こんなお母ちゃんはイヤだ。(2)
最近、お母ちゃんはおれとアッチの鼻にハマっている。
はじめのうちは、鼻の頭をくにくにと押されまくった。
「きゃあー! この柔らかさ、なんともいえないわぁ!」
と言いながら、ボタンを押す要領で、鼻をつぶしにかかるのだ。
そして、そのあと。
「鼻が押しすぎでカッコ悪くならないように、形を整えてやるな」 と、今度はキュッキュッ、とつまんでくる。
正直いって、イヤだ。
「うそつけ。そんなんで形が変わるか」
とツッコミ入れると、真剣に反論された。
「いーや! 変わる!」
お母ちゃんは小学生の頃、カッコいい形の鼻になりたくて、鼻の頭をせっせとつまみまくっていたそうだ。
「だから見い。お母ちゃんの鼻は、キュッとカッコいい形になってるやろ!」
……絶対、うそだ。
「あんたも今からつまんどけば、きっとカッコいい鼻になれる!」
「そんなん、あるわけないやん」
「お母ちゃんはな、んーと……5年! 5年くらいは頑張った!
そしてある朝ふと見ると、カッコいい鼻ができあがっとったんや」
……ほんとかな。
「というわけでな、2回押したら4回引っ張っとけば、絶対にカッコいい鼻になれる!
さぁ、後で引っ張ってやるから、取りあえず押させてくれい!」
「いやや!」
おれとお母ちゃんのバトルが始まる。
鼻は、おしりと違って前にあるから、ガードしやすいな。
それに、鼻を押されるのはイヤだが、バトルはけっこう好きだ。
「スキあり! ピンポーン!」
あっ……くそぉぉぉぉっ!
「よしよし、今度は引っ張ってやるから!」
これ以上、触られてなるものか!
ガード! ガード!
徹底ガードだ!!
「あーん、もう! ヒロくんのケチ!」
お母ちゃんが、ついに諦めた。
「引っ張っといた方が、カッコいい鼻になれるのに。 さっき1回つぶしたから、現状回復は必須やろーに……」
「そんなん絶対にないわ!」
お母ちゃん、「キミは歳月の重さを知らんな」 とブツクサ言いつつ、片付けを始めた。
……後で、おれはこっそり、自分の鼻を引っ張っておいた。




