そんな料理はイヤだ。
朝のお母ちゃんはいそがしい。台所を行ったりきたりコーヒーのんだりしながら、おれとアッチの朝ごはんを作って水とうをつめて、カバンやマスクといっしょにそろえてくれる。(ちなみにしょっちゅう、どれか1コ忘れてる)
でもある朝、お母ちゃんが言った。
「ヒロくん、目玉焼き作ってみるか?」
「えっ、なんで?」
「お母ちゃんが子どものころ、家庭科実習で 『おれクッキ○グパパ』 とか言いながらすいすい料理作ってる子がいてな、それがめちゃくちゃカッコ良かったんや。料理できるとモテるぞー」
「それはどーでもいーかな。おれリア充なんてめんどうだし。ばくはつしろ」
「小学生でかれるな、ヒロくん……!」
「でも目玉焼きはつくれるようになりたい!」
「よしよし。えらいぞヒロくん」
「おれが自分で作れば、黄身がとろとろの卵がいつでも食べられるもんね!」
「…… いや。お母ちゃんも、とろとろで火を止めるんやで。そのあとやな、ちょっとアレコレしてる間に余熱で」
しょーがないな。やはり、おれが目玉マスターになるしかない。
まず、お母ちゃんに教えてもらったとおりに、フライパンに油をいれてガスの火をつける。油がじんわりのびていくのが、おもしろい。
いよいよ卵をわるぞ!
「こうな、シンクの角とかつかって、卵をコンコン当てて、ひびを入れて……」
お母ちゃんの手からフライパンの上に卵の、とうめいでツヤツヤした中身がポトン、と落ちてジュッと音がした。
よし、おれもやるぞ。
まずは角にコンコン…… あっ。
ぐしゃっ。
おれの手のしたで卵は、かいめつしてしまった。
「おっと」
お母ちゃんが、流しに落ちそうになった卵を手ですくって、フライパンに落とした。
「セーフ」
「それセーフっていわんやろ!」
黄身の部分が完全につぶれて、全然おいしそうじゃない。
「いいや。セーフや…… いいか、ヒロくん、覚えておきなさい」
お母ちゃんは、すごくまじめな顔になった。
「食材は、火を通せば食べられるんや!」
「そんな料理イヤだ」
「そうかー? 料理に対する勇気がわく、名言だと思うけどな」
「次は成功させるぞ!」
こんこん、しんちょうに卵にヒビを入れる。
フライパンの上で、割る。
うまくいった…… あっ。
べしゃ。
フライパンに着地したしょうげきで、卵の黄身がつぶれてしまった……!
「おれ、やっぱり才能ない。もうやめる」
「そんなあんた、たかが2回の失敗で。最初はみんなそんなもんや。何度もやってたら、なれてくんねん」
塩で味付けして、水を入れて、ふたをして……
「とろとろが好きやったら、早めに火を止めるで…… 黄身がピンクになったらもう遅い。黄色のうちに止めて、余熱で仕上げればちょうどちゃう?」
お母ちゃんの言うとおりにしたら、お皿についだときには卵はやっぱりトロトロじゃなくなってた。
「お母ちゃん……!?」
「あれ、おかしいなあ。あかんかったか」
まーこれもおいしいやん、ヒロくんがはじめて作った目玉焼きやで、味付けも上手にできたねー。
お母ちゃんはニコニコしながら、黄身がつぶれて固くなった目玉焼きを食べた。
…… こんなんおいしいわけないやん。
お母ちゃんはおおざっぱすぎるから、いつもトロトロの目玉焼きが作れないんだな。
「いや、お母ちゃんは実は、黄身がかためが好きなんです」
―――― おれ、やっぱり目玉焼きマスターになろう。
あらたに決意をした、おれだった。




