは言っても不意打ちには対応できないようだった。おそらくまだ告白のことを話していると断定はしていないだろう。だって俺が咲太だから俺が修斗だったら問答無用で分かっただろう。しかし俺は咲太である。つまりまだ告白の話だと断定するにはあまりに証拠が足りなかった。
俺が決心を決めて言おうとした時にチャイムがなり先生が教室に入ってきた。学校のチャイムはありえないくらいいいタイミングでなる。いつもならただの目覚まし時計なのに今は俺と香織の会話に水を指してきた意地汚いやつのようだ。だが、チャイムに救われたと思ってる自分もいるのが悲しいところだ。
「その話はまたあとで」香織はやはり気になるようだった。たが関心を持ってくれたということは事実を知るにはちょうど良かった。
「う、うん、わかった。」口から出てきたのは反射的に出てくる相槌的なものだった。
修斗の告白のことをどう聞けばいいか悩んでいたらその授業は眠れなかった。先生にも珍しく起きてるんだなとからかわれたがそれに返す言葉も思い浮かばなかった。寝てるよりも50分が早く感じた。時計の針はどうして止まってくれないのだろう。そう思った。
あっという間に50分が経ち、先生と1部の生徒は教室をあとにした。まだ黒板に書かれたことをノートに書き写している人もいる。部活のことや学校とはなんの関係もないたわいもない話をしている人達もいる。
だが、これこそが授業が終わり次の授業が始まるまでのたった10分の休み時間の間の普通の教室の姿なのだ。
そこに違和感を感じる俺の方が今はおかしいのだ。
「あの、さっきのこと」香織がこのときを待っていたように聞いてきた。
「えっとその」考える時間を埋めるように出てきたのはそんなことだった。言葉とは言えない幾つかの文字を繋ぎ合わせたようなものだった。でもそんな中ひとつの答えを導いた。俺が今、香織に言うべきことはオブラートに上手く包んだ言葉じゃない、芥川賞並の綺麗な表現でもない。自分の聞きたいこと、そして香織に聞かれていることを素直にそれ以上もそれ以外もない言い方で言うしか無かった。
「修斗に告白されたでしょ?」
「知ってるんだ」
「香織が告白される前からね」
「そっか、まだ返事してない私が悪いんだよね」
「それはないと思うよ」
「へ、?」香織はどこから出したのか推測できないような声が反射的にでたようだった。
「俺が体育祭の時にあんなこと言ったから、それ考えてたら告白の返事を考えるのにも多少は影響するだろうし、俺のせいだよな」
香織は一瞬驚いたような顔をしてから小さく笑った。
「なんだそんなこと気にしてたの?」香織の声には笑い声が混ざっていた。
「うん」
「大丈夫だよ、そこはあんまり気にしてないから」
「なんだ、よかった」香織の言葉に嘘が混じっているようには感じなかった。ただいつもの普通の楽しい時の香織の声そんな感じだ。だから素直によかったと思えたのだと思う。
「だって、本当に咲太が最低な人間だったとしても
私の知ってる咲太はいい人だから、私と接しているのが本当の咲太じゃなくても私には関係ないよ」
ただ友人を励ます言葉をかけただけ香織はそう思っただろう。だが俺はそれ以上に多くのものを感じとってしまった。
「ああ、よかった」香織に言われたことを胸の奥にしまい込むのに時間がかかったのか、単純に驚いているのかわからなかった。だが気持ちに整理がつくには少し時間がかかった。そして気持ちが落ち着くとひとつ疑問が浮かんだ。
「じゃあどうして告白の返事してないの?」口が俺の体のどこよりも早く動いた。
「うーん、単純に悩んでるだよ、というより恐れてるんだよ」さっき俺に言葉をかけてくれた香織はもうそこにはいなかった。
「どういうこと?」
「それは次の授業終わったらね」またいつもの香織がそこにはいた。
「じゃあ俺は次の授業も寝れないってことか」
「それなら今日の放課後に言った方がよかったりする?」ちゃんと冗談を冗談で返してきてくれた。
「できれば今がいいんだけどね」
「ちゃんと授業受けなさい」その言葉に安心した俺は
その前の会話を考えるのにあまり夢中にならなかった。寝ることはできなかったが、先生の話が耳に届くようになっていた。
さっきよりも50分はゆっくりと進んだ気がした。
授業が長く感じたのにそれにいい気持ちを覚えているのは1つ前の授業で考えていた事から開放され、気が楽になったからだろう。
だがまだ、話は終わっていない。さっきの「うーん、単純に悩んでるだよ、というより恐れてるんだよ」の恐れているとはどういう事なのか聞かないといけないからだ。
「さっきの恐れているってどういうこと?」頭の中でなんて聞こうか何度もシミュレーションしたが結局出てきたのは最もシンプルな言葉だった。
「私、咲太とこうやって話せるのが嬉しいの」言葉にどんな意味が込められているのかは分からなかったが言われた言葉を単純に受け取った自分は喜んでいた。
「そんなにストレートに言われても照れるけど、俺の質問の答えにはなってないよね」全く照れてない声で話せた。自分の浮かれて、照れてしまった部分よりも冷静でいた自分の方が大きかったのだろう。
「こんな風に冗談言ったり、世間話したり、たわいもないことを話す。全く意味も持ってない言葉なのにその言葉のバトンを繋ぐこと自体に意味がある感じがしてね。そういうことを他の人とも出来たらいいなって思ってる自分がいるの、だから最近少し話せるようになった柴崎君を振ったら、これまで通り咲太としか話せないのかなって思ってね」いつもよりもゆっくりひとつひとつの言葉を丁寧に気持ちを込めて言ってる香織の横顔は楽しそうででもやっぱり悲しそうだった。
「じゃあ修斗のことは振るつもりなんだ?」
何も言わずに香織はただ頷いてこう言った。
「私、柴崎君と仲良くなりたいって思ってる。たくさんお話したいとも思ってる。だけどそれよりも、、」
その先の言葉を見失ってしまったようだった。
「別に気持ちはそのまま伝えればいいんじゃない、
付き合うことができないことも友達になりたいことも
香織はいつも自分に正直にいればいいんだよ」
1番自分自身に言わなければいけないことを香織に言った。校庭の木は桜色からすっかり緑色に衣替えをしているのに僕の心はいつまでも冬景色だ。
「そうだね、ありがとう。やっぱり咲太は天才だね」
やっぱりとは言っているがこんなことを言われたのは始めてだ。
僕たちが話している間も香織が1歩先に進んでいる間も時計の針の進む速さは全く変わらない。ただ変わったのは次の授業で俺は今日初めて寝られたということだ。
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