おれがはじめて、ひとりでねた話。
今年の3月ころの話です。
「お母さんといっしょにねるのは、赤ちゃんやで。自立してないしょうこや」
最近お父ちゃんが、おれをあおってくる。
「ちゃうわい! ひとりでねるのがさびしいだけや」
「それが赤ちゃんや。やーい赤ちゃん」
うぜえ。お父ちゃんうぜえ。うっせえわ。
―― けど、おれもあとちょっとで4年生だしなあ。そろそろ、ひとりでねなきゃダメかなぁ。
おれとお父ちゃんは話しあった結果、3月までは1日おきにひとりでねて、4年生になったら毎日ひとりでねることにした。
それを言ったら、お母ちゃんがイラッとした顔をした。
「お父ちゃん、よけいなこと言うなぁ! ひとには好きな場所でねる権利があるやろ。いっしょにねたら自立してないんやったら、なにか? ワンルームに家族でくらしてる人たちはみんな自立してないんか?」
たしかに。そんなあほなことはないな。
「あんたに教えといたるわ。お父ちゃんがな、なんで熱心にあんたをひとりでねかせようとするか、っていうと、お父ちゃんのお母ちゃんが 『小学生になったらひとりでねかせなさい』 って主張してるからやで。いいトシしてほいほいママの言いなりになって、自分で考えてないのは、さて、だれでしょーねー?」
お母ちゃんは、この前の休みにお父ちゃんのお母ちゃん (つまり、おれにとってはおばーちゃん) から 『ふーふはいっしょにねるもんです。子どもはひとりでねかせなさい』 とか言われて、かなりアタマにきてるのだ。
おれもそのやりとりを聞いていたけど、そのときお母ちゃんは 『その辺は◯◯さん (お父ちゃん) にいってくださいね! 勝手にひとりでねることにしたのは◯◯さんですから。子どもたちが生まれてから1回も、ねかしつけしたことないんですよー◯◯さんったら♡』 と、めっちゃニコニコしながら答えてた。
けど、そのあと、なにかあるとイライラしたかんじで 『きめぇ。ひとんちのしんしつに口出しするとかマジきめぇ。ボケてんのかな?』 とボヤくようになったんだ。
おれが聞いてると、あわてたみたいに 『いや、おばーちゃんに悪気はないねんで。そういう価値観だっていうだけで。価値観のおしつけはいけないと思うけど、悪い人じゃないねんで。ただ、やたらとおしが強いだけで』 とフォローになってないフォローをする。
「かといって、ヒロくん。君がお母ちゃんにそんたくする必要もなければ、お父ちゃんの言うことをそのままきく必要もないのだよ。自分で考えて、いいと思う道を選びなさい」
「うん。じゃあおれ、とりあえず今日はひとりでねてみるね!」
「さよか」
お母ちゃん、ちょっと残念そうだ。
「さびしくなったら、いつでもきていいからね。それか、ぬいぐるみといっしょにねるか?」
「うん。さすがにぬいぐるみはないわ」
そんなわけで、はじめてのひとりねだ。場所は、おれがいつも勉強する部屋。
電気を消して、使ってないベッドにはいる。おふとんが、ふかふかだ。お母ちゃんが、かわかしておいてくれたんだな。
こうやってみると、くらい部屋はすごく広くみえる。
さあ、ねるぞ。
ドキドキしながら、目をぎゅっとつぶった。
外から、バイクの音がきこえる。なんか水がバシャバシャ流れてるみたいな音もきこえる。あ、きゅうきゅう車だ。けがしたのかな。病気かな。
「母ちゃん」
「お。どうした」
「やっぱり、さびしいから明日からにする」
8/6 誤字訂正したました。報告ありがとうございます!




