おれとお母ちゃんと、イチゴのこびと。
春休みが終わって、三年生になった。
「おれ、二年生のかん字まだ全部おぼえてない!」
「あんた、本、読まへんからなー」
お母ちゃんが言った。
「本読んでると、漢字は自然に覚えるんやけどな」
「え、そうなん!?」
「うん。本には色んな漢字が書いてあるからね」
よし、おれも本を読もう。
…… って気に、なれるといいんだけど。
実はおれは、学校の読書時間だけで、おなかいっぱいだ。
「あー! でも、買ってほしい本はある!」
「何やねん」
「こびとづかん! おれ、さいしょは、こびとなんて信じてなかったけど、ユーチューバーさんが見つけたりしてるからね! 本当にいるんだよ!」
「おう、そうか……」
「おれもこびとづかん買って、こびとはかせになりたい!」
「じゃあ、考えとくわー」
こびとは、見つかりにくいけど、実はたくさんいるんだ。
家にもコッソリ住んでるこびとがいて、物のおき場所をかえたりしているんだって。
本当かためすために、おれはげんかんのくつに注目してみた。
まず、ねる前に、くつをきちんとならべ直しておく。
それで、朝起きたときに動いていたら、それは、こびとが動かしたってことなんだ。
「アッチ! みてみて! くつが動いてる!」
「ほんとだー、ちゅごい」
「こびと、やっぱりいるんだよ!」
ほかのこびとも、さがしたいな。
「お母ちゃん、知ってる? イチゴの中にも、こびとがいるんだって。あまいイチゴは、こびとが近くにいた、しょうこなんだよ」
「へえー。そうなんや」
お母ちゃんはニコニコした。
「そういえば、昨日イチゴ洗ってた時、何か小さいのが逃げていったな」
「ええ! うそ! どんなのだった?」
「速すぎて分からなかったわー」
「ああ、じゃあ、ちがうな。イチゴのこびとは、イチゴのフリをしてじっとしてるはずやで」
「でもさー。洗われたら、命の危機を感じて火事場のなんとやらで、必死に逃げて行ったかもしれへんで?」
「そっか……! じゃあ、おれも、イチゴ洗いやる! お母ちゃん、またイチゴ買って!」
「おっけーおっけー。イチゴ安くなっとったら、買ったるわ」
それから、おれは、いろんなイチゴを洗うのを手伝った。
ゆうべに、さがほのか、紅ほっぺ、あまおう、いちごさん。
小さいイチゴは、たぶん、こびとがかくれたり、できない。
ねらうなら、大きいイチゴだな。
「ほら、みて! こびとさんがかじった、あとがあるよ!」
「おっ、ほんまやー。じゃあ、いたのかもね」
「ぜったい、いたんや!」
おれのこびとさがしは、まだまだつづく。
参考資料 : なばな としたか 『こびとづかん』 ロクリン社、同関連書籍
(あたりではないかと、母は勝手に推測しております)




