こんなおれたちは強い。
節分のお話です。
1月も終わりに近づくと、おれとお母ちゃんの間にはこんな会話が交わされる。
「もうすぐ、おにはそと、だよね!」
「うん、来週また買おうね」
スーパーの季節もの売り場で、お母ちゃんに貼り付く 「買わないぞ」 の笑顔。
「えー! 今買ってもいいじゃん!」
「来週でじゅうぶん」
「どーせ、そう言うんでしょ!」
おれの鬼退治に寄せる熱い想いを、お母ちゃんはわかってくれていない。
豆まきは楽しいのだ。
強大な鬼!!
それを皆で力を合わせてやっつける!!
燃 え る ぜ !
しかし、お母ちゃんはこう言う。
「1人を大勢で倒すだなんて、イジメでしょうが。
お母ちゃんは絶対に鬼になりません」
ふんだ。
そして、豆まきの日がやってきた。
お父ちゃんが買ってくれたのは、本格的な鬼の変身アイテム。
早速、変身だ!
鬼になるのも楽しい。
鬼は強いからな!
絶対に、豆なんかには負けない究極の鬼になってやるぜ!!
「まずは、お父ちゃんがお手本を見せてやろう」
庭から入ってきたお父ちゃん鬼を、おれとアッチで退治する。
お母ちゃんは 「イジメ反対」 と皿を洗ってる。
……お母ちゃんも豆まきしてほしいのにな。
次はいよいよ、おれだ。
よし!
「がおーー! おーにーだぞ!!」
強そうに決まったぜ!
「この鬼め!」 「このおにめー!」
お父ちゃんとアッチが口々に叫び、豆を投げてくる。
あたるとちょっと痛いな。
でも、おれの鬼は強いから、そんなものじゃ倒れないのだ。
「がーおー! やっつけてやるー!」
バットを振り回し、お父ちゃんとアッチを逆に追いかける!
熱いバトルだ!
最後に。
「はぁ、はぁ……もういいわーこの鬼。しつこいわー」
お父ちゃんが豆を投げるのをやめた。
「こうさん?」
「降参、降参」
いぇぇぇい! やっぱりおれが、最強だぜ!!
おれは、お母ちゃんにも頼み込む。
「ねぇ、お母ちゃん、お願い!
お願いします!
お母ちゃんも鬼、やって!
お願い!」
お母ちゃんは、おれの頼みごとに弱い。
「え~しょうがないなぁ……」
しぶしぶ鬼に変身し、家の外へと出ていった。
わくわくするな。
やがて。
『ぴんぽーん』 玄関チャイムが鳴った。
「礼儀正しい鬼やな」
おれとアッチとお父ちゃんの、全員で出迎えると。
「こんばんは」 と言うお母ちゃん鬼に、みんなで豆を投げつける!
「あぁぁぁぁあ! やられたぁぁぁぁ!」
秒で逃げるお母ちゃん鬼。
それは、ずるい。
「なにもしないから、まぁどうぞどうぞ」
疑わしそうなお母ちゃん鬼を、無理やり引っ張り込んで椅子に座らせた。
よ し ! 攻 撃 だ !
おれは、ちょっとだけ優しいめに豆を投げる。
けど、お父ちゃんは、嬉しそうにバシバシと豆を叩きつけている。
「いたいいたいいたい!
……もう、やられたって言ってるやん!」
お母ちゃん鬼がキレた!
「イジメ反対!」 叫びながら、お父ちゃんをポカポカと殴るお母ちゃん鬼!
「この自己中悪魔を退治だぁぁぁっ!」
……鬼と悪魔って、どっちがわるいんだろう。
お母ちゃんが鬼からお母ちゃんに戻ったタイミングで、おれはアピールしておいた。
「おれは、お母ちゃんには優しくなげたんやで。
いたいのはお父ちゃんのやからな!」
「……ふーん……」
お母ちゃんはまだまだ不機嫌そうに、だけど、いちおう、おれの頭をなでてくれた。