おれとお母ちゃんとアッチの、動画デビュー。
お父ちゃんが、使わなくなったビデオカメラをくれた。
これは…… おれに、ユーチューバーになれといっておるな、お父ちゃん!
ということは、残念ながら、ない。
おれはめちゃくちゃ、ユーチューバーやってみたいのだが、お母ちゃんは 「よくわからないから、お父ちゃんに、たのめ。顔出しはするなよ」 って言うだけだし、お父ちゃんは 「あほか」 って言うだけだ。
くぅぅぅっ。
今のうちに技術をみがいて、しょう来はりっぱなユーチューバーになってやるぜ!
まずは、お母ちゃんとアッチと、公園に行く動画のさつえいだ。
「ねえねえ、お母ちゃん! 何かレポして!」
「ええっ、いきなり振るなよ……」
「して!」
「…… ただいま、ヒロくん、アッチ、お母ちゃんの3人は、近所の公園に向かっております。そちらはですね、えー、創業○年のゆいしょある公園で……」
「お母ちゃん、下ネタ禁止!」
「アホ。○年のウンは、ウ○コのウンではなく、適当にごまかす時に使うウンなんや!」
「そっか…… じゃあまぁ、いいわ」
「こちら右手は、地元民の生活の場、スーパーマーケットです。おおっと、アッチの速度が落ちた。
アッチは只今、つなわたりに挑戦しております」
アッチは、道路のわきの細い出っぱりの上を歩くのに、ハマっているのだ。
「おおっとアッチ、なかなか上手い! しかしゴールまではまだまだ…… ええっと、ここからしばらくは早送りでお願いします。早送り早送りー!」
アッチはゲラゲラ笑いながら、それでもマイペースに、つなわたりしている。アッチはいつも、マイペースなんだよな。
公園につくと、いよいよ、本番開始だ!
おれはビデオカメラをかまえて、すべりだいをした。
「お母ちゃん、おれのとった動画、見てみて!」
「おお、なかなか上手やん」
「これはね、実際にすべってる感じにしてみたんだよ」
「うん、わかるわかるー」
よし、アッチもとってやろう。
「ね、アッチ! このロープの橋、ちょうせんしてみて! おれが動画とってやるから!」
「ええ、でも、ここ、こわいよう」
ロープをあんで作った橋は、下がすけて見えるから、アッチはこわがってわたらないんだ。
けど、動画なんだから、何かチャレンジしなきゃいけない。
それに、この橋は、本当はそんなにこわくない。
「ほら、だいじょうぶだから、がんばれ! だいじょうぶやって! ほら、行って!」
アッチは泣きながら、ロープの橋をわたった。
「ほら、行けただろ!」
「でも、こわかったよう」
「お母ちゃん、アッチがんばったよ! 動画みてみて!」
「おお…… ほんまやなー、アッチめっちゃがんばったなー、ヒロくんも上手にとったやん」
…… けど、アッチの泣き声が入ってるのが、気に入らないな。
もうちょっと、楽しそうなのがいい!
「アッチ! もう1回、やってみて!」
「もう、いやだよう。こわかったよう」
「やれよ。できるだろ!」
「うわぁあん! ヒロくんがあ! うわぁぁあん!」
ついに出た。
アッチの、泣き泣きこうげきだ。
これが始まると、お母ちゃんがとんでくるんだ。
「ヒロくん…… アッチに頑張ってほしいという気持ちはわかるが、人にはそれぞれ得意・不得意というのがあってやな。あまり無理やりさせると、ストレスになるから……
また、明日にしようか」
「あしたも、いやだよう!」
「うん、じゃあ、またもうちょっと大きくなったらな」
しかたないなぁ、もう!




