おれとお母ちゃんと宿題と。
アッチの七夕のお願いごとは、たくさんあった。
『せかいがへいわになぬように』
『みんながいっぱいすごせるように』
『きもちくねれるように』
アチコチまちがえてるところが、アッチらしくてかわいい。
アッチはやっぱり 『かわいい』ぞくせいなんだ。
―――― うんうん、おれも、むかしは張り切っていっぱいお願いごとを考えたな……
だがおれは、もう、ようちえんじゃない。
七夕なんかに、はしゃいだりはしないのだ。
大雨でけいほうが出て、学校に行けなかったくらいだから、今年はおりひめさまとひこぼしさまも、会えないだろうし。
ちなみに、おれの願いごとはただひとつ。
『あたらしいベイブレ◯ドがもらえますように』
おっと、これはサンタさんに、たのむやつだった。
お母ちゃんが
「七夕は、なにかが上手になりますように、ってお願いするといいんだよ」
なら、おれのお願いごとは、コレいったくだ。
『習字が上手になりますように』
お母ちゃんの目が、キラーン、と光った気がした。
次の日。
「今日からお母ちゃん、アンタの宿題にチェック入れるから!」
「ええええ!?」
「アンタな、字がいい加減すぎるねん。本当やったらマルもらえるところが、それでバツになったりしてるやろ? 習字のつもりで、ていねいに漢字書いてみなさい!」
「なるほど……!」
よく 『ていねいに』 って言われてたんだけど、 『習字のつもり』 は気がつかなかった。
「ほら、もっとお手本よく見てごらん! ハネとハライと真ん中ライン! 右、左のバランス! その線はこの辺り書いたら、キレイに見えるやろ!
…… アンタちゃんと書いたら、めっちゃキレイやん!」
「そばでホメられてると、ヤル気が出るんだよ」
「…… いや、お母ちゃん、夕ごはんの用意あるからな。お母ちゃんも頑張ってゴハン作るから、アンタも頑張れ!」
「えええー おれ、ねむくなってきた……」
「くぉらっ! やれ! やるのじゃ!」
けど、おれにも、だんだん 『ていねいに書く』 のがわかってきた気がする。
先生から、花マルももらえるようになったのがうれしい。
宿題はもちろん、漢字だけじゃない。
計算もあるし、国語の音読もある。
お母ちゃんが、『およげ!たいやきくん』 のかえ歌で、おれに宿題させる大変さをうたったりしてるけど、おれだって大変なんだ。
今、国語では、『はいく』 をならっている。
宿題の音読を何回もしてるうちに、おれも、ごーしちごーを作りたくなった。
『夏の夜 夜も聞こえる 蝉の声』
お母ちゃんの目が、キラーン、と光った気がした。
「素材は良しとしよう。だが、『夜』 がかぶってる上に、『夏』 と 『蝉』 という季語もかぶっている。ここを変えることによって、もっと 『暑いダルい宿題なんてやってられるか……!』 という気分をあらわすことが、できるはずだ」
おれとお母ちゃんは、いっしょに考えた。
『うだる夜 耳にこだます 蝉の声』
うん……!
なんか、それっぽい!
おれはノートの切れはしに、習字の気持ちでしっかりと、はいくを書きつけた。
明日、先生に見てもらうんだ。
ほめて、もらえるかな。
『およげ!たいやきくん』 歌:子門真人、キャニオンレコードほか
我が家では、宿題やらせるのイヤになったお母ちゃんがお腹の脂肪にめげず空を飛ぶ趣旨の替え歌なんかして、親子でゲラゲラ笑いまくってますが……
ここに載せると、何やら問題ありそうなのでやめときます。残念。




