おれは怖い夢がすきだ。
いきなりだが、おれは、よく怖い夢を見る。
いちばん怖かったのは、崖から落ちる夢だった。
すごいスピードで落ち続けて、全然、地面につかないんだ。
――― 速すぎて、こわい。
絶対に無事に着地できなさそうで、こわい。 ――――
こんな話をすると、お母ちゃんはちょっとだけ困った顔になる。
「あんた日常でストレス溜まりすぎなんちゃうか。
何かイヤなこととか、あった?」
そんなモノはない。
たとえ、おれの幼稚園からの友だちが女の子にモテまくってて、おれの隣の席の子までがソイツが好きっぽくても。
そんなのは、大したことじゃないんだ。
…… 女はうるさいからな。 ……
「おれは、カッコイイのが良いから、そんな夢ばっかり見るんやで!」
お母ちゃんに、威張って言ってやった。
「え? なにそれ。つまり……」 お母ちゃんが考え考え、聞き返す。
「怖い夢を見たいってこと?」
「そうや! おれは強いからな!」
「つまり、怖い夢を克服するのがカッコいい、ってこと?」
「そうや!」
「へぇぇぇ……」
お母ちゃんの目、おれを尊敬してるな。
間違いない。
その晩、おれは夢を見た。
――― めちゃくちゃ長いウォータースライダーに、ひとりで入って、すんごく速く滑るんだ。
怖 い …… !
怖すぎて……
お し っ こ ち び っ た 。 ―――
おれは、目が覚めて、泣いた。
怖かったからじゃないぞ!
パンツがちょっと、濡れちゃったからだ!
…… 絶対に、怒られる。 ……
怖い夢よりもこわいのは、怒ったお母ちゃんなんだ。
「どうしたの?」
おれが泣いたのに気づいて、お母ちゃんが起きてきた。
「ふーん。じゃあまず、トイレ行って。パンツとズボン変えようか」
……あれ。意外と、普通だぞ。
「お布団は濡れてないな。偉い!」
……あれ。なんか、誉められてるぞ?
そうして、新しいパンツとズボンに変えても、まだちょっと泣けてしまう。
すると、お母ちゃんは、仕方なさそうに教えてくれた。
「お母ちゃんはな、2年生の時に、プールで溺れる夢で、めっちゃオネショしとったことがあんねん」
おれはまだ、1年生だからな!