こんなお母ちゃんはイヤだ。(3)
おれが最近、気に入っているもの。
それは 酒 だ !
甘いジュースなど、子ども向けのごまかし。3歳児の弟のアッチが喜んで飲むものである。
そう、おれは、酒 一 択 !
酒は、カッコいい!
ザッツ おとな!
それに、飲むとカラダがポカポカして気持ちいい!
これが 『よっぱらう』 ということなのだろう。
『よっぱらう』 と普段は怒られそうなことをしても、怒られない。
『よっぱらい』 最高だぜ!
「ねーねーお母ちゃん、今日もお酒買って!」
スーパーでお母ちゃんにねだると、 「はいはいー」 とすんなりカゴに入れてくれる。
お母ちゃんも、お酒が好きなんだ。
「お母ちゃんも飲もっかな」
「飲んで飲んで! いっぱい、よっぱらって! 今日はよっぱらい祭りにしよう!」
おれがあおってやると、お母ちゃんは日本酒のコーナーに行き、いくつか見てから、小さいビンを手に取った。
「えー! そんなんでよっぱらえるの?」
「日本酒は少しずつしか飲めないから、これでいいの」
「もっと買おうよー!」
「そうだねー。じゃあ食前酒だ」
おかあちゃんが今、気に入ってるのはグレープフルーツのチューハイだ。
「みろ! 合成甘味料・酸味料・保存料不使用! これがうまいんやでぇ!」
おれには何のことかよくわからない。
もっとカッコいい缶があるのにな。
お母ちゃんは本格的に飲む気になったらしい。
ナッツとチーズ、ポテトチップスとクラッカー、と、どんどんカゴに突っ込んでいる。
やった! 夜ごはんが楽しみだぜ!
「ねぇ、お母ちゃん。今日は何のパーティー?」
「今日はパーティーやない」 お母ちゃんは重々しく言った。
「コ○ナウィルスをアルコールで撲滅するんや! 諸君、これは 『いくさ』 である」
『アルコール』 がお酒のことだってのは、おれも知ってるぞ。
そうか。みんなを困らせてる、コ○ナウィルスまでやっつけられるのか!
お酒って、すごいなー!
夜ごはんの時間になった。
おれは自分のグラスに氷を入れて、待機する。
お酒は、グッと冷して飲むに限るからな!
しゅぽん、と音を立てて、おれのお酒のふたがあく。
英語の書かれた緑色のラベルが雰囲気ありまくりの、CAN○DA DRYだ!
「自分でつぐ!」
ふぅー。
お酒をグラスに注いだ瞬間にしゅわしゅわと立ち上る泡、たまんないぜ。
アッチのコップにはお子ちゃまジュースをついでやり、お母ちゃんが大人のグラスにチューハイをついで、みんなで乾杯だ!
「くぅーっ! しみるぜ!」
お母ちゃんも美味しそうにお酒を飲んでいる。
早く、よっぱらわないかな。
ワクワクして待つが、ずっとあんまり変わらない。
「ほら、ちゃんと食べなさいよ!」
言うことも普段通りだ。
つまんないな。
「ねぇ、お母ちゃん」 しびれを切らして、おれはついにきいた。
「まだ、よっぱらわないのー?」
「こんなもんで、ようわけないでしょー?」
「えー。早くよっぱらってよ!」
「まだまだぁ!」
チューハイが終わって、日本酒になった。
「うまいっ! 大吟醸うまい! さすが出○桜!」
お母ちゃんはご機嫌だが、おれは気にくわない。
……なんで、よっぱらわないんだろう。
ええい。こうなったら!
「お母ちゃん、おれよっぱらってきた!」
「えー、なんでジンジャーエールでようのよ?」
「おれは、ようんだもんね!」
お母ちゃんの膝にのって、ほっぺにちゅーをする。
「えーい! ちゅーちゅー攻撃だ! お母ちゃんもしてくれなかったら、もっとしちゃうからな!」
「あー、なめるのはだめ! 化粧水ぬってるからおいしくないよ!」
たしかに、苦かった。
「ぼくもぼくも!」
ちっ。アッチはすぐに、おれのマネをしたがるんだからな。
「ちゅーちゅー攻撃!」 「ちゅーちゅーこうげき!」
ふたりで膝にのって、両側からほっぺにちゅーしまくる!
「こーらー!」
笑いながら言われても、怖くないもんね。
やっぱり 『よっぱらい』 最高だな!?
「お母ちゃんもちゅーちゅー攻撃してー!」
「やだよ。どーせ逃げるんやろ?」
それが楽しいんじゃないか。
お母ちゃんは、ちっともよっていない、真面目な顔でこう言った。
「日本酒はもうすでにない。お母ちゃんがその状態になるためには、あとチューハイが推定2缶は必要や。
しかし、アイテムが足りぬこの現状……!
従って、ちゅー魔人は覚醒しない。
残念だったな! はーっはっはっはっ……」
「……そこの自販機で買えるで」
お父ちゃんが、ぼそぼそと言った。
「なぬ!? では、アイテム獲得に行ってくる! 後はよろしく頼んだ!」
「僕の分も頼むわ」
「ラジャーっ!」
サイフをひとつ持ち、夜の自販機へかけていく、お母ちゃん。
そしてこのあと。
覚醒したちゅー魔人がおそったのは、お父ちゃんだった。
おれをおそってくれなきゃ、いやだ。
※ご注意
アルコール消毒は、酒飲みのネタです。
各種ウィルスに対する実際の効力を保証するものではありませんので、その点ご了承願います。
(母より)